ウェイバック -脱出6500km- 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2018年1月5日

あらすじ・ネタバレ

第二次大戦中の共産主義国ソ連。主人公、ポーランド人のヤヌシュは「共産党を批判していた」という罪でシベリアの収容所送りになってしまう。これを証言したのはヤヌシュの妻だったが、妻は拷問されて仕方なく証言したのだった。

シベリアの収容所は過酷な場所であり、看守は「囚人が逃げた場合周辺の住民が通報するし、何よりこのシベリアの地を抜けることはできない」と説明した。

それでもヤヌシュは収容所から脱獄することを夢見ていた。収容所内でカバロフという男が「食料を集めて南に進めば、脱出も夢じゃない」という話をしてきたのでヤヌシュは真に受ける。しかし、ミスター・スミスというアメリカ人は「奴はそういう話を新入りに吹き込んで楽しんでいるだけだ」とヤヌシュに説明する。それでもなお、ヤヌシュは脱獄を諦めはしなかった。収容所内では「ウルキ」と呼ばれる犯罪者集団が幅を利かせていて、囚人内で仕切っていたが、このうちの一人のヴァルカという男はヤヌシュが脱獄を図っていることを聞きつけ、「俺も連れていけ。俺のナイフが役に立つ」と言った。

ある吹雪の日、ヤヌシュたちはついに脱獄を決行した。発電機を止めて暗闇になった隙をついてのものだった。脱獄に参加したのはヤヌシュ、ミスター・スミス、ヴァルカのほか、ゾラン、ヴォス、トマシュ、カジクという男たちだった。脱獄の話をしていたカバロフはやはり口だけでありついてこなかった。むしろカバロフは後で看守にチクろうとしていたとして、ヴァルカがカバロフを殺してしまっていた。さらにヴァルカはそのカバロフのコートと食料を奪っていた。ミスターは「危険な男を連れてきたな」とヤヌシュに言った。

ヤヌシュたち7人の計画はまず南に進んでバイカル湖に出て、さらに南へ進んでモンゴルへと出るというものだった。しかし地図も何もない状況での移動は過酷を極める。食料は底をつき、道に迷ってしまったため思った通りには進めない。メンバーの一人カジクは夜に徘徊する夜盲症を抱えていて、極寒のシベリアで一人迷子になってしまう。そしてモンゴルに辿り着いた夢を見る中、凍死してしまったのだった。

ヤヌシュ一行6人に限界が近づいてきた。狼が食っていたシカを奪って躊躇なく生で食うほどだった。バイカル湖に辿り着けば魚も取れるのだが思ったようにたどり着けない。ヤヌシュは一人で先行してバイカル湖を探し出して、息も絶え絶えで戻ってきた。

ついにバイカル湖に辿り着いたが、ここでミスター・スミスは何者かが自分たちを尾行していることに気付く。それは1人の少女だった。ヤヌシュが話すと「名前はイリーナで、ソ連の集団農場から逃げ出してきた。お腹が減っていたが、ヤヌシュたちがロシア人かと思って近寄れなかった」という事情だったことがわかった。ヤヌシュは連れていきたいと言うが、他のメンバーからは「食料も余裕がないし足手まといだ」と言って却下された。それでもイリーナはついてきた。

バイカル湖沿いで鹿を偶然捕まえられて久しぶりに肉を食べることができた一行。ここでヴォスはイリーナを連れてきて肉を食べさせた。こうしてイリーナもヤヌシュたちの旅に正式に加わることになった。

イリーナの話は「ワルシャワで農場をやっていてらロシア人がやってきて両親を殺された」という話だったが、ミスターは「ワルシャワはドイツ領だからそんなはずはない」と看破。嘘だと見抜いた。イリーナはヤヌシュらの同情を得るため嘘を言ったのだった。ミスターは「もう二度と嘘はつくな」とイリーナに言った。

