夜明けのゾンビ 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>夜明けのゾンビ

執筆日:2015年08月12日

その他ゾンビ映画の感想

評論

月額1000円払えば映画見放題なhuluに入会。3時間超というかつてないボリュームのシンドラーのリストのレビューを書いたばかりだが、興が乗ったのでもう一つ今日は書く。その名も「夜明けのゾンビ」。タイトルがまた微妙というか絶妙というか、とにかく内容が予想できないな。

あらすじとストーリーのネタバレ解説。

1800年代、南北戦争が終わったときのアメリカ。主人公のエドワードは南北戦争末期からゾンビを目撃していた。戦争後、妻と子供の3人で暮らしていたエドワードだが、ある日妻がゾンビになってしまい、やむなく自ら殺害した。そしてどこかに行ってしまった息子を探すために旅に出る。
息子を探す中、ゾンビは頭を撃てば死ぬこと、人肉以外に興味を示さないこと、火を嫌うことなどをエドワードは知る。そしてついに息子のアダムを発見するも、すでにゾンビとなってしまっていた。慟哭しながらも妻と同じようにエドワード自身がトドメをさす。もはや生きる意味などないと自殺を図るも、勇気が出ず結局は死ぬこともできない。そんなとき、かつてアダムと話した「滝」について思い出した。いずれアダムを連れていってやると約束したエリスの滝という場所である。そこは安らぎを与えてくれるという場所であり、その滝の絵をエドワードは戦争中常に持っていてお守りとしていた。自分の家を燃やして未練をなくし、息子の遺灰をエリスの滝まで持っていって散灰しようと決めたエドワード。旅が始まった。

旅の途中、馬のシャイローがゾンビに噛まれてしまった。せめてもの愛情としてエドワード自身がトドメを刺した。これで彼は家族を3人も自らの手で楽にしてやったことになる。
その後立ち寄った村でアイザックという生きた男と出会う。一度殴られ気絶させられるエドワードだったが、和解して互いを語り合う。アイザックは両親をなくし、はその村を家にしていた。そしてエドワードに手を貸してほしいと言う。ウィリアムズという男に妹がさらわれたというのだ。連中は強姦や略奪を行うとも。しかも、免疫を持った人間を探しているのだと。ウィリアムズは南北戦争で南軍の将軍だった。腹心の部下が2人。ウェイン伍長、ロイ伍長だ。ジョンソンという軍医もいる。彼らはゾンビを利用して元の南部を取り戻す計画を立てているとのこと。エドワードは最初は断っていたが、家族の大事さを強調するアイザックの説得により手を貸すことに。

ウィリアムズの縄張りに入った際の夜、アイザックがこの場を離れた際にウィリアムズたちに囲まれてしまう。そして囚われたエドワード。彼が牢に入れられると、そこにはアイザックの妹エマが。ウィリアムズたちは捕らえた人間たちを実験体にして、ゾンビに免疫がある人間を探しているのだという。 アイザックにより救出されたエドワードとアイザックの妹エマ。しかし脱出の際にエドワードが銃弾を受けてしまう。 エドワードをを助けてもらうには魔女と呼ばれる女性のところへ行くしかないと考えるエマ。 魔女と呼ばれる女性イブの力により確かにエドワードは助かった。そして魔女のところに匿ってもらうつもりならばゾンビが落ちるための落とし穴を掘れとアイザックとエマに言う。そしてエドワードたちはしばらくイブの家に滞在することとなった。エドワードはイブの様子から、彼女にはなんらかの秘密があるとエドワードは見込んでいた。

ある日、エマがゾンビに噛まれてしまったことがあった。アイザックは動揺しながらも妹を撃ち殺そうとしたが、エマは数週間前にも噛まれたことがあったが、ゾンビにならなかったと言う。エマには免疫があったのだ。
イブがある日隠し事を話す。イブの妹がかつて強姦されて妊娠し、中絶したら人殺しだとして絞首刑になったのだ。そしてイブも反逆者として町を追い出された。そして行き着いたのがメリンダという女性の家、現在のイブの家だ。そこでイブはある研究をした。死者を生き返らせるという魔術を妹にかけたのだ。それにより妹は生き返った。が、それはゾンビだったのだ。それをきっかけにゾンビは爆発的に増えていった。ゾンビが蔓延するようになったのはイブのせいだったのだ。しかしエドワードは彼女を糾弾したりすることはなかった。 イブの家にある書物には過去にもゾンビが増えたことがある事実を示していた。過去にも権力者たちがゾンビを利用しようとしていたというのだ。

