ユージュアル・サスペクツ 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>ユージュアル・サスペクツ

執筆日:2017年05月04日

あらすじ・ネタバレ

タイトルのユージュアル・サスペクツというのは「常連の容疑者」という意味になる。こう呼ばれるに相応しい、5人のワルたちの物語。
不穏なBGMと共に物語は始まるある男が達観した様子で煙草を吸っている。周囲には死体も。そこに近づいてきた男は「気分はどうだ?キートン」と話し掛けるとそのキートンと呼ばれた男(ガブリエル・バーン)は「足の感覚がない」と答える。そしてキートンが謎の男に「今何時だ?」と聞くと謎の男は腕時計を見て「12時半だ」と言う。すると謎の男はキートンに銃を向け2回発砲。そして男は船の甲板を流れていた油に火を付けた。

場面は変わって、ある男がクイヤン刑事から取り調べを受けている。その男はある事件の関係者。この男、キント(ケビン・スペイシー)が取り調べを受けながら回想を語るという方式で映画は進行していく。
6週間前 ニューヨークで銃を積んだ車がハイジャックされるという事件があった。この事件の容疑者としてマクマナス、ホックニー、フェンスター、キント、そしてキートンという5人の男が集められることになった。この5人のワルたち、ユージュアル・サスペクツは犯罪により金を稼ぐことを考える。キートンだけはすでに足を洗った人間なので最後まで躊躇するが、前科という枷がいつまでもついて回ることに諦観を持っていたキートンは再び悪の道に戻ることに決める。

まずは汚職警官が関わっている宝石の強奪を成功させるキートンたち5人。続いてはレッドフットと呼ばれる男からの依頼でも宝石の強奪を行うことになるが、スムーズにいかず3人を殺すことになってしまう。さらに、そこにあったのは宝石ではなく麻薬だった。この件についてレッドフットに詰め寄ると、さらに大元の依頼者であるコバヤシという初老の男が5人の前に現れた。コバヤシがここでカイザー・ソゼという男の話をし始める。この男はハンガリーでは伝説となっている悪人であり、実はキートンたち5人にはソゼに何らかの形でかかわっているという共通項があり、5人が出会ったのは偶然ではなく、ソゼの手引きによるものだった。
5人に対して「ある麻薬密輸船を襲い麻薬を奪う」ことを指示し、コバヤシは去った。カイザー・ソゼを恐れたフェンスターは逃亡を図ったが、翌日死体となって発見されてしまう。

カイザー・ソゼを恐れる4人だったが、リーダーのキートンは「ソゼなど存在しない」と強気な姿勢を崩さず、コバヤシを殺害することを画策する。しかし、襲撃の際にコバヤシに恋人のイーディ人質を取られ、結局言うことを聞かざるを得なくなる。

結局麻薬を積んだ船を襲うことになった4人。キートンは突入する前に体が弱いキントだけは残るように言う。4人は上手くやり船をほとんど制圧はしたものの、船に麻薬など積んではいなかった。しかし船にはカイザー・ソゼの顔を知る男がおり、「あの男がここにいる」と言ってひどく怯えていた。そしてこの男の前に何者かが現れ殺されてしまう。
ついに冒頭のシーンに繋がる。マクマナス、ホックニーも死んでしまい、キートンも何者かに撃たれてしまう。

キントが語ることによればこの時キントは物陰に隠れており何もしなかったという。そしてそんなキントに対してクイヤン刑事は「お前は本当にキートンが撃たれるところを見たのか?違う、キートンは生きている」と言い、キートンが犯人であると決めつけている。

そうして取り調べは終わり、キントは解放される。その後取り調べ室でくつろいでいたクイヤン刑事はあることに気付く。今までキントが語ってきた話の中で出てきた固有名詞の多くが、ボードに貼ってあるさまざまな書類の切れ端に書かれているということ。弁護士のコバヤシも、クイヤン自身が持っていたカップの底に書かれているものだった。つまり、キントの話はすべて(少なくとも固有名詞に関しては)即興で作ったものだったのだ。そしてこれはキントこそがカイザー・ソゼであることを示している。冒頭でキートンを撃った男、カイザー・ソゼこそキントだった。

