顔のないスパイ 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>顔のないスパイ

執筆日:2018年2月3日

あらすじ・ネタバレ

メキシコとアメリカの国境。アメリカに密入国した者たちが、現れた国境警備隊に恐れをなして逃げていく。しかし何人かは警備隊の車に悠々と乗っていく。彼らは警備隊を装った仲間に「ご苦労さん」などと声をかけた。

テレビでデニス・ダーデンというアメリカ上院議員がロシア批判をしていた。近年アメリカはロシアの脅威にさらされているとダーデンは語る。
ダーデンはFBIに監視、警護されていたが、ある日の夜、何者かに首を掻っ切られて殺されてしまう。

ポール・シェファーソンという男性が少年ベースボールを見て楽しんでいた。彼は共に試合を見ている女性に家族はいないと話した。
そしてポールは帰宅する。すると家の中にCIAのトップ、トム・ハイランド長官がいた。彼はカシウスが現れたと言った。

カシウスとは20年に姿を消したロシアの暗殺者のことだった。カシウスが育て上げた暗殺者6人も含めてカシウス7とも言う。ポールは今は引退しているが、かつて誰よりもカシウスに詳しいCIA職員だったのだ。議員はこのカシウスと同じ手口で殺された。しかしポールはトムに対して「カシウスは死んだ。模倣犯だ」と言う。ポールとトムがCIA本部に行くとベン・ギアリーという人物がいた。彼はポールの引退後に昔からカシウスを追い続けており、今回の犯行はカシウス本人のものだと断言するが、ポールはやはり「だから模倣犯だろ?」と言った。ベンは先達としてポールを尊敬しておりずっと接触しようとしていたのだが、ポールは相手にしなかった。ポールは「本当にカシウスだとしたら彼は君を殺しにくるか?」と言うと「それこそ本望だ」と言う。それほどまでにベンはカシウス逮捕に情熱を燃やしているのだ。

トムはブルータスという人物が生きているというとポールは喰いついた。ポールが1989年に殺したはずの人物だが生存していた。しかし引退したがっていたポールにトムは教えなかったのだという。気を悪くして「今度こそ部外者だ」と言ってポールは去った。

トムは改めてポールと会い、「議員を殺した奴を捕まえない限りCIA長官をクビになる」と言う。トムが長官にまでなれたのはポールがカシウス7を捕らえた功績によるものだとも。ポールは「カシウスは死んだ」と再度言うがトムは「証明して見せろ」と返す。結局ポールは議員殺害の捜査を行うことになった。

1988年の回想。当時ポールはCIAの分析官として3年働いていた。アメリカの大使館へ行ってトムと出会い、「カシウス7の情報を持っている」と言って自分を売り込んだのだった。

ベンはポールと共にブルータスの元へ行くことになった。ベンはポールの書いた書類を読みこんだので他人のような気がしないと言う。ポールは国際的な暗殺者を追うなら国内担当のFBIよりCIAが適している。なぜCIAでなくアメリカのFBIの所属したのかと聞くと「カシウスはアメリカに潜伏していると思っているから」と返した。

刑務所にいるブルータスに会って二人は尋問する。ブルータスはカシウス7の一人だ。ラジオを欲しがっているのでそれをエサにするといくつかの話をした。カシウスは冷酷な殺し愛の訓練をさせカシウス7を作り上げた。ワイヤーを使って首を切る殺しの方法も持っていた。そしてカシウスは暗殺者としてのタブーを犯したために消えたのだという。その話を途中で切り上げてラジオを渡すようにポールは指示した。ポールはワイヤーを使っての殺しだというのは重要な情報だと喜んだ。