エドワードはまた最初の目的地の滝を目指してアイザック、エマ、イブと別れる。
エドワードは滝を目指す途中、「かつて彼らも人間だったのだ」と、ゾンビを殺すのをやめた。そしてついに滝にたどり着き、息子アダムの灰をまいた。
一方、ウィリアムズはエマが免疫を持っていることをつかみ、ついに本格的にアイザックたちを狙う。 エドワードがアイザックたちのもとへ戻ってくると、イブが瀕死の状態でおり、アイザックとエマはさらわれた後だった。イブは死に、エドワードはアイザックとエマの救出のために動く。 大声を出してゾンビをおびき寄せてからウィリアムズたちのアジトへともぐりこむという作戦を取ったエドワード。ゾンビにウィリアムズたちを襲わせ、その隙にエマとアイザックのところにたどり着くも、アイザックが敵に撃たれて死んでしまう。アイザックは「お前が終わらせろ」とエドワードに言って息を引き取った。
エドワードとエマは逃げるが、エマはイブの家へ帰らせ、エドワードは一人で片を付けるとして残った。 エドワードたちだけが把握している落とし穴を利用してウィリアムズの部下を倒し、ウィリアムズとも1対1の抜き撃ち勝負で勝利したエドワード。イブの家に戻り、エマと抱き合うのだった。

そして最後のエドワードの語り。「ゾンビの蔓延する世界でも希望を持てる」と。
いつも見ていた、振り返った妻が恐ろしい顔の化け物となっていた悪夢。しかし最後は在りし頃の人間の姿の妻、そして息子の姿、二人の穏やかな顔をエドワードは見た。

ここから感想とレビュー。書いたとおり、最後はエマと結ばれたエドワードの「ゾンビが蔓延する世界でも希望はある」という言葉で締めくくられるわけだが、これはこないだ感想書いたばかりのゾンビランドとまるで同じようなテーマだ。あちらは「ゾンビの蔓延する世界でも家族と呼べる存在を見つけた」という主人公の歓喜で物語は締められる。ゾンビが蔓延している世界でありながら、その状況をどうにかしようとか奔走するマクロ的な話ではなく、あくまで個人の内面にスポットを当てるという内省的な話であるという点、この二つの映画は同じだろう。

しかし、作風がまるで真逆。ゾンビランドは現代を舞台にしており、ゾンビ世界でも前向きに好き勝手やったりする登場人物を見て楽しめる映画だが、こっちは最初から最後までエドワードの悲壮な姿、語りを見せられることになる。舞台もほとんど森しかうつらない。まさに正反対である。
どうしても比べてしまうのだが、悪く言えば辛気臭いこの映画を見るよりはゾンビランドを見たほうがずっといいなと。この夜明けのゾンビは、はっきり言えば真面目すぎる、辛気臭すぎる。ゾンビランドの主人公は引きこもりで家族とも疎遠気味だったという現代ならではの設定なので、家族が死んだとしてもさほど悲壮感はないのだが、こっちは慟哭しながら、自分の全てであったろう妻や息子を殺すエドワードが序盤でずっと映されるもんでちょっと滅入ってくる。この作品はゾンビが非常に弱くて登場人物がほとんど苦戦しないのもあって、ゾンビが現れても危機感も薄くてローテンションすぎる。もっと明るくゾンビ映画しようぜ!って言いたくなってくる感じがある。

特徴的なのはまるで絵本を意識したような、要所要所で入れられる漫画タッチの演出だ。イブの妹の悲劇が語られる際や、エマがゾンビに噛まれた際にこのアニメ的な演出になるのだが…。正直、これもあまり意味があったようには思えない。19世紀の人間のエドワードの日記が現代で読まれている、という構成で物語が語られるがゆえの演出なのだろうが、これがいい味になっているかといえばそうでもなく、あってもなくてもいいような、なんでこういう演出を使うんだろう?と思いたくなってしまうような、そういう演出だった。もしかすると予算削減の意味もあるのだろうか?

キャラクターに関しても、どれも印象的なキャラというものがおらず、エドワード、アイザック、エマ、イブ、敵方の4人、どれをとっても特に印象的なキャラクターがいない。薄味だ。イブに関しては何か秘密を抱えているっていうことになって何かな?と思ったらまさかの元凶だったという。ちょっと嫌な意味で予想外だった。彼女のせいで家族全員が死ぬことになったってのにエドワードは寛容だな…なんて思った。

項目別評価

ゾンビが蔓延している世界でも前向きに生きていく、というようなテーマでありゾンビランドと同じようなものだが、作風はまるで真逆だ。こちらは徹頭徹尾悲壮感に溢れており、また時代が1800年代なだけにロケーションもほとんど森だけで非常に地味。これを見るならばゾンビランドをオススメしたい。少なくともエンターテイメントとしてはあっちのほうがずっと上だが、真面目な、落ち着いた雰囲気が好きならばこれを見てもいいだろう。構成としては綺麗にまとまっているし、特別つまらないということもない。それと、これのゾンビは足が鈍くて力が強いわけでもないという、おそらくはゾンビ映画でも屈指の弱さなので、強いゾンビを見たいならば期待できないので注意。

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