ルーパー(映画) -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2017年05月15日

あらすじ・ネタバレ

物語の舞台となるのは近未来。ジョーという男(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は「ルーパー」と呼ばれる暗殺者を生業にしていた。
この時代よりさらに30年後の世界ではタイムマシンが存在するが、そこでは悪の組織だけがその利用を独占している。そしてその利用方法とは、「邪魔な人間を30年前に送りルーパーに始末させる」というもの。未来では個人の存在の把握、識別技術が今よりも進んでいるため、存在を消すことが難しくなっている。そのため30年前に送りルーパーに殺させているのだ。ルーパーは見返りとして銀をもらい(殺害対象の身体に銀を巻き付けてある)、それを換金して金を得ている。
指定の時間と場所でルーパーは待ち受け、そこに突如として未来から送られてきた被処刑人が現れ、すぐさまルーパーはそれを銃殺する。そしてその死体は焼却所に投げ入れて存在を抹消し、銀をルーパー専用の換金所へもっていき金を得る、というのがルーパーの仕事のルーチンとなっている。
また、この近未来には「TK」という超能力を持つ人間が一定の割合で存在する。しかしそれは物を浮かせる事が出来る程度の拙いものであり、実用性には欠けていて馬鹿にもされるようなものでしかなかった。

悪党に魂を売っているルーパーにはある厳しい決まりがあった。ルーパーと呼ばれるその名にも関係していることだが、ルーパーが30年後も生存していて、そのルーパーとの雇用契約を終わらせたい時、そのルーパー自身を30年前のルーパーの自身の手で始末させるというもの。未来ではタイムトラベルは禁止されているため、口封じ、証拠抹消のためということだ。ルーパーにとっての30年後の自分は「ループ」と言い、このループを自分で始末することを「ループを閉じる」と言うのだ。ルーパーとなった者は30年後には必ず死ぬことになるのだが、それを良しとする人間がルーパーに身を置いている。当然、ジョーもそうだ。

だがある時事件が起きた。ジョーの友人であるセス(ポール・ダノ)が自分のループを殺害することを躊躇し、逃げられてしまったのだ。ルーパーがループを閉じることを拒否することは絶対に許されず、ジョーたちがいる時代を仕切るために組織の人間が未来から送ってきた人物のエイブ(ジェフ・ダニエルズ)らに殺されてしまうのだ。セスはジョーのところへ匿ってくれるように頼ってきて一時はジョーはそれを受け入れるが、エイブたちにはそれがばれていた。セスを引き渡さないと自分も危ないため、ジョーは仕方ないとはいえ友人のセスを見殺しにしてしまう。セスは手ひどい拷問を受け、セスのループにもその拷問が反映されて徐々に四肢がなくなっていく恐怖に怯え、さらに銃殺されるという凄絶な死を迎えてしまった。なお、セスは自分のループから「レインメーカー」という人物が30年後の悪の組織を仕切っていて、その人物が全てのルーパーを抹殺しようと動き出していることを聞いていて、その話はジョーにも伝わった。

そしてジョー自身にも「ループを閉じる」時がやってくる。いつもは被処刑人が現れた瞬間に銃殺するようにしているジョーだったが、自分のループが送られてくる案件の時は微妙に指定の時間からずれて未来から送られてきたために隙を作ってしまい、自分のループに逃げられてしまった。このジョーのループ、30年後の年老いたジョー(ブルース・ウィリス)は若ジョーを昏倒させた後に「すぐ町を離れろ」という書置きを残してどこかに去っていった。
しかし目を覚ました若ジョーはその忠告は無視して自分の家に帰ってしまう。するとそこに待っていたのはエイブの手先。ループを逃してしまった若ジョーを始末しようとしていた。梯子を使って逃げようとしていたジョーは梯子から落ちて気を失ってしまう。

ここでまるで時間が遡ったかのように若ジョーが老ジョーを始末しようとする場面に戻る。すると今度はさっきの場面とは違いいつも通りに処刑は簡単に終わる。ここで描かれているのはつまり、ブルース・ウィリス演じる老ジョーの人生。若ジョーが老ジョーを逃がさずに始末した場合の時間軸だ。
そしてその後のジョーの人生がダイジェストで流れる。この時間軸でのジョーは荒れた生活を送りながらも中国人女性(名前は出ないがシュイ・チンという女優が演じている)と出会い、彼女と出会ってからの中年期以降は幸せな時間を過ごしていた。しかしジョーが組織に始末される時がやってきた時、この女性は組織に殺されてしまった。そのため組織に反抗を企てた老ジョーは自らの意思でタイムマシンを使い30年前に戻った。老ジョーの目的は30年前の時点でレインメーカーを始末し、自分の恋人が死なない未来へと改変するためだ。
そして少し前の若ジョーが梯子から落ちる場面では実はその場に老ジョーもおり、若ジョーを救っていたことがわかる。