一方、ラジオを手に入れたブルータスはその中にある電池を飲みこんで病院に搬送される。しかしそれを狙っていて、病院から逃げ出す。
しかしブルータスに現れたのはポールだった。なんとポールこそがカシウスだったのだ。ポールはブルータスに「ジュネーヴで殺しをしたんだろ?」と聞くとブルータスは「ジュネーヴでは殺していない。殺したのはブラック・コーカサスのメンバーの誰かだ」と答えた。友好的なふりをしてポールを殺そうとするブルータスだが逆に時計にい込んでいるワイヤーで掻っ切られて殺された。

ポールはカシウスつまり自分の正体を突き止めようとしているベンも殺そうとする。しかし彼に妻子がいると知ると思いとどまってしまう。

ポールの回想。彼はかつて凄腕の暗殺者でありスパイだった。アメリカCIAに属しながらロシアの敵となるアメリカ人を殺していた。

ポールは家族のいるベンを殺したくはないと考えたのだ。もうカシウスの件から離れろと言うがベンはむしろやる気を出してしまう。

ベンはブルータスが死んだことを知りポールと共に現場へ行く。ベンは「カシウスは必ず現場へ戻る」とポールに言う。ポールは野次馬の一人がロシア製のジャケットを着ていると言い、ベンがその男に近づくと男が逃げ出す。
ポールとベンは男を追うが見失ってしまう。ベンは「彼はカシウスではない」と言う。どうにか自分以外の人間をカシウスということにしたいポールはやきもきするのだった。

ベンはポールをカシウスと未だ知らず、自宅に案内して食事を振るまった。良い妻ナタリーと可愛らしい2人の子供がいる幸せな家庭だった。ポールは何も考えずカクテルをベンに要求すると「カシウスの好みの酒だ」と言ったのでポールは多少動揺する。ベンはカシウスをある意味尊敬しているともいうがポール、つまりカシウス本人は「尊敬できるような人間じゃない」と言った。ポールはナタリーに対して「ベンがこれ以上カシウスに関わろうとするのは危険だ」と言って、ナタリーからもカシウスから離れるように説得するように促した。

CIAに新たな情報が入ってきた。それはメキシコからアメリカに密入国した男たちの情報だった。これは冒頭に描写された件だ。
この中にはヨハン・ボズロスキーという男がおり、ポールは彼を見つけると熱を上げる。ソ連のKGBであり、1990年に山岳部隊ブラックコーカサスを率いてワルシャワの民主化組織の対米協力者を粛清した男だった。ポールは1989年から1年間探していたが消えてしまったという。 ポールはカシウスが消えた時期と一致し、20年後に現れてアメリカに入国した。これが偶然ではなく、議員を殺したのはボズロスキーで奴こそカシウスだと熱弁した。1990年にワルシャワにいたという情報はニセの情報だったから見失ってしまったのだと。ベンもこれに同意し、ボズロスキーがカシウスだと納得した。

ポールは娼婦を扱っている男のところへ行って情報を聞き出す。アンバーという娼婦がボズロスキーの情報を知っているのだという。
アンバーに会いに行くと激しく抵抗されるが、ベンが彼女を説得した。アンバーはレオという男を呼び出した。レオはアンバーの兄だという。

レオにボズロスキーの場所まで案内させる。ボズロスキーの所へはポールだけが行き、ベンは見張りをさせられた。 ボズロスキーと会ったポールはレオに背後から銃を突きつけられる。「俺こそカシウスだ」と名乗るとボズロスキーもレオも笑い出す。
不意をついてレオの身体を制してボズロスキーを撃つ。しかし逃げられてしまう。レオはブルータスのようにワイヤーで首を掻っ切って殺した。
レオの死体を見たベンはその手口を見てポールがカシウスではないかと疑い始めた。
ベンは同僚のオリバーを誘ってその証明をしようとする。