バイカル湖を抜けた先に雪はなく移動は楽になったものの食糧問題は解決しなかった。町があったが、町に入れば脱獄囚であるヤヌシュたちは捕まる。それでも町に入って食料を調達することを提案するヴァルカ。気付くといなくなっていて、一人で町に潜入して食料を調達してきた。裏切ったと思い込んだミスターはヴァルカに一時つかみかかったが、ヴァルカのおかげで一行は腹を満たせたのだった。
ここでイリーナは本当の身の上を明かした。「両親はポーランドの共産主義者で、ソ連のモスクワに住んでいた。他の共産主義者と共に暮らしていたがスパイ擁護で両親は捕まった。自分と弟は養護施設に送られたが弟は死んだ。ロシア名はつけられたが、ジェリンスカという本当の名前もある」と説明した。その養護施設から脱走してヤヌシュたちに出会ったのだった。

一行は今度は蚊に悩まされたが、ゾランが通行人に話しかけて何かうまいことを言って首にかける蚊避けを入手した。
そしてついにソ連とモンゴルの国境に辿り着く。道中は「アメリカへ行く」などと言っていたヴァルカだったが、結局はソ連に残る選択をする。「残れば必ず捕まるぞ」とヤヌシュは言うが、「もう貸しのあるウルキは負ってこない。それに自由になってもどうしていいかわからない。」と答えた。こうしてモンゴルに入らずヴァルカはソ連に残ったのだった。あらくれ者だったがなんだかんだ世話になったヴァルカに対してヤヌシュは「幸運を祈る」と言って別れた。

ヤヌシュ、ミスター・スミス、ゾラン、トマシュ、ヴォズ、イリーナの6人はモンゴルの町に辿り着いてようやく共産主義からお別れだと喜びはしゃいだが、モンゴルもソ連の手がのび、共産主義だった。仏教の寺院を見つけたので助けを求めようとしたが、そこには誰もおらず、荒れ果てており、いくつもの人骨まで埋まっていた。共産主義は仏教の存在も許さず弾圧を行っていた。ソ連でも同様の宗教弾圧は行われており、ここで元牧師のヴォズはイリーナにかつて人を殺したことがあること告白した。ラトビアの教会で牧師をやっていたが、ソ連の少年兵の首を締めて殺したという話だった。このことを別れたヴァルカだけが見抜いていた。

モンゴルがダメとなるともはやさらに南のチベットを目指すしかなくなった一行。しかしそれには南北に1000km近くもある広大なゴビ砂漠を抜けなければならないのだった。

かつてのシベリアと正反対の灼熱の環境はシベリア以上に過酷だった。今度は食料どころか水さえない。食料といえばトカゲくらいだった。水が尽きたところで奇跡的に水場を見つけたが、いつまでもそこにいるわけにもいかないので、惜しみながらも離れ、南を目指すしかないのだった。

そうしてついに限界が近づいてきた。まず絵描きのトマシュが倒れた。息を引き取る彼に対して仲間たちは「お前なら立派な絵描きになれる」と励ますことしかできなかった。

続いて倒れたのはイリーナだった。彼女は最後まで「自分の本当の名前はジェリンスカだ」ということを主張していた。彼女と特に親しくなっていたミスター・スミスは「よく頑張った」と言った。

トマシュ、イリーナがいなくなり生存しているのはヤヌシュ、ミスター・スミス、ゾラン、ヴォズの4人だけとなった。しかし広大すぎるゴビ砂漠を未だ抜けることができず、ミスター・スミスはかつて収容所でヤヌシュに「お前は優しいから俺を見捨てない」などと言っていたが、ここで「俺に構わず先に行け」とヤヌシュ言う。しかしやはりヤヌシュは見捨てなかった。肩を貸して共にゆっくりと歩を進めた。

そしてついにゴビ砂漠を抜けた。そこは緑豊かな地で、川もあった。久方ぶりの恵みを享受し、四人は息を吹き返したのだった。そして目指していたチベットに辿り着いた。共産主義ではないチベットの村は四人を温かく迎えてくれた。

村に泊めてもらった四人は今後どうするかを話し合う。ヤヌシュ、ゾラン、ヴォズの三人はさらに南のインドを目指し、アメリカ人であるミスターだけはチベットの首都とであるラサを目指すということだった。インドへの旅は危険ではないということだったが、今は時期が悪いので春になってからがいいとチベット人が説明してくれたが、「今泊まったら動けなくなる」とヤヌシュは今、インドへ向かうことにした。当初は春を待つつもりだったゾランとヴォズだったが、一人で向かおうとするヤヌシュを追いかけた。