30年後を仕切る悪党であるレインメーカーは誰も顔すらも知らないが、老ジョーはある数字をレインメーカーに繋がる手掛かりとして入手していた。それは「07153902935」という番号の並び。これを端末で検索すると3件の赤ん坊の情報が導き出された。その3人が今住んでいる住所をプリントした老ジョー。
若ジョーは老ジョーを何とか探そうとしたが、手がかりがない。しかし、若ジョーの腕に傷をつけると30年後の老ジョーの腕にも傷が浮かぶ。この現象を利用して待ち合わせ場所を自分の腕に刻んだ若ジョー。その場所に老ジョーはやってきた。対面する二人のジョー。老ジョーは薬におぼれているろくでもない人生を送っている若ジョーに対して「いずれお前を救う女性が現れる、俺はその女性を救うためにこの30年前の世界に来た」ということを説明する。だが若ジョーは「そんなの俺には関係ない、あんたはルーパーとしてやってきたことの責任を取り潔く死ね」と、30年後の自分に対してまるで他人のような物言いをする。同じ人物でありながら、二人のジョーは思想が全く違い、相容れないのだ。もみあっているうちに若ジョーは老ジョーがプリントアウトした3人の子供の地図の端切れを手に入れ、二人は別れてしまう。

若ジョーはその手に入れた地図の場所に移動する。そこは周囲には何もない田舎で、サラ(エミリー・ブラント)とシド(ピアース・ガニォン)という親子が住んでいた。
接触して色々と話を聞いていく若ジョーだったが、エミリーはプリントに書かれた「07153902935」という数字を見た瞬間に様子を変え、若ジョーを強く警戒することになった。ここで若ジョーは数字は「同じ日に同じ病院で生まれた」という共通項のある3人の子供を表していることを知る。つまりこの3人のうちいずれかが30年後のレインメーカーになることになる。老ジョーはこの3人のうちだれがレインメーカーなのかは特定できないが、3人とも殺す気でいることに若ジョーとサラは気付く。
そして一方の老ジョーはというとサラとシドの家とは別の場所で子供を殺害してしまっていた。殺害後に泣くほどに良心の呵責に苦しみはするものの、それほどまでに30年後に死んでしまったあの恋人が大事ということだ。そして2人目のところへも向かった老ジョーだったが、そこで待ち伏せしていたエイブの手下のキッド・ブルー(ノア・セガン)にテーザーガンで撃たれて捕まってしまうのだった。

若ジョーはサラ、シドと交流を深めるうちにこの親子と親しくなっていた。そしてあることが明らかになる。普通は大した力などない「TK」の能力だが、シドは非常に強力なTK能力を持っていたのだ。それはシドの怒りと共に発現して周囲に危害を及ぼす。そして過去にシドはサラに代わってシドを育てていたサラの姉を殺してしまったことも若ジョーは知る。つまりこの超能力を持ったシドこそが30年後のレインメーカーとなる人物なのだ。
この家にもエイブの刺客はやってきたが、このシドの能力により殺されてしまったのだった。サラはシドの持つこの能力に怯えつつも、シドに対しては優しく母として接するように努めていた。サラは過去に遊びまわっていたせいでシドを放任し、そのために姉にシドの世話を任せていたという前非を悔いていたのだ。若ジョーは老ジョーや組織がここに来る前に家を出るようにサラに促し、サラもその通りにした。

エイブたちに捕まって絶体絶命という状況の老ジョーだったが、機転を利かせて反撃し、なんとエイブたちを皆殺しにしてしまう。そして「07153902935」が示す最後の一人、つまりシドの元へと向かった。
生き残ったキッド・ブルーだけがまた襲い掛かるも、それは若ジョーにより倒される。しかし老ジョーに追い詰められるサラとシド。しかしそこでまた感情を爆発させたシドが強力なTKを発動させる。そこでサラが優しくなだめると力を抑え込んだが、老ジョーは止まらない。サラはシドをかばいシドの前に立ち尽くし、今まさに老ジョーに撃たれようとしている。そこへ駆けつけた若ジョーは「ここでサラが殺されたらシドは心を歪ませ、レインメーカーと呼ばれる悪党となるのだろう」と確信。老ジョーを止めるために取った行動は、なんと自殺。胸にショットガンを当てて自分を撃ち即死。すると直後、老ジョーもタイムパラドクスにより消滅してしまったのだった。