慌ててキントを追いかけるクイヤン刑事だったが、すでにキントの姿はない。コバヤシが運転する車に乗ってどこかへ去ってしまった後だった。これがこの映画の結末。

感想・評価

あんな気弱そうで頼りなさそうなキントが犯人なんてええええー!ってオチが待っている作品。
他サイトの解説などを見ると、キントが取調室できょろきょろしているのがボードから適当に固有名詞を見繕っているのを表しているだとか、クイヤン刑事が持っているティーカップの下に書かれている「KOBAYASHI」の文字を見ているシーンもあるのだとか、伏線は色々張られているらしい。

というか、少し冷静に考えてみれば冒頭シーンの声でわかっちゃうっていうね。
冒頭は顔を見せないカイザーという男(キント)がキートンに向かって話しかけ、とどめを刺すシーンが映されるのだが、ここで思いっきりキントの声で話してしまっている。これは字幕版でも吹き替え版でも同様らしい。自分は吹き替えで見たのだが、キントの吹き替えは黒澤良という人がやっていた。冒頭でキントは「どうだ?キートン」とキートンに問いかけたり、キートンの「今何時だ?」という問いに対して「12時半だな」と答えたりしていて、それなりに喋っている。この時の声は、少なくとも吹き替えの場合は「意識して違う声を出している」というような演技でもなく、クイヤンからの取り調べに対して答えるキントの声のままなのだ。まして、この冒頭のシーンの後の最初に話すのがよりにもよってキントの「事の始まりは6週間前〜」という語り。これはなかなか思い切った構成にしてるもんだと、二回見直して感じた。

ただ、これが原因でしょっぱなから犯人が分かってしまった!なんて人はそう多くないような気もする。いや、自分がそうだったからそう思い込みたいのかもしれないが。
というのも、この冒頭のシーンは何も知らない初見にとっては全くさっぱり意味不明であるからだ。キートンという謎の男が顔を見せないカイザーと呼ばれるこれまた謎の男によって銃殺された。初見にとって得られる情報はこれだけであって、まったく意味が解らないのだ。
さらに言えばこの冒頭のシーンの直後にキントが「事の始まりは〜」と話し始めるシーンだって、この時点ではこのキント(という男であることも知らない)が何者であるのか、どういう状況に置かれているかもわからない。だからこの時点で視聴者としては必死に話を理解しようと苦心し始めるところなので、すでに提示されている重大なヒント(どころか答え)には気づかない。今話し始めたこの男が犯人であるとはとても思えないわけだ。セブンでも犯人役はケビン・スペイシーだから怪しいとかそういう話は無しにして、だが。

声でわかってしまう!なんてことが実は制作側が気づいていなかったなんてことは万に一つもあり得ないと見ていい。むしろ、このシーンは完全に無声にしてしまった方が手堅いとも思う。しかしそれはしなかった。これは「例えカイザーの声を出してしまっても大半の視聴者は気付かない」と確信してのものに違いない。少なくとも自分の場合はまさにそうだった。ミステリー作品というのは媒体を問わず、「消費者目線に立ち、ストーリーを追うにつれどういう心理の動きを経るのか?」というのを何よりも考慮しなければいけないものなはずだが、この辺りは大胆でありながら巧みで、実に上手い構成になっている。最初の時点ではあまりに考察の材料が皆無であるため、同じ声であるという実にシンプルな真相に気付かない。本当にミステリーとしては大胆なことをやっていると思う。

ところで、自分は一昨年視聴したロストボディという映画を高く評価したのだが、この映画は全体の構成としてこれに近いと感じた。ロスト・ボディは2012年映画なのでそれを言うのなら逆なのだが、「事件関係者が取り調べを受ける」「取り調べを受けている人物の回想での物語の進行」「物語のキーとなる人物が実は存在すらしないフェイク?に思わせる構成」と、肝となる部分が実に似通っている。もしかしたらロスト・ボディはこの作品の影響を受けているのかも?