一方、図書館司書をしているナタリーの前にポールが現れ、再びベンがカシウスの件から離れるように説得してくれと頼みこんだ。

オリバーはボードにカシウス関連の写真を張り付け。論理統計学を使ってカシウスがポールであることを証明して見ろと言った。ベンがその通りにやってみると「ポールはカシウスである」と確信したのだった。
一方ポールはベンの動向を監視していたが、ベンが町のゴミ箱に何かを捨てたのを見かける。それはクロスワードパズルだった。それを見て何かを知ったようなポール。

ベンは自分の車の上にポールとその妻らしき女性、そして子供が映っているのを見かけた。これを置いたのはポールの仕業だった。

ベンは「カシウスを真似ただけの模倣犯」として除外していた書類にふと目をやる。すると1988年の6月にジュネーヴで起きた殺人にはボズロスキーが関わっていたことを知る。同時にポールも1988年の6月の事件にはボズロスキーが関わっていた裏付けを取っていた。

1988年6月の回想。その時ポールは「君は過ちを犯した」と、ポールに指示を下すソ連の者に言われ、直後妻子を殺されていたのだった。これをやったのがボズロスキーなのだ。
カシウスの殺人は1988年以降からロシア人を標的するようになっていたが、これは妻子を殺された復讐だったのだ。

ポールはボズロスキーを追って車に乗っていた。ポールにベンから連絡が入り、「ようやくカシウスを見つけた」と言う。 ポールはボズロスキーとカーチェイスをしてとある工業団地に突入する。そこでクラッシュして、ボズロスキーに撃たれそうになった時、ベンも到着してポールを救い出した。

「ずっとカシウスはそばにいた!」と言ってポールに近づくベンだったが実はベンも実は自分の本性を隠していた。ポールがゴミ箱で拾ったクロスワードパズルは「カシウスを殺してロシアに戻れ」というメッセージが隠されていた。つまりベンも本来はロシアのスパイだったのだ。ベンは論文を書いてFBIに入り、スパイとして潜伏していた. そして1年前に命令が下り、6ヵ月前のメキシコ国境でのロシアの工作員のサポートをする仕事をした。そしてダーデン議員を殺し.たのもベンだった。カシウスを装って議員を殺せば本当のカシウスをあぶり出せると考えたのだ。カシウスを殺した後はモスクワへ今夜飛ぶ予定だった。しかしポールはベンに「永遠に一人だぞ」と言い、工作員として生きることの業の深さを説いた。

ベンは「カシウス」が逃げてしまうと言い、つまりボズロスキーが逃げてしまうということを言った。ポールは妻子の仇であるボズロスキーを殺すのが目的だし、ベンも「カシウス」とされる者を殺せればスパイとしての任務は果たせる。二人の利害は一致した。共闘してボズロスキーをしとめようとする。

ベンは潜んでいたボズロスキーに気付かず背後から撃たれそうになるがポールがすんでのところでそれを教える。しかし代わりにポールが撃たれてしまった。胸を撃たれてもなお戦い、ポールはワイヤーで首を掻っ切ってボズロスキーを殺した。 しかしポールは銃弾により致命傷を受けた。ベンに「家に帰れ」と言ってこと切れてしまった。

その後ベンは現場の工作をし、トムに説明した。ワイヤーを持っていたのはボズロスキーであるように見せかけて、ポールがそれを奪ってボズロスキーの首を切って殺したがポールも撃たれてしまい、相打ちになった、ということにしたのだ。元々、ポールの発言によりトムらCIAはボズロスキーがカシウスだと思い込んでいたのでトムらはこれで納得し、真実を知るのはベンのみだった。
ベンはトムの功績をたたえて「CIAに来ないか?」と誘った。その場では何も答えなかった。
家の前に戻るベン。本当ならモスクワへと発つはずだ。しかしベンはポールの遺言の通り家へ戻ることを選んだ。