結末として、残された主要人物はサラとシドのみ。サラが地面に倒れた若ジョーの頭を優しくなで、シドが安らかに眠っているシーンの後にエンドクレジットに入る。

感想・評価

タイムマシンにより年老いた自分と出会い、譲れないもののために敵対し、最後には自分が犠牲となり、将来悪の道に落ちる運命の子供を救い未来を変える。主人公は死んでしまい決してグッドエンドとは言い難いが主人公ジョーの決断は間違いなく腐敗した未来を変えた。なかなか心に沁みる作品だ。

若いジョーと歳取ったジョーは同じ人物でありながらまるで違う人間であるのが面白い。若いジョーは軽薄で薬中な行き当たりばったりの生活をしているが、年老いたジョーは遅くに出会った運命の恋人により人生観を大きく変えられており、若い自分自身が愚かであることを強調する。しかし人格者かというとそんなことはなく、恋人を救うために無関係の子供すらも殺してしまうことも厭わない。それだけ、全てを犠牲にしても恋人が大事だったということだ。

若いジョーはというと年老いた自分の助言などまるで聞く耳を持たず、「自分の人生には関係ない」とまで言って未来の時分を突き放す。しかし成り行きで出会うことになったサラとシドの親子と交流し、この二人が抱える問題を自分と照らし合わせ考えるところがあったのだろう、最後には自分を犠牲にして悪に落ちるはずのセスを救ったのだ。シドとの会話でジョー自身も母親のために歪んだところがあるところを話す。そういう交流があってこそのあのラスト。そしてそういう若い自分の心変わりは露知らず、訳も分からないままに存在が抹消されてしまう老ジョー…。

若ジョーと老ジョー、どちらも死んでしまうという点が悲しいのはあるのだけども、それでもあまり悲劇的な印象がしないのは、「二人のジョーはそれぞれ別の形ながらも救われた」からなのではないかと思う。
老ジョーはというと、ダイジェストでしか描かれないものの、中国人の恋人との出会いが人生を変えてくれて安らぎを得られたのは彼の回想の中での安らいだ表情を見ればよくわかる。そして若ジョーも、薬で荒み、やむなくとはいえ友人を見捨てるような人生を送っていた中で、自分を犠牲にしてまで救う価値があると思えるものに最後に出会い、納得して自殺を選んだ。若ジョーは老ジョーと話し合う場面で「自分のことしか考えないお前なんかに…」というように手ひどく言われるのだが、この瞬間間違いなく、若ジョーもまた、老ジョーとは別の形でとはいえ、救われた。二人のジョーはその人生全体として見れば不幸ではあるが、自分を変えてくれる誰かに出会えたという面では確かに幸せでもあった。そう思えるからこそ、視聴を終えた直後の今これを書いている時、二人とも消えてしまう哀しい結末の物語だったのにどこか胸がすく思いがあるのだと、そう思う。でも老ジョーに殺された「07153902935」のうちの一人のことを考えるとちょっと、あまりにとばっちりすぎてやるせないな…。

ところでこの作品、いくつかツッコミどころもあると思えた部分もあったので、感想とは別に書き連ねてみる。

転移場所を指定できるのなら…

未来から転送されてくる被処刑人は実に正確な場所指定で送られてくる。ここまで正確な時空転移が可能ならば深海とかを指定して送りこんで殺してもいいんじゃないか?という素朴な疑問。きっと、あまりに高低差がある場所には送れないとかそういう理由はある、のかもしれない。後は殺してから送っても別に問題はないのでは?とも思う。

自分の死期を知っているにしては反抗をしなすぎる

ルーパーとして働く人間は魂を悪党に売り渡し、30年後に必ず死ぬことが確定されてしまう代わりに手軽に銀を手に入れることができている。しかし、30年後と時間が分かっているのだから、30年後に老ジョーのように運命に逆らう人間はそれこそ大勢いてもいいのではないだろうか?ただこれは例えそういう人間がいたとしても、レインメーカーの強大な力には太刀打ちできないと諦めている、あるいは描写されないだけで反抗はしているが捕らえられ、30年前に送られている、というだけかもしれないが。