そうしてミスターと別れたヤヌシュ、ゾラン、ヴォズの三人はついにインドへとたどり着いた。インドの人々もチベットの人々と同じように温かく迎え入れてくれた。こうして彼らの6500kmにおよぶ旅はよやく終わりを告げたのだった。

ここでその後のソ連、そしてヤヌシュの故郷のポーランドの歴史映像が流れる。1945年の終戦、1945〜1948年にソ連がポーランドを共産主義化し鉄のカーテンで東欧が覆われた、1956のハンガリー動乱、1961年のベルリンの壁建設、1968年のソ連のポーランド侵攻、1980年のポーランドの民主活動活発化、そして1989年の共産主義崩壊。これによりようやくポーランドは解放された。
結局、ヤヌシュは50年近くにわたり故郷のポーランドに帰ることはできなかったのだった。

ラストシーンではヤヌシュが家に戻るシーン。年老いた妻が彼を迎え入れ、2人は抱きしめ合った。

感想・評価

6500kmの逃走劇。冒頭ではこれは実話を元にしているというようなテロップが出るが、調べると「確かに脱獄したポーランド人がいたのは確かだがこの映画は本質的にはフィクションだ」ということらしい。いやどっちよはっきりしろよ結構そこ重要だろと言いたくはなるが。

素晴らしい映画だった。6500kmの逃避行、という言葉から想像したものから大きく外れるような出来事はないのだが、登場人物それぞれのキャラ立ちがよく、特にメインとなるヤヌシュとミスター・スミスとヴァルカの3人に関しては、全員が大物を起用しているだけあってどれも良いキャラクター。

収容所内でミスター・スミスがヤヌシュに対して「脱獄するなら癒え、俺も行く。お前は優しいから俺を見捨てないから利用できる」とか言った時、凄いこと言うななんだこの爺さんすごいしたたかだな、と感じ、ヤヌシュとこのミスターの関係がどうなっていくのか俄然気になってしまった。そしてその前振りがあってのがゴビ砂漠の会話。あんなこと言っといて「俺は放っていけ」と言う瀕死のミスターに、それでも見捨てず肩を貸してやるヤヌシュ。実にぐっとくる。

ヒロインのイレーナが女性ゆえの体力のなさからかトマシュ同様にゴビ砂漠で力尽きるのはやるせないが、ここでミスターが「よく頑張った」と言ってやるのもまた。ミスターは最初は「足手まといだ」と言っていたのだが、そのうち、イレーナに対して最も情を見せるようになる。きっと死んだ息子を重ねていたのだろう。直前でモンゴルの遊牧民を欺くために親子のように見せかけたりもしてるだけにね。

あらくれ者のヴァルカは人殺しも厭わない上に「あいつら(ゾランとトマシュ)が死んだらその肉を食ってやる」とかヤヌシュに言うヤバい人物だが、逃避行の中では頼りになる人物。彼が「自由になってもどうすればいいのかわからねえ」と言ってモンゴルに入ることなく去り、その背中を見送るヤヌシュのシーンも色々と考えてしまうシーンである。

視聴者の想定外のことは起きないが、登場人物たちとそのやり取りが魅力的で、さらに妥協のないロケによる荘厳な大自然映像も相まって、極めてクオリティの高いロードムービーとして仕上がっている。観て絶対に損はない。オススメ。

登場人物解説

ヤヌシュ

演:ジム・スタージェス
ポーランド人の主人公。ゾランと〜と共にインドへ。山での暮らしが長かったらしく、特に脱獄からバイカル湖に辿り着くまではヤヌシュがいなければ不可能だった。ミスター・スミスに「お前は優しいから俺を見捨てない」などと評されたが、その通りで、非常に良識的な人物。ソ連崩壊の1989年になってようやくポーランドへ帰国。