感想・評価

何を置いてもまず、設定が分かりにくい。少なくとも自分が見た映画作品の中では最も難解な作品だった。
断言するが、この作品を一回の視聴で全て理解できたら相当頭が良い。自慢していいと思う。冷静に情報を整理してまとめないとポールが、ベンが、どの時期に何をしていたのか、理解できないのだ。ベンも実はスパイだったという終盤の追加設定でさらに頭はごちゃごちゃになるはずだ。
時間軸の通りに作中で起きたことを箇条書きしてみる。明言されてなかった気がするが、カシウスは1990年から消えたことになっていて「20年姿を消している」ということなので、議員殺害が発生した作中現在時間を2010年とする。

年代 出来事
1980年ごろ 10才ほどの幼いベン・ギアリーは一家でアメリカに移民としてわたってきた。すでにソ連からスパイとして教育されていて、いつか下される指令を虎視眈々と待つ。
〜1988年 旧ソ連のスパイであるポール・シェファーソンは米CIAパリ支部で分析官として働きながら「カシウス」としてアメリカ人を各地で暗殺していた。
1988年6月 ポールは「暗殺者は家庭を持ってはならない」というルールを破ったためにソ連から通告を受けて、スイスのジュネーヴにいた妻子を殺されてしまう。この時からソ連の暗殺者としてではなくソ連に復讐する人物となる。妻子を殺した実行犯はボズロスキー。
1988年6〜12月のいずれかの日 カシウス本人であるポールが「カシウス7について詳しい」と言ってパリのアメリカ大使館に勤務していたトム・ハイランドに情報を持ってきた。これももちろんソ連への復讐のため。無論自分が作った組織であるのでカシウス7の事には詳しく、自分を除く6人の「カシウス7」メンバーをこの後たちまち捕らえた。この功績により、ポールの上司にあたるトムは後々CIA長官にまで上り詰めることになる。ポールは「カシウス本人だけは捕まえることができなかった」として知られているが、自分自身なのでそれは当たり前のこと。ポールとしては、自分以外の6人を捕まえた時点でカシウス7の捜査に関しては終了していたということになる。
1989年 妻子を殺した犯人はカシウス7の一人であるブルータスと思っていたポールはブルータスをオーストラリアのザルツブルクで射殺する。しかし実は生存していた。引退する気だったのでトムはポールにブルータス生存を教えなかった。
1989〜1990年 ポールはボズロスキー(カシウス7のメンバーではないがターゲットにしていたソ連の重要人物)のことも1年間追い続けていたが1990年に見失ってしまった。その後ポールは引退する。
1990〜2000年頃? ベンが20才〜30年の青年期。ベンはカシウスに関する論文を書いてFBIに潜り込んだ。その後はスパイであることを隠すための隠れ蓑を作るためにナタリーと結婚して子も持つ。隠れ蓑だったはずが本当に家族が何よりも大事になる。ソ連時代だったポールとは違い家族を持つこと自体が禁止されていたわけではないだろうが、ポールと同じような境遇になった。
2009年 ロシアのスパイとして活動しているFBI所属のベンに対してロシアから命令が下る。「工作員の身の安全を確保すること」と「アメリカに身を隠したと思われるカシウスを殺すこと」が命令だった。
2009年or2010年 メキシコ国境でボズロスキーらがアメリカ警察国境警備隊に扮したベン誘導されてアメリカに密入国する。
2010年 密入国事件より6ヵ月後。反ロシアの立場の上院議員デニス・アーデンが何者かに殺害される。カシウスの手口と同じく首を掻っ切る殺害方法だったため、カシウスが復活したように思われた。しかしこれはベンが「本物のカシウスをあぶり出すため」に行ったものだった。引退したポールをCIA長官のトムが呼び戻したが、もちろんカシウスであるポールは議員殺害はカシウスがやったのではないと知っている。しかしとりあえず捜査には参加することにしたポール。
議員殺害事件の捜査の中で妻子の仇であるボズロスキーが半年前にアメリカに密入国したとポールは知る。20年ぶりにボズロスキーの居場所を見つけたためにポールは復讐に燃える。ついでにこのボズロスキーを「カシウスだ!」と皆の前で断定することで自分の身代わりにもした。しかしボズロスキーと対面した際、彼の部下のレオをワイヤーで殺してしまったことで、カシウスの手口に詳しいベンに疑いを持たれてしまう。
捜査をする中でポール、ベン共に互いの素性に気付く。ポールがボズロスキーを殺そうとして窮地に立った時にベンはポールを救う。ポールの目的は妻子の仇を打つこと。ベンの目的は「カシウス」を殺して本国ロシアに帰還すること。ボズロスキーを「カシウス」として殺すことは互いの利害に一致すると考えた二人は共闘してボズロスキーを殺すことにする。
ポールとベンがボズロスキーと戦い、ポールとボズロスキーは相打ちになった。ベンはポールがカシウスであることは隠して、公になっている通りボズロスキーがカシウスであるように現場工作をし、真実は自分の胸の中だけに留めておいた。そして家族を失ってしまったポールの「家に帰れ」という遺言に従い、ロシアに帰ることはなくアメリカで家族と共に生活を続けることを選んだ。