構成や見せ方は全編通してなかなか巧妙とは思ったのだが、一つ、粗いなーと感じたのがキントの手の麻痺の件。結局これは演技だったってことか?しかしそんなのアリだろうか。「銃がこんな手で撃てるわけないだろ!」→「いやー実は撃てました、若干申し訳ない」なんてのは流石にえぇ…という感じではあった。
しかし基本的なストーリーや構成はしっかりしていて、どんでん返しな結末の映画を観たい人間にならば文句なしに勧められる作品だと思う。

人物解説

ディーン・キートン

演:ガブリエル・バーン
5人のワルたちのリーダー。弁護士のイーディという恋人と出会ってからは犯罪に手を染めるのはやめてレストラン経営をしているが、前科者であるがゆえにいつまでも成功できないと諦めを持っていて、結局は他の4人と共に犯罪で稼ぐ道に戻ってしまう。ニューヨーク警察はこのキートンが麻薬密輸船の事件の犯人であると確信して捜査しており、キントの取り調べをしているのもこの一環である。落ち着いた物腰だが切れやすい面もある。このキートンが表の主役。クイヤン刑事はキートンこそが裏で糸を引いていて、実は生存していると決めつけていたが、キントに殺されていた。なお、恋人のイーディもキントにより殺されてしまっている。なんか上の絵だと田村正和に似てしまったが、実際は別に似ていない。

ヴァーバル・キント

演:ケヴィン・スペイシー
真犯人「カイザー・ソゼ」その人。物語はこのキントの回想により進行する形式。自分の顔を知る麻薬密輸船に乗っていた男を消すためにキートンたちを利用した。最後の最期でクイヤン刑事にその正体に感づかれてしまうものの一足遅く、まんまと逃げおおせる。実は回想での語りは全て取り調べを受けていた部屋のボードに貼られていた紙(さまざまな事件の手がかりとしてそこに貼られていたもの)に書かれていた固有名詞を適当に使ってのでっち上げだった。少なくとも固有名詞に関してはでっち上げだろうが、自分以外の4人の「ユージュアル・サスペクツ」が死ぬまでに辿った経緯までもが捏造なのかどうかは判断はつかない。画像は刑事に「お前はキートンに利用されただけだ」と言われて泣きそうになるシーンからの模写。キートンを信頼しているキントは「キートンが自分を利用したなんて信じられない…!」と悲しむ場面なのだが…。当然演技。

マイケル・マクマナス

演:スティーヴン・ボールドウィン
忍び込んでの盗みが専門。フェンスターといつもつるんでいる。キントによれば怒ると怖いがいい奴。5人の中では一番の正統派イケメン。フェンスターが死んだ後では低調に埋葬してやると言い、友情を見せる。麻薬密輸船を襲う計画まで実行するも、背後から撃たれて死亡する。

フレッド・フェンスター

演:ベニチオ・デル・トロ
マクマナスの友人。胸元を開いて赤いシャツを着てバカっぽい男。ちゃらんぽらんだが頭は切れる。コバヤシに脅された後に恐れをなして逃げたが翌日に死体となって見つかる。

トッド・ホックニー

演:ケヴィン・ポラック
爆薬を扱わせたらピカ一だが、自分さえいれば他はどうでもいいという人間らしい。マクマナス、キートン同様に麻薬密輸船襲撃計画の中で死亡する。

クイヤン刑事

演:チャズ・パルミンテリ
キントの取り調べを行っているニューヨークの刑事。この人物はキートンが麻薬密輸船の件の真犯人であり、実は事件後もキートンは生存していると確信していた。しかし最後の最後で取り調べ室のボードに今までキントが語った固有名詞が書かれたペーパーが多数張られていることに気付き、キントの話に出てきた固有名詞はすべて適当に即興でつけられたものだと知る。キントが外へ出た直後に慌てて追う物の時すでに遅し、キント、カイザー・ソゼに逃げられてしまった。

コバヤシ

演:ピート・ポスルスウェイト
カイザー・ソゼの使いとして5人の前に現れる弁護士。キートンたちに殺されそうになってもまるで動じることはない胆力を持った人物。最後のシーンでは取り調べを受けたキントの前に現れて車で拾っていく。ソゼが信頼する右腕といったところか。コバヤシという名前はキントが即興で造った偽名(クイヤン刑事が持っていたカップの底にKOBAYASHIと書いてあっただけ)なので本当はコバヤシという名前ではないはず。しかし確かに存在はする。

項目別評価

まさかと思う人物がカイザー・ソゼという結末。冒頭でキートンを殺す人物の声でわかってしまうというような、ミステリーとしては致命的と言える隙を作ってしまってはいるが、自分は気付かなかった。とはいえ真相が明らかになる直前には流石に分かったのだが、恐らくロスト・ボディのような、構成が似ている作品を見ていなかったら騙されていたかもしれない。観たいと思っている人、このページを見ている時点で致命的だが、とりあえずオススメしたい。

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