寄生獣(漫画) -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ漫画>寄生獣(漫画)

執筆日2014年12月03日

評論

最近、空前のリバイブルブーム!なんて大げさなものではないが微妙に昔の作品が実写化とかされることが多いように思う。
例えば、「るろうに剣心」「セーラームーン」「地獄先生ぬ〜べ〜」、そして実写化もアニメ化もされたこの「奇跡獣」だ。リバイブルブームというのは定期的に訪れるらしいが、その一つの波なのだろうか。

ある程度漫画を知っている人間に「お勧めの漫画教えて!」と聞くと高確率で上がってくる作品だ。
連載期間は1990年〜1995年と古く、作者、岩明均の絵もはっきり言って綺麗ではなく非常に地味、絵柄に魅力があるかどうかと言えば決してそうではない。にもかかわらず2014年になっても変わらず間違いなく名作であるといわれる作品だ。その評価には一切のバイアスも尾ひれも補正もかかっていないということの証拠だろう。そしてだからこそ今さらにアニメ、実写化されているのだ。

何の変哲もない男子高校生、星新一の片腕に地球外生命体「パラサイト」がとりついてしまう。新一の片腕にとりついた個体は「ミギー」と名づけられ、新一とミギーは共存することとなる。パラサイトは自由自在に凶器などに変形でき、人類を上回る戦闘能力を持っている。そして他にも多数存在するパラサイトとの遭遇、戦いを経て新一は成長していき、また、ミギーとの友情も育んでいく物語である。

寄生獣というタイトルは当然、人体に寄生するミギーたちパラサイトを指した言葉ではあるのだが、終盤で別の意味が明らかになる。パラサイトに対して敵対どころかパラサイトの味方として、頭脳として動き、最後には射殺されることとなる人間、広川市長による演説の中にあるが、地球を汚しつつ生きる人類こそが汚らわしい寄生獣である、というのだ。
まあこういうテーマ性も込められている作品ではあるのだが、こういう環境破壊を行う人類自身の皮肉を込めた作品というのは、別に珍しくもないし、この作品におけるそれはむしろ、「だがそれでも人間は素晴らしい」という前振りとなっている構成だ。

この作品の最大の魅力は、新一が得てしまったミギーの力に翻弄され苦しむ一連の流れ、そして超常的なものに翻弄されるただの人間たちの等身大の姿にある。この作品はそういう、ただの弱い人間のありふれた、しかし胸を打つドラマが描かれる。
新一はじめ、新一の父親母親、新一のガールフレンドの里美、家族を殺されてしまった探偵の倉森、最終巻に新一が行きずりで出会う老婆の美津代など、どれをとっても超人がかった人物など存在しない。この作品には凡人しか存在しない。その絵柄が象徴するかのように、どこまでも背伸びしていない作風がまたこの作品を魅力的にしている。
パラサイトの一体である田村玲子は、そんな人間の感情を知ろうとする稀有なパラサイトだ。彼女は徐々に人の心を理解するが、あえて自身が助かる道を拒み、力尽きる。その姿により母親を失った新一が救われるシーンはまた作中最も感動的なシーンでもある。

バトル漫画としてもよくできている。
ミギーは優れたパラサイトではあるが、複数のパラサイトを宿した相手には苦戦を免れないことなどもあり、対パラサイト戦での新一&ミギーの戦闘能力は割と平凡な部類になる。それを頭脳を使った戦術でひっくり返すのは見ていてハラハラするところであり、また納得のいく展開なので面白い。ラスボスである後藤などはほかのパラサイトと比べると桁違いの能力であり、「こんなのにどうやって勝つんだよ…」と読者を絶望させてくれる。最終戦はややご都合展開な部分はあるものの、新一の心理描写がそれまでに丁寧に描かれているため、新一の捨て身、決死の覚悟が生んだ奇跡として、これもまあ納得できる。

不満点もないわけではないのでせっかくなので書く。
出会う女ほぼ全てが新一に惹かれる、恋愛脳である点。これが過剰すぎる点もあって読んでいて鬱陶しく感じる。パラサイトを宿したことにより攻撃的、良く言えばワイルドになった新一を描写する手段として使っているのだろうが…。新一が会う女会う女ことごとく、「あら素敵…」って軽く落ちている。
おそらくこれに悪印象を抱くのは、スケバンの加奈が徹頭徹尾、新一に惹かれていて、警告されても奔放に動いて結果として死亡するという結末だからなのかもしれない。加奈はヒロイン里美とは別の方向から新一に近づき、話を賑わす存在ではあるが、感情だけで動いてるもんだからただの馬鹿な女という印象を抱いてしまう部分がある。
これは世相を反映している部分もあるかな、とも。元々は冴えない大人しめの人間がガラっと変わってモテ始める、なんてのはいかにも90年代の発想っぽいと言えばそうだ。

バトル成分も多い漫画だが、地味な絵柄なのに演出や丁寧な心理描写に人間ドラマとして胸を打たれるシーンが多い。結末近くでミギーがこう言う。「他人を思いやることができる余裕のある生物、それが人間。素晴らしい!」と。この作品はつまり、人間賛歌が真実のテーマだ。
面白い漫画に必要なのは画力ではない、丁寧なストーリー構成やキャラクター設定、心理描写なのだと、この作品を読むと思う。
関係ないが、アニメ版、実写版は見てはおらず、全く興味がない。どうせ漫画版を超えることはないだろうし(特に漫画の実写版なんて地雷でない例のほうが珍しいし)、映像化する特典が別に存在しない作品だとも思うので。

項目別評価

恐らく、1話時点で物語の着地点は決めていたのだと思う。短すぎず長すぎず、美しく構成された話の流れとなっている。あまりアクション部分に動きが感じられず、背景とかもところどころえらく簡素だったりするので画力は低めにしたが、この絵だからこそ、という妙なマッチングがあるのも確かなので数値そのままの意味ではない。

凡人の感想・ネタバレ漫画>寄生獣(漫画)