許されざる者(1992) 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2016年09月29日

ストーリー・ネタバレ

4ヵ月ぶりほどに映画感想。9/29の20〜22時にBS7で放送されていた西部劇映画。クリントイーストウッド監督/主演。まずはあらすじ。

ビッグ・ウィスキーという街で娼婦が、近くの牧童二人に顔を傷つけられるという事件が発生する。町の保安官のダゲットは牧童二人から馬を取りあげるのみで、娼婦が希望するような報いは受けさせなかった。
これがきっかけとなり、娼婦たちはこの二人に懸賞金をかける。娼婦仲間たちが必死に出し合った1000ドルを懸賞金として、一帯に話を広めた。

貧しい農業暮らしをしているウィリアム・マニーの耳にこの話を届けたのは若いガンマンであるスコフィールド・キッド。マニーは10年以上前は殺人や盗みなど悪行を繰り返していたアウトローだったのだが、クローディアという女性と結婚してからは改心し、今のような暮らしをしていた。そのためキッドから話を聞いても乗らなかったのだが、息子と娘を持ちながらもマニーの生活は厳しかった。金のために、「気が変わったら俺を追いかけてくれ」と言い残したキッドを追うことにした。この際、かつての仲間のネッドも誘った。
キッドは追って来たマニー、ネッドを最初は敵だと思った(マニーが仲間を連れてくるとは思っていなかったため)が、1000ドルは三等分するとして、結局仲間として受け入れることになる。

ビッグ・ウィスキーでは保安官ダゲットが権力を振るっていた。ブーシャンプという物書きを連れて町に入って来たイングリッシュ・ボブという男性が「街に入ったら誰であろうと銃を預ける」という決まりを守らなかったために手ひどい暴力を振るって拘束した。イングリッシュ・ボブという人間は過去に、銃を持たない人間を撃ち殺したという事実に尾ひれをつけてさも武勇伝のように語り威張っていた男だった。ダゲットはこの話の真実を知っていたのだった。

嵐の夜にビッグ・ウィスキーに到着したマニーたち三人。入り口付近の看板に銃は差し出さなければならないことが書いてあったのだが、嵐で見通しが悪いために見逃してしまい、そのまま酒場へ入ってしまう。
ネッドとキッドが娼婦の相手をしている間、マニーが一人きりのところにダゲットに目をつけられて銃を出すようにマニーは迫られてしまう。銃は持っていないととぼけたが、見破られ、マニーもまたイングリッシュ・ボブのようにひどい暴力を受けて酒場から追放されてしまう。窓から抜け出したキッドとネッドにより救われ、街付近の小屋で三人は数日を過ごしたが、マニーはその間うなされ続けていた。しかし娼婦のデライラの看病のおかげでマニーは復帰する。

その後、三人は当初の標的である牧童の一人を岩場で撃ち殺した。殺したのはマニー。この後、ネッドは急に殺しにためらいを持つようになり、一人抜けることになった。マニーはネッドに対して懸賞金を持って行く約束をする。
マニーとキッドは牧場へ行き、残り一人の標的である牧童も殺す。殺したのはキッドだった。

キッドはこれまで五人殺したことがあるとマニーとネッドに話していたが、実はこれが初の殺しだった。ざまあないと言いながらも、初めての殺人により、キッドはひどく動揺していた。依頼主である娼婦との待ち合わせ場所で、キッドは泣きながらウィスキーを飲んでその動揺を消そうとしていたのだった。
娼婦が金を持ってきて二人の元へやってくる。あとは帰るだけだが、娼婦から「ネッドが死んだ」という事実を二人は聞く。酒場の前にその遺体は晒し者にされたことも。ネッドは一人帰る途中に捕らえられ、ダゲットに拷問されていたのだった。この話を聞きながら、断酒したはずのマニーはウィスキーを飲み、かつての悪逆非道を尽くした頃のマニーに戻る。保安官ダゲットを殺すことを決意するマニーだが、キッドは「あんたとは違う」と言い、分け前を持って去った。キッドは全額をマニーにやるつもりだったが、マニーは当初の約束の通りキッドに渡して、「眼鏡を買え」と近眼のキッドに言った。

ビッグ・ウィスキーではダゲットがマニーとキッドを捜索するために息巻いていたが、そのただなかにマニーは現れ、ネッドの仇だと宣戦布告する。ショットガンの不発などの事態に見舞われたにも関わらず、ダゲットに手ひどくやられたマニーとは別人のように、ダゲット含む五人を素早く撃ち殺したマニー。「また娼婦を傷つけたりしたら許さない」と言い残してマニーは町を去った。その姿をブーシャンプや娼婦たちは畏れながらも、尊敬も含んだような眼差しで見送った。