↑という感じで大方間違っていないはずだ。しかしまとめていて一つの疑問が出た。

ポールはブルータスに対して強い殺意を持っていたが、犯人はブルータスではなくボズロスキーだったとも知っていたはずではないのか?ならばなぜブルータスだと思い込んでいたのか?

ということだ。かなり頭をひねって考えてみたので書く。

ポールはブルータスが生きていると知っていたら殺しに行っていたとベンに語っている。
なぜカシウス7のうちブルータスには強い殺意を持っていたのか。ポールは「カシウス7のカシウス以外のメンバー6人を捕らえた人物」として有名なのだが、「6人を捕らえた」という発言が序盤のCIAとFBIの合同捜査の中に存在する。つまりブルータス除く5人も殺していない可能性がある。カシウス7のうち、ブルータス以外の人物は出ていないので生死は不明で、必ずしもポールがカシウス7のメンバーを殺したとは限らないのだが、とにかくここは明確な事実描写が存在しない。「捕らえた」とは「殺した」なのかもしれない。ブルータスと二人きりで話す時に「他の連中も実行犯はカシウスとは関係のない人物が選ばれたと言っていた」とポールが言っているので、もしかするとやはり他の5人もブルータスのように二人きりになって尋問し、その後に殺害した可能性も高い。するとやはり他の5人も死んでいて、「捕らえた=殺した」となるか?しかしボズロスキーが当時ジュネーヴにいたことはポールも知っていた(このジュネーヴでの事件の資料としてボズロスキーが映った写真が残っているので当時のポールがボズロスキーを疑ってないわけがない)ので、ジュネーヴの妻子殺害にはカシウス7はそもそも関わっていないことはポールは知っていたはず。しかしポールが復讐したいのはソ連に対してだし、必ずしも妻子殺害の実行犯だけというわけでもない。「妻子殺害には関わっていないとしても自分が育て上げたカシウス7は自らの手で粛清しソ連にダメージを与えたかった」という論理に落ち着くか。でもブルータスを殺す前に「お前がやったんだろ」と言うのが矛盾するのが少し気になる。ボズロスキーを見た時のポールの必死さから見て、ボズロスキーが妻子の仇だということは確信していたはずなのだ。

ここまで書いてさらにしぶとく視聴して理解しようと試みたが、「ボズロスキーが実行犯だというのはほぼ確信していたが、証拠はなかったのでカシウス7である可能性も捨てきれず、まだカシウス7を疑ってはいて、あり得るとしたら(理由は視聴者としてはわからないが)ブルータスだ」とポールが考えていたというのが落としどころだと思う。
ここまで書いてなんだが、「ボズロスキーが実行犯だとは2010年まで知らなかった」という見方をした方が違和感はないかもしれない。ただ、ポールはボズロスキーの姿を見つけた時に「この野郎…」などと呟き、なぜ1990年以降見失ったのかを皆に熱弁するが、これは憎き仇を見つけた時の反応としか思えないし、ポールが調べていた資料の中にもボズロスキーが映っていた写真があるので、当時ベン以上に血眼になってボズロスキーを捜していたはずのポールが知らなかったようにも思えないのだ。だから自分の意見としては上に挙げたものにしておく。

