ゼロ・ダーク・サーティ 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>ゼロ・ダーク・サーティ

執筆日:2017年05月14日

あらすじ・ネタバレ

2001年にテロ組織「アルカイダ」を率いるウサマ・ビン・ラディンが首謀者とされるアメリカニューヨークの911テロが発生してから、アメリカの米中央情報局(CIA)はビン・ラディンを追い詰めるために奔走していた。捕えた関係者には容赦なく拷問にかけるほどに手段を選ばなかった。2003年、CIAに分析官として配属になった20代半ばの女性マヤ(ジェシカ・チャステイン)。彼女は高卒だが分析官として高い能力を持っていた。同僚にはダニエル(ジェイソン・クラーク)やジェシカ(ジェニファー・イーリー)がいる。過激な手段を取ってもなかなかビン・ラディンに繋がる手掛かりを掴めないマヤたち。ビン・ラディンの側近と思われるアブ・アフメドという男性が鍵を握ると考えたマヤは何年にもわたり、この人物の居場所を掴むために尽力した。

同僚のジェシカもまた目的を同じくする仲間だったが、彼女はアルカイダの医師を時間をかけて懐柔して彼から話を聴こうとする。アフガニスタンを待ち合わせ場所にして落ち合ったのだが、現れたのは別の人物で、しかもその人物は自爆テロを実行する。至近距離にいたジェシカほか、CIA職員6人、合計7人がこの自爆テロにより死ぬこととなってしまった。これは2009年に実際にあったCIA職員が7人死亡する事故と一致するのでそれを表しているのだろう。

この事故後、ますますアルカイダに対する執念を燃やすマヤ。ついにアブ・アフメドが潜伏していると思われるパキスタンに隠れ家を発見する。そしてここにはビン・ラディンも潜伏しているともマヤは確信するのだった。しかし色々な事情によりがんじがらめにされ、一月経っても二月経ってもこの隠れ家への奇襲作戦は実行されない。煮え切らない意見が多いなか、ただ一人マヤだけが「100%ここにいる」と断言するため、それが決め手となり上層部は動いた。

ついにパキスタンで夜間の奇襲作戦が行われる。SEALsによってこの作戦は行われた。
捕えることではなく最初からビン・ラディンの殺害を目的としたものであったため、隊員たちは隠れ家において成人男性を見つければ容赦なく、見つけると同時に殺害していったのだった。泣き叫ぶ女子供をなだめつつ、隊員たちは任務を遂行、隠れ家にいた成人男性は全て殺害された。

作戦実行はパキスタン政府には知られないよう行われたが、開始後間もなく察知されたため、作戦後は迅速に離脱する必要があった。
作戦により殺害された人物の遺体はSEALsにより運ばれた。マヤがそのうちの一人の遺体を確認する。それはマヤが何年も追い続けていたビン・ラディンだった。その遺体を確認した後マヤは一人、軍用ヘリを借りて帰っていった。そこでマヤは色々な感情が噴出したのか、一人で涙を流す。これが結末。

感想・評価

Huluで視聴したが、「CIA所属の若き女性分析官が911テロ首謀者であるビン・ラディンに辿り着くまでを描いた作品」という内容のさわりだけを知った上で観た。視聴後にWikipediaで調べてみたところ、「登場人物にモデルはいるものの完全に同一人物ではなく、主人公のマヤに関しては複数の人物を元にしているので特定の人物がモデルというものですらない」ということを知った。とはいえ、「2009年に年末に自爆テロにより複数のCIA職員が死亡したこと」や、何より2011年5月に「ビン・ラディンを殺害した」という事実が現実と一致している以上、この作品はドキュメンタリーとしての面が強いのは間違いないだろう。「登場人物などが完全な実話ではないがビン・ラディン殺害に至る経緯は現実と同じ」ということだろう。こんなデリケートな話に脚色や尾ひれをつけたら色々なところが黙ってはいなそうだし。

そしてなんとこの作品、2時間40分ほどもある長編。2時間ほどはあまりドラマチックではなく、どちらかというと淡々と、マヤたちCIAがビン・ラディンの側近と思われるアブ・アフメド、そしてビン・ラディンへたどり着くために奔走する姿が描かれる。やはりこれは現実にあったことなのであまり演出をくどいものにすると脚色が入ったり、中立でなくなったりすることを避けているんじゃないかとも思った。だがそれだけに、退屈と言えば退屈なシーンも少なくない。大きく印象に残るシーンといえばやはり主人公マヤの同僚であるジェシカがアフガニスタンの自爆テロで死亡するシーンがあるが、これ以外では特に印象に残るシーンはなく、「とにかく頑張ってビン・ラディンを追っていた」という漠然とした印象しかない。映画の中で例えば「The saudi group」や「Human Error」というようなテーマが出て、数十分はそれを主題とした展開が続く、Human Errorならば、人的誤りのために重要な手がかりを見逃していた、という話が語られる。