ミスター・スミス

演:エド・ハリス
年長のアメリカ人。大恐慌のせいでソ連へ。息子がソ連に捕らえられ17才で死んだため来たことを悔やんでいる。ゴビ砂漠を抜ける直前で瀕死になりヤヌシュに「先に行け」と言うが、ヤヌシュは肩を貸してやった。ヤヌシュ、ゾラン、ヴォスと共に生存してチベットまでたどり着いたが、チベットで3人とは別れ、ラサへ行きアメリカ軍へ合流したらしい。

ヴァルカ

演:コリン・ファレル
あらくれ者の「ウルキ」と呼ばれるソ連人犯罪者。資産家から金を盗むから共産主義ソ連からは優遇されて収容所での囚人を仕切る権利がある。しかし賭けで負けが込んでツケがたまったためヤヌシュと共に逃げることに。ナイフを持っているため重宝。ヤヌシュに敬意を払っている。またスターリンを尊敬しているらしく胸にスターリンの顔の彫り物をしているが、ゾランにそれをからからわれて激昂した。モンゴルの国境まで逃げたところで「自由になってもどうしていいのかわからない」と言い、ソ連に残る。恐らく再び収容所行きだが、彼としてはツケがある相手から逃げられればよかったらしい。

ゾラン

演:ドラゴス・ブクル
おしゃべりな会計士。クレムリンの写真を撮影したらつかまった。生存しヤヌシュ、ウォスと共にインドへ。ミスターには「会計士ってのは無口なもんだがな」などと評された。トマシュと仲が良かったため、死んだトマシュの絵を新聞に投稿してやりたい、それに道中トマシュが話していた料理のレシピを試したいと言ったりしている。

ヴォス

演:グスタフ・スカルスガルド
牧師。ソ連での宗教弾圧の際に少年兵を殺しており、それをヴァルカだけが見抜いていた。生存しゾランと共にインドへ。口数が少なく最も影の薄い男だが生存。チベットで今後何をしたいかという話になった時は再び牧師になるのではなく、「戦って死にたい」と言った。こんなこと言ってるので、生存した4人の中では最も早く死んでいそうな気がする。

イリーナ

演:シアーシャ・ローナン
モスクワに住んでた。同情を買うためヤヌシュには「ワルシャワで農場をやっていたが両親を殺された」と嘘を言っていたが、事実は「モスクワに住んでいてスパイ容疑で両親が捕まった後は養護施設におり、そこから脱走した」というものだった。嘘をつかなくても悲惨じゃないか、というのはツッコミどころなのだろうか。女性の体力でゴビ砂漠を乗り切ることは到底不可能で、トマシュ同様にゴビ砂漠で力尽き死亡。彼女に対しては誰もが口が軽くなってしまったようで、最も自分を語らないミスターですら身の上を話していた。まさに一行の中では清涼剤、お姫様のような立場だったのだろう。

トマシュ

演:アレクサンドル・ポトチェアン
ケーキ職人の絵描き、砂漠で死亡。ウォスと仲が良く、料理のレシピの話をしていた。収容所内ではヴァルカに頼まれて女の裸の絵を描かされていた。ゴビ砂漠で力尽きる。

カジク

演:セバスチャン・アーツェンドウスキ
ユーゴ人。夜に徘徊してしまう、夜盲症。そのためみんなと夜間はぐれ、シベリアを越えられず、幻を観ながら凍死。最初に死亡。

カバロフ

演:マーク・ストロング
脱走しようとヤヌシュに持ち掛けた本人だが、実際はそう吹き込むだけで実行する度胸はない男だとミスター・スミスに断じられた。ヤヌシュたちが逃げた時に「チクった」らしく、描写はないがヴァルカが殺してしまったらしい。

ヤヌシュの妻

ヤヌシュが尋問を受けている時「夫は共産主義を批判した」と証言とした。しかしそれは泣きながらのものであり、明らかに拷問により強要されたものだった。ヤヌシュは「妻は自分を責めているだろうから家に帰ったら自分は妻を責めてなどいないということを伝えたい」とミスターに語っていた。

項目別評価

シベリアから逃亡した8人+イレーナで9人が逃亡劇を行うことになるが、それぞれキャラが立っていて愛着が沸く。過酷な環境下での逃走劇には目を奪われ、特にゴビ砂漠以降からは一時も目が離せない。文句なしにオススメ。

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