でろでろ 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ漫画>でろでろ

執筆日2015年2月17日

評論

2015年2月現在は特にこれといった続報がないが、著作権侵害によりSNKプレイモアから訴えられた作品「ハイスコアガール」。
その作者、押切蓮介氏のハイスコアガールより以前の代表作が「でろでろ」だ。2003年から2009年まで週刊ヤングマガジンで連載された。

現状、ハイスコアガールが悪い意味で有名になってしまっている。しかし押切作品をある程度知っている人間なら分かるだろうが、氏のルーツはホラーギャグである。妖怪や幽霊を絡めてギャグに落とし込む、という作風だ。これはでろでろ以前の短編作品でもほとんど一貫している。だが氏は2007年から2009年まで、雑誌CONTINUEにおいて、幼少のゲーム体験を元にした漫画「ピコピコ少年」も連載していた。これが土台となり、ゲーセンを舞台にしたラブコメであるハイスコアガールを描くようになった、という流れだろう。
ここではハイスコアガールの話は適当に触れつつ、「でろでろ」という作品についての簡単な評価を書きたい。漫画の場合は全巻読んだ作品だけを感想書くようにしてるのだが、「全話読んだ漫画って割と少ないなー」と考えてみたところこの作品が挙がった。部屋の本棚に全巻そろってたこの漫画の評価を書く流れになったわけだ。

このでろでろは間違いなく押切氏の代表作なのだろうけども、恐らくハイスコアガールよりも知名度は低い。重ねて言うが自分は全巻持っている。全13感、近年出た新装版も全巻ではないが購入している。
内容は、奇しくも現在もアニメ、ゲームで大ヒット中の「妖怪ウォッチ」に非常に似通っている。
要するに、「あるあるネタ」だ。日常のあるあるは実は妖怪の仕業だった!そんな話である。本当、丸被りなんだよなあ。

登場人物は日野耳雄という強い霊感体質の暴力的でバカな中学三年の男子、それにその妹でクールビューティーな中学一年生の日野留渦、この兄妹は事情により両親と別居している。そしてその兄妹のペットである犬のサイトーさん、耳雄の友人の委員長、耳雄と同じく霊感体質の薄幸少女の相原岬、ガチャピンっぽい見た目の、妖怪でありながら映画監督であるカントク、などがメインキャラクターとなる。

物語の流れの基本は、日常の中で妖怪の力により異常事態→耳雄が暴力で解決、というものである。そして作風は小学生かよ!みたいなしょうもない下ネタやノリが多い。くだらない内容だと言えばそうなのだが、押切氏のヘタウマな絵と内容に妙な親和性がある。「〜しくさってからに!」などのような独特の言い回し、勢いがクセになる。

絵から内容から、どうしたってメジャーにはなれない作品なのだが、10年以上前にこの作品の初めて触れて何に惹かれたかって、日野兄妹の存在だったと思う。
兄の耳雄は重度なシスコンであり、妹のためなら自分の寿命をためらいもせず犠牲にする。妹の留渦はそんな兄を鬱陶しく思っているのだが、それでも気にかけてやったり、ピンチを救ってやったりしてくれるのである。
この兄妹がなんか見てて面白く、微笑ましく、そこがこの作品の魅力の一つだ。
というか、実は留渦のほうも自覚のないブラコンだったりする。これは2013年に出たでろでろの「新装版」に収録された描き下ろしエピソード、原作最終話よりもさらに時間軸が後となる、いわば本当の最終話において明らかになる。耳雄が相原とデートのごときものをした、という話を聞いて何かモヤモヤした感情を露にするのだ。

初期からこの作品を追ってきた身としては、このシーンがなんか妙に感慨深くてね。これを最終話にもってきたってのが憎いと思った。
初期の留渦は本当に、兄である耳雄を邪険にしてることが多いわけだ。でも実は兄がシスコンだった以上に妹がブラコンだった、っていうね。なんかこのへん、凄いリアルに感じてしまうんだよなあ。「お兄ちゃん大好き!」みたいなありえないフィクションブラコンとは違う、実際に仲良い兄妹にありそうな感じ。
両親とは別居してた兄妹。いつも騒がしくて鬱陶しくてシスコンでバカな世話の焼ける兄がなんと同級生とデート!?あ、そうなんだ…ふーん…。
みたいなね。嫉妬とまではいかないものの、モヤモヤした感情を持つ留渦。でもって、一時はそう感じたのだけれどもその後は気持ちを切り替え、「お兄ちゃんの初デート祝い」として夕食を作ってたりするわけですよ、この留渦。本当、兄を思ってくれてるわけですよ。そこがまた可愛いなと。
こういう生々しいブラコン描写を描いた漫画を自分は他に知らない。妹なんていうと大抵は極端なキャラ付けがされてしまうところだからね。メジャーどころで例えると、「Toloveる」の結城美柑の初期に近い感じだろうか。でもあれも結局お兄ちゃん大好きっ子になってしまったし…。
とはいえこの留渦も初期から一貫してキャラが変化していないわけでなく、巻が進むにつれて兄に対する態度も少しずつだが軟化していく。初期から終盤まで、留渦の変化に着目していくと面白いと思う。ホラーギャグというジャンルではあるが、妹キャラ好きな人にお勧めしたい作品。

日野留渦

ヒロインの日野留渦。押切ヒロインでは定番の黒髪ロング美少女の原型になったキャラ。よく糸目になるのが可愛いと思います。

項目別評価

妖怪ウォッチと丸被りなテーマではあるが、正直しょうもない、くだらない漫画だと言えばその通り。だが、ヘタクソと断じるよりは「ヘタウマ」とでも言うべき絵に妙に味があるのも確か。そして上記の通り、兄妹が見てて微笑ましく、特に留渦というキャラがツボだったというのがこの作品に惹かれた理由だ。
ギャグとか作風に関しては初期の方がキレッキレだと思う。特に1巻〜3巻くらいまではどの話でも笑わせてくれた。それからはギャグ漫画としては低空飛行を続ける感じだけども、ジャンル上、ネタ切れはしょうがないところだろう。
それと中期あたりから、作風も、絵もあからさまに丸くなってきている。良くも悪くも押切氏が大人になっているという感じを、2003年から連載終了まで追い続けたファンとしてはひしひしと感じた。
でろでろという代表作を持ち、それとは別に「ゆうやみ特攻隊」や「ミスミソウ」といったマイナーながらも個性的な作品もコンスタントに輩出し、漫画家としてのキャリアを着実に積み、ハイスコアガールという2つ目の代表作も生まれ、さらにアニメ化により漫画家として隆盛を極めるはずだったのだろうが…。
光が強ければその分影も濃く落ちる。押切氏がでろでろの巻末やpixivでも自虐ネタとしていた「俺クオリティ」もまた、過去最大のものとして氏を襲ったということだろうか。
それはともかく、ルーツはホラーギャグなんだから、大人しく代表作のでろでろをアニメ化してくれよ…というのが個人的な思いだった。同じくホラーギャグではあるが、ハイスコア以前にプピポーがアニメ化した時とか、なんででろでろじゃないの!?と本当に頭をひねった。ジャンル被りになろうが出版社が違おうが、ハイスコアじゃなくてでろでろをアニメ化すれば何も問題は起きなかったろうになあ。動く日野兄妹は是非とも見たかった。どっちにしろハイスコアガール同様にもう叶うことはないのだろうけど…。

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