2時間以上もそういう風にいくつかのエピソードごとに分けられて徐々にビン・ラディンに迫る様が描かれるのは冗長と感じることもあるのだが、それだけにどれだけCIAが苦労したのかは十分に伝わってくる。作中でマヤが上司などから「まだアブ・アフメドを追っているのか」のような皮肉の入ったニュアンスでよく言われていた気がするが、視聴者としてもこの気持ちにちょっと同意してしまう。まーだやってんのかと。しかし、それだけに最後の最後でマヤがビン・ラディンの遺体を確認し、一人現場を去るというシーンで静かに涙を流してエンドクレジットに入るシーンは感慨深い。2時間もかけてたっぷり描写してこそのものではないだろうか。

2時間はビン・ラディンを追うシーンが淡々と続く、と書いたが、出は残りの時間は何が描かれるかというと、そのビン・ラディンを殺害するミッションだ。結末、ラスト30分程度はアメリカの特殊部隊SEALsがパキスタンにおいて、パキスタン政府にも伏せたままに夜間の奇襲作戦を行い、ビン・ラディンが隠れ住んでいると思われる住居に攻め入り、ビン・ラディン以外の関係者もろとも抹殺するというシーンだ。最後にはマヤが運ばれてきたビン・ラディンの遺体を確認した後に感極まり涙を流すシーンがあり、そこで映画は終わる。この結末の奇襲シーンが、暗い。臨場感を出すための意図的なものなのだろうがとても暗い。しかし潜入から殺害までをノーカットで全て見せるこのシーンもこの映画の見所の一つだろう。成人男性はビン・ラディンだろうが何だろうか躊躇なく殺害し、泣き叫ぶ女子供には危害を加えず必死になだめ、騒ぎを聞いて集まって来る周辺住民に対して「近づくと撃つぞ!」とこれまた必死に説得しようとしている様は、間違いなく現実でも同じ事があったのだろうと判る、緊張感のあるシーンとなっている。

なお、ビン・ラディンが2011年に殺害されたという件については懐疑説も多いらしいが、この映画はそこに疑問を抱かせるようなものは一切なく、観るにあたってはそれは当たり前に事実としてあったこととして見る必要がある。「あんなん絶対嘘っぱちだ!ビン・ラディンはとっくに死んでいた!」とか考えているならばこの映画を観る価値はないかもしれないので注意だ。

登場人物紹介

マヤ

主人公のCIA分析官。20代半ばでテロ組織を追うこことなり、面が割れてしまったために時にはテロ組織の標的になり銃撃を受けることも。しかしジェシカはじめ犠牲になった同僚を思い、ひるむことなく追及、とうとう隠れ家を発見することになる。特にモデルはいないらしい。冒頭、初めてテロ組織への尋問を見た時はそのすさまじさに若干引いたりしているようだが、徐々になじみ、最後には周囲の反対を押し切ってでも奇襲作戦を推すほどの強い意志を見せるたくましい女性となっている。映画には主人公が必要だからこのマヤが主人公になってはいるが、実際は隠れ家を発見したのも誰の手柄というわけではなく、CIA全体の手柄と言うべきものなのだろう、きっと。

ダニエル

冒頭でテロ組織関係者に対して拷問含みの尋問を行うCIA職員。相手からは悪辣な言葉を吐かれるが、お前たちにそんなことを言う権利はないとばかりに、「お前たちはテロで数千人殺した」と返す。最初にこのやり取りがあるため、視聴者に対して「これから拷問しますけど大目に見てくださいね」と断っているようでもある。映画を観始めての初期の印象としてはこのダニエルが主人公のようにも見える。が、異動となりマヤたちとは別の部署になる。その際、「平和に過ごすのもいいさ」みたいな台詞をマヤに向けて言ってフラグじみたものを建築するため、あれ、もしかしてこのダニエルが死ぬの?と思ったらそうではなく、死ぬのはジェシカ。

ジェシカ

マヤの同僚。マヤがストイックに仕事をするのに対して、このジェシカは比較的リラックスした人格。しかしテロを追い求める熱意はマヤと変わらないものであり、アルカイダのメンバーを懐柔し情報を聞き出そうとするも裏切られ、自爆テロに巻き込まれて死亡してしまう。実際に2009年にはCIA史上最悪の被害として7人の職員が死んだテロ事件がアフガニスタンで発生したが、それで死亡した実際の人物がモデルらしい。

項目別評価

実際に起こった出来事をそのまま再現したドキュメンタリー、というわけではないが「CIAがビン・ラディンに辿り着くまで」を描いている以上ドキュメンタリーとしての要素が強いことは間違いなく、娯