ここまで整理して、自分はようやくある程度は事情が呑み込めてきたところだ。
実はポールもベンもソ連のスパイという出自であり、その二人が不思議な共感を得るというなかなか変わった話で面白いのだがだがこのように話を全て理解しようとすると大変になる。

それとベンまでもがスパイだったという話だが、これは冒頭のボズロスキーたちの密入国シーンで警察の制服を着たベンの後ろ姿が映るだけで他にこれといった伏線がないため、終盤でポールがベンの正体を暴くシーンでは目が点になってしまった。ベンもスパイだと見抜ける視聴者、一体どれだけいるのだろうか?

そもそも序盤では「実はポールがカシウスだった!」というのは一番最後に持ってくると思ってた。なのに序盤で正体が明かされてしまうものだからじゃあ他にどういう驚きが待っているんだろう?と不思議ではあったが、まさかひたむきにカシウスを捕らえようとしているベンもスパイだとは思いもよらない。もう少しこれは「あれがそうかあ〜!」と思えるような伏線を描写しておけばよかったなあと感じた。だって本当に、伏線という伏線なんてのは冒頭の後ろ姿くらいだし。後はなぜCIAではなくFBIに所属したのか?なんてポールが疑問に思うのも伏線ではあるのだが、それはまあスパイじゃなくてもそういう動機もあるかな、くらいの話だったし。

というわけでとにかく、話を理解するのに時間がかかる作品だと思う。このページの解説は恐らく理解の助けになるので活用してほしい。ただし間違っている部分もあるかもしれないので注意。

人物解説

ポール・シェファーソン

演:リチャード・ギア
主人公。1988年まではソ連の暗殺者「カシウス」としてアメリカ人を殺していた。同時にCIAのパリ支部にも所属していたので元々ソ連のスパイ。しかし1988年に暗殺者のルールである家族を持たないというのを守らなかったためにジュネーヴにいた妻子を殺される。以降はソ連を裏切り復讐として世界各地でロシア人を殺し始めている。1988年にCIAに自分が育て上げたカシウス7の情報を持ってトムに会いに来た。自分がカシウスなのでカシウス以外の6人は全てポールの力で見つけ出し、(ブルータスは殺したと思い込んでいたが)捕らえた。妻子の仇であるボズロスキーも追っていたが1990年を最後に見失い、その後引退。20年を経てダーデン議員殺害の捜査で復帰し、その中で仇敵ボズロスキーを発見して殺害しようとする。ベンに招待を見破られてしまうが、ベンが旧ソ連のスパイであることも見抜いていた。

ベン・ギアリー

演:トファー・グレイス
FBI所属でカシウスに詳しい男。カシウスには敬意さえ持っていて、論文を書いてそれがFBIの目に留まりFBIに入ることができた。ポール=カシウスだと知らずに行動を共にしていたが、レオ殺しで一気にポールを疑うように。実は10才ごろにアメリカに移民として入国したソ連のスパイ。論文でFBIに入った。1年前にアメリカに潜入する工作員を守るため。冒頭シーンで密入国者を手引きしたのはこのベン。後ろ姿しか出ないが、国境警備隊に扮しているのが確認できる。ダーデン議員を殺したのもベンで、これはカシウスが復活したと思わせ、本物カシウスをあぶり出すためだった。カシウスを殺してモスクワに帰るつもりだったが、ポールの遺言を思い出し、任務よりも家族を選びアメリカにとどまった。その後、恐らくはトムの誘いを受けてCIAへと移ったのだろうか。ポールの言葉を聞いてロシアに帰るのをやめたのだから、おそらくスパイとして生きるのもやめたのだろうが、そうすると今度はこのベンが狙われたりしないのだろうか?とも思える。

