火垂るの墓(アニメ映画) -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2015年08月15日

評論

8/14のロードショーでの放映。戦後70年という節目でお盆真っ只中、終戦の前日というこの上ないタイミングで放映した1988年スタジオジブリ作品。
もうこれで視聴は何回目だろうか。おそらく5回は軽く超えるな。つくづく、見るたびに考えさせるものがある作品だと思う。
孤児になった兄妹の叔母の家への居候生活、叔母との折り合いが上手くいかないので家を出て壕で兄妹二人で暮らすも、子供二人で順調に生活などできるわけもなくあえなく飢え死に、というどうしようもない話だ。

自分にとってこの作品は、戦争の悲劇や兄妹の末路を嘆いて泣くなどということはまったくなく、ネット上でもよくある「清太が悪いのか?西宮の叔母が悪いのか?」そういう議論を行いたくなってしまう作品である。前回見たときもそうだったが、今回見てもやはりそういう思いに囚われてしまう。別に意識してるわけじゃないんだけどね。「なんでこういう最悪の末路になってしまうのか」と考えると必然的にそういう議論に行き着くのだよな。「戦争が悪い」と断じるのは簡単だが、それは起こってしまったから仕方ないとして、清太と節子が生き残るにはどうすればよかったのか?そこを考えると必然的に「清太がこうだったらよかったのか?あるいは叔母がこうだったらよかったのか?」という議論に行き着くのだと思う。叔母だけでなく清太も露悪的に描かれてる部分も多いからまたそういう話もしたくなるのだよなあ。
というわけで今回改めて文章で感想を書くにあたって時間をかけて考察してみた。まず清太と西宮の叔母、それぞれの擁護と批判を。

まず清太の擁護をしてみる。想像が入った好意的解釈多し。

清太への批判。ほとんど擁護が裏返った、見方を変えれば、というようなものだが。

西宮の叔母への擁護は以下のようなもの。やはり好意的解釈になる。

西宮の叔母への批判。性格の悪さを表した描写の羅列になってしまうが。

さあここまで書いて、ならばどっちが良い、悪いを決めるとすると…。
正直優劣はつけがたい、という感じ。
書き連ねてみれば叔母の悪いところのほうが多く思いつくし、羅列してたら「クズだなこの叔母さん…」と改めて思ったのだが、清太は数ではなく質的な意味で致命的なものがある。

具体的には、「叔母に出てけと言われたわけでもないのに居心地が悪いからと出ていき、また妹の健康状態が明らかに悪くなっても、叔母に頭を下げにいくという選択は取っていない」という点がいけない。清太は作中通して一度も節子を怒鳴ったりするようなことはないし、どれだけ大事にしているかは嫌というほどにわかる。なのに、その妹の健康状態を天秤にかけても、西宮の叔母の家に戻ることをしないのだ。これのせいで結果、清太VS叔母、どっちが悪いのか議論はイーブンくらいになってしまうのだ。「命を天秤にかけて動けないことなどあるはずもない。そして清太は死というものを母親の死をもって実感しているはず。」ここがポイントだと思う。
いくらボンボンでも、いくら年齢ゆえに判断力が未熟であっても、母親をなくしている14歳が次は妹を亡くしてしまうかもと思えば、文字通りなんだってできるはずなのだ。それができない。しない。プライドが邪魔しているのか、叔母が嫌いだからなのか、妹が死にそうになっても頼らない。実に短慮で身勝手で刹那的、はっきりいえば馬鹿。命以外の何かがかかってるなら勝手に意地張ってりゃいいが、命がかかってさえプライドを優先し、妹を死なせてしまっている。叔母の性格悪いのは確かだが、居候させてもらっている以上はある程度鬱陶しがられるのは仕方ないし、それでもなお下手に出るしかないはずだった。14歳という年齢でそういう結論に至らないとは言わせない。突き詰めると、清太がいいとこのお坊ちゃんだったのが悪かったのだろうかなあ。

監督の高畑勲自身の言葉として有名だが、、この火垂るの墓という作品に対して、「現代の青少年たちに通じるものがある」というものがある。現代といっても1988年のアニメージュにあった言葉なのだが、2015年現在でもそれは通じるだろう。わずらわしい社会から逃げようとしている多くの現代の人間たちと清太は似ているのだと監督は語った。
この作品から最も強く感じられるのは、戦争の悲惨さなどではなく、確かにその辺りだ。社会性を捨てて生きることは破滅への道でしかない。叔母がろくでなしだとしても、それに頭を下げることができず、つかみとれるはずだった生存の可能性を探らず、自分のプライドを優先して清太は孤独に死んだということを鑑みるとそんなことが教訓として言えると思う。

10代とかそれ以前にこの作品を見たときには間違ってもこんな意見は出ず、単に「兄妹かわいそう」ってくらいだったと思う。これほど成長に伴って見方が変わる映画も珍しいんじゃないだろうか。もしかしたらさらに年を重ねればまた見方が変わってくるのかもしれない。

項目別評価

良くも悪くも記憶に残る不朽の名作には違いない。節子の弱っていく様子は正直ゴールデンで流して大丈夫かというくらいにキツイなと、5回以上も視聴した今回でさえ思った。

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