最後に、マニーの妻だったクローディアの親がマニーの住処を訪れ、マニーとその子供二人はこの事件の後に消息を絶ちどこかへ消えたこと、なぜあの優しかったクローディアが悪行を働いたマニーと結婚したのかを疑問に思ったことを示す一文が画面に表示され、物語は終わり。

感想・評価

西部劇だというのにスマートな印象がない作品。主役のマニーの動向というと、豚に引っ張られて情けなく泥に這いつくばったり、11年ぶりに銃を取り出して撃つが全く的に当たらなかったり、しょうがないので効果範囲の広いショットガンを持ち出してようやく当てたり、キッドの銃に驚いて馬から落ちて鼻血を出したり、ビッグ・ウィスキーという街に着いた時にはいきなり幻覚を見始めて怯え始めたり…とほとんど格好いい場面がない。格好いいのは最後に保安官たち5人を殺害するときのみ。

でも、この最後のシーンに至る前、娼婦からネッドの死を聞かされたシーンでは、過去、極悪人だった頃のマニーに戻るのがよくわかってなかなかよかった。ネッドが死んだことを聞かされ始めたとたん、断酒していたはずなのにキッドの飲んでいるウィスキーをがむしゃらに呑み始める。直前ではキッドに対して「昔は年中酔っていた」と言っている。まるでネッドが死んだという事実を認めたくない、悪い夢だということにしたいとばかりに、いきなり酒を飲み始める。この間に、娼婦がマニーの過去の悪行を語るのもあって、過去のマニーに戻っているということが強調されている。それまではどう見ても情けない、人々を畏れさせた極悪人のようには見えないのに、この演出のおかげで、特に回想もなしに、視聴者に対しても畏怖を感じさせるようにできている。ここが上手いと思った。

あと思ったのだが、物語的には黒幕は娼婦を傷つけた牧童というわけではなく、ビッグ・ウィスキーの保安官のダゲットなのだが、別にこの人間、冷静に考えるとそこまで悪人というわけでもない気がした。武勇伝をイングリッシュ・ボブやマニーに過剰に暴力を振るってはいるのだが、それはどちらも銃を出す必要がある決まりを守っていなかったからだし、発端である二人の牧童の罪をある程度軽くしたのも、娼婦目線で見れば許せないったって、娼婦が1000ドルの懸賞金をかけたこと自体が、そもそも道義的に見て正しいとは言えないとも考えられるし。でもマニーには「生きてる価値がない」とまで断言されて殺されてしまう。まあネッドを晒し者にしたのとかはちょっと流石に過剰か。

「許されざる者」というのは邦題だが、原題も「Unforgiven」であって、意味は全く変わらない。これは誰のことを指すのかと考えると面白い。
候補としては、@娼婦を傷つけた牧童二人、A過去に悪行を働いたマニー、B保安官としてもやりすぎなダゲット、C殺人を犯した人間全部、あたりが挙げられると思う。多分、@と見せかけてのAが濃厚だと思われるのだが、個人的には、Cなのかなと。キッドが牧童を殺したシーンの後はマニーの活躍シーンとはいえ、作中の描写としては明らかに殺人を非難する雰囲気。キッドは牧童を殺してしまったことを激しく後悔し、マニーに対して「俺はあんたとは違う」とも言う。ネッドも過去にマニーと悪事を働いていたので、拷問の末に死んだのはある意味許されなかったからの因果応報の結末ともとれる。マニーが保安官たち5人を殺して終わりとなってしまう作品だが、うーん果たしてこれでよかったのか?と疑問になる若干の後味の悪さを残す。何かすっきりはしないものの、そのあたり考えさせるものがあって、不思議な後味のある作品に感じた。

項目別評価

西部劇なんてほとんど見てないが、西部劇、にしては不格好なシーンが多い妙な作品ということはなんとなくわかる。主人公がどれをとっても不格好なことばかりする。しかしだからこそ、ネッドの死を聞いてウィスキーを飲みだした時に「お、変わったな」と思えるものがあった。一応悪役を倒して終わりという、流れだけ見れば勧善懲悪的ではあるが、キッドが殺人を泣いて後悔したりした後でのそれなので、カタルシスはあんまりなく、ちょっとすっきりはしない。

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