トム・ハイランド長官

演:マーティン・シーン
ジェファーソンを20年ぶりに呼び戻したCIA長官。長官まで上り詰めることができたのは1988年にポールがカシウス7の情報を持ってきて次々と彼らを捕らえたからだという。しかしポールがカシウス本人だとはこのトムは知るすべもない。ポールの死後も知らず、カシウス=ボズロスキーとして処理した。

ヨハン・ポズロスキー

演:タマー・ハッサン
ソ連のKGB。ポールが追っていた。メキシコの密入国者を装い6ヵ月前にアメリカへ。20年の間ポールも見失っていた。1988年6月にジュネーヴに入ってポールの妻子を殺害。1990年から姿をくらましていたが20年後に工作員としてアメリカに密入国する。ポールからは「ロシアのものならなんでも売る」と評された。最後にはポールに首を掻っ切られて死亡。

ブルータス

演:スティーヴン・モイヤー
本名「イゴール・イヴァノヴィッチ・コザック」。カシウスが育て上げた旧ソ連の凄腕暗殺者「カシウス7」のメンバーの一人。1989年にオーストリアの都市ザルツブルクでポールに射殺されたと思われていたが、実は生きて刑務所にいた。ポールは引退する身だからと、トムはこの事実を教えなかったらしい。これは現役FBI捜査官の便も知らなかった。ポールから渡されたラジオの電池を飲みこんで意図的に病院に運ばれた後に脱走。しかしカシウスことポールに殺害される。ポールの妻子殺害にはカシウス7は関わっていないとポールに教えたが、他のカシウス7もそう言っていたとポールは返したため、元々ポールはカシウス7ではなくボズロスキーが実行犯だと知っていたと思われる。

デニス・ダーデン

ロシア批判の上院議員。この人物が20年前に消えたカシウスと同じ手口で殺されたのがきっかけでポールはCIAの現場に呼ばれることになった。

オリバー

演: クリス・マークエット
ベンの同僚。論理統計学をベンに教えた。このオリバーが教えたやり方でベンはポールがカシウスだと確信した。

アンバー

演:スタナ・カティック
ボズロスキーが扱う娼婦の一人。ポールは自分の情報屋からこのアンバーがボズロスキーの居場所を知っていると聞いた。アンバーの元へ赴いて強引に居場所を聞き出そうとするが抵抗される。代わりにベンが説得したところ話を聞いてくれて、レオを呼んだ。

レオ

アンバーの兄。ベンに説得されたアンバーが呼び出した。ポールとベンをボズロスキーの元へ案内するが、「嘘をついていたらお前も妹も殺す」と脅される。ポールをボズロスキーの前まで案内すると態度が豹変して「娼婦をかばうとでも思ったのか?」と言ってポールに銃を突きつけるのでアンバーの兄ではなく、単にボズロスキーの部下か。しかし隙を突かれてワイヤーで殺される。このレオをワイヤーで殺したのは完全にポールのミスだが、ボズロスキーを前にして冷静ではいられなかったということだろうか。

ナタリー・ギアリー

演:オデット・アナブル
ベンの妻。ポールは彼女に対して「ベンがカシウスの捜査から外れるように説得してほしい」と2回にわたり頼み込んだが結局ベンは情熱をさらに燃やすだけだった。

項目別評価

ロシアのスパイだったが裏切った男とロシアのスパイが心を通わせるという、類を見ないストーリー。ただ、ベンまでもがスパイだという設定に関してはいかんせん唐突すぎる感はいなめない。そして設定がかなり難解。一回の視聴で全てを理解できたら相当頭のいい人です。頭の体操にいいかも。

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