レベルE(漫画) -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日2015年03月30日

評論

1995年から約3年に渡り週刊ジャンプで連載された、冨樫義博のオムニバス形式作品。
当時は週刊ジャンプを購読していたのだが、94年には言わずと知れた名作「幽遊白書」が連載終了。バトル漫画終了から間を置かず発表された新作が宇宙人もののSFであるというから当時驚いたもの。

しかし、幽遊白書を全て読めば分かることだが、終盤からはどこか達観したような作風になってきていたことも確かだった。あまり少年漫画らしくないものになっていったというか、現実の残酷さ、非情さとかそういうものを描くようになっていった。だから題材には驚きつつも、レベルEという作品で唐突に作風が変わったという印象は抱かなかったのも確か。「冨樫義博って昔は普通にバトル漫画描いてたけど、今はこういうの描くようになっちゃんたんだなー」なんて子供心に思ったのだった。

今、幽遊白書の序盤とか見るとあまりに真っ当に少年漫画していて驚くからね、本当に。絵柄とかは大きな変化はない(というか昔の方が丁寧に描いているので上手いかも)のだが、ごく序盤の幽助が幽体でしばらくフワフワしてるときのエピソードとかはホント人情味があるものが多くて、レベルE以降の悪趣味がちな作風に慣れていると「本当にこれが冨樫義博なのか?」と思う。

多分作者の心は週刊連載で擦り切れたのか、あるいは年を食ったのもあって達観に達しつつあったのだろう、なんてことはこのレベルE掲載時にも思っていた。こうまであからさまに作品を通して人の心が透けてくるというのも珍しい。簡単に言えば、絵柄にしても話にしても、脱力して気張っていない感じになったのだよな。作者自身が当時の心の変化を何か語っていたのかとかそういうことは知らないが、少なくとも幽遊白書の序盤のフレッシュな心ではなくなっているのは、幽遊白書の終盤からこのレベルEを読むだけで十二分に伝わってくる。

とまあ、いかにも作者の変化が悪しのように語ってしまったが、決してそうではないからこその、鬼才、冨樫義博なのだろう。絵柄に関してはまああからさまに手抜きが増えてきてネームみたいのが掲載されるようになったのはこのレベルEからハンターハンターまでずっとそうなのでこっちは褒められるものじゃないだろうが、肩の力を抜き、自分が描きたいものを描くようになったっぽいレベルE以降こそが、冨樫義博の本領とも思える。
このレベルEにしても、全3巻のオムニバスと非常にコンパクトなものの、どのエピソードも印象に残り、掛け値なしに面白いから凄い。

この人の作る話は、まず前提からしてよく話を考え付くなーなんて感心するが、話の流れはさらにそれを上回ってくる。予定調和ではなく、多くの場合はさらに斜め上を行く。
今これを描く前に3巻を読んだのだが、バカ王子の婚約騒ぎの話では王子が偽婚約者と結婚するという選択をしたことで驚かせたと思えばさらに実は本物の婚約者がそれを上回る思考をしていたという結末。最終話にしても、悪趣味な虫が実は無害だなんてことがまず思いつきもしないが、さらに作ったのは王子の娘であるという。しかもこれは暗に顔出しすらしない娘が王子以上の超天才であることも示唆しているからまた面白い。
読者の度肝を2度くらい抜いてくれる展開を作るのが本当に凄い。こういう理屈ばって考えることが必要な話作りはハンターハンターでいかんなく発揮するようになるが、この頃から片鱗が見える。
あと、特に印象に残るのはあからさまにハンターハンターのグリードアイランド編のプロトタイプっぽいカラーレンジャー編。短編オムニバスという縛りだったからなのか、結局はすぐにこのエピソードも終了となってしまうが、続くハンターハンターで同じように仮想現実っぽい話を作るくらいなので、この話は、作者が一番やりたかった話なんだろうかとも思えて興味深い。

3巻と短いものの、だからこそ濃密に冨樫義博の世界が描かれていて、魅力的な作品に仕上がっている。腰痛だとかでハンターハンターの連載継続が非情に危ぶまれている現在、もし読んでいないならこっちを読んで楽しむのもいいかもしれない。

項目別評価

発売は20年ほども前、たった3巻だが、この中に冨樫義博ワールドが濃い密度で詰め込んであるという感じ。どのエピソードのどのキャラも立っていて魅力的なのも凄い。絵が3巻から雑で手抜きになってしまうのも含めてとても「らしい」作品。

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