シドが悪に堕ちる理由について

シドは若ジョーが感じたところによれば「老ジョーがシドの母サラを殺してしまうから心を荒ませ、レインメーカーとなってしまう」と感じたため、自殺して目の前にいる老ジョーの凶行を止めた。だが、そもそも老ジョーが存在する未来、つまり若ジョーが自分のループ、老ジョーの殺害を失敗しない未来においては、少なくとも老ジョーの手によってサラが殺されるようなことはない。にもかかわらず、レインメーカーとしてのシドは存在する。つまり、老ジョーが殺さなくても何らかの理由でサラの死により(あるいはこの場合は別の理由かもしれないが)、結局シドは悪堕ちしてしまうのではないか?と考えられる。とはいえ、「若ジョーと老ジョーが出会ったこの時間軸」においては、若ジョーの感じた通りにレインメーカーはきっと生まれないのだろう。書いててややこしいが、とにかくこの映画で描かれた時間軸の先の未来はハッピーだよね!ということ。

登場人物紹介

ジョー(若)

演: ジョセフ・ゴードン=レヴィット
主人公。暗殺者としてのルーパーの仕事をこなしつつ過ごしているが、場合によっては親友のセスを捨ててしまうなどももしてしまい、精神的には貧しい状態が続いている。ルーパーとしての仕事はいつも全く躊躇なく行う(指定の場所に出現してから1秒ほどの間もなく射殺する)のだが、未来の時分が来た時だけは躊躇し、それが災いして自分のループに逃げられてしまう。もう一人の時分である老ジョーに対して「お前のことなんか知ったこっちゃない」などと言い、利己的な人間ではあるものの友人を見殺しにしてしまったことに苦しむということもあり、良くも悪くも人格は平凡といった感じ。しかし最後にはサラとシドの親子を救うために自死を選べるほどの高潔さを持っていた。

ジョー(老)

演:ブルース・ウィリス
30年後のジョーの姿、ジョーのループ。この作品は2012年。そしてブルース・ウィリスとなればええ、頭は枯れ果ててしまっています。この頭を見てきっと若ジョーはそれなりにショックを受けただろう。
ジョーには自分のループを殺すことを失敗しない未来もあったようで、その場合はこちらの老ジョーになる未来が待っていた。その場合は中国人の恋人のおかげで豊かな人生を送ることができていたようだ。その恋人を救うために組織を裏切り過去を変える事を決意。そこまで人の心を持つことができたのにも関わらず、レインメーカー候補の子供をすべて殺すという暴挙に出るのだから、どれだけその恋人が大事なのかは窺える。組織に捕えられてもなんと普通に大逆転してしまうのはもう完全に「ジョン・マクレーンだこれー!?」となるところである。強すぎる。

サラ

演:エミリー・ブラント
「07153902935」という番号はレイン・メーカーに繋がる唯一の手掛かりであり、その番号を元にして老ジョーはある指定の3ポイントの住所を入手する。この番号はその住所にいる子供の「誕生日」と「病院の医療番号」を表していた。同じ病院、同じ日に生まれた子供は3人いて、そのうち一人がこのサラの生んだシドという子供だった。若ジョーが老ジョーともみあっているうちに偶然にサラとシドが住んでいる家の住所を手に入れて、若ジョーはサラとシドに出会う。シドは紛れもないサラの子供だが、過去のサラは都会で遊び歩くのを好んでいてサラは自分の姉にシドを預けた。しかしシドが何かのきっかけで強力なTKを発動させて姉を殺してしまい、それ以来は心を改めて田舎でシドと共に暮らすようになっていた。荒んだ時代に生きるがゆえの寂しさがあったようで、若ジョーと体を重ねる場面も。

シド

演:ピアース・ガニォン
サラの息子であり、老ジョーがいる30年後の未来を牛耳る大悪党。この世界にはTKという超能力を持つ人間が一定数いるが、それは物を少し浮かす事が出来る程度の下らない能力でしかない。しかしシドが持つTK能力は凄まじく、周囲の物体を多数宙に浮かせ、思いのままに飛ばすことができる。この能力からレイン・メーカーというあだ名がついたということだろう。レインというのは血の雨を意味している?とにかく怖ろしい能力者だ。悪党になってしまうのは老ジョーが母、サラを殺すのが遠因となると感じた若ジョーが自殺して老ジョーの凶行を止め、そういう未来は回避される。力を発揮する際、演じているピアースという子役がまた迫真の怒りの表情なので、本当に怖い。

項目別評価

あまり激しいアクションシーンというものはなく、SFアクション映画として見るには物足りないが、ビターなエンドで考えさせられる作品。グッドエンドにすることも十分可能な話であったはずだがあえて主人公2人を死なせたことにより、生きるということについて色々と考えさせられる深みのある作品となっていると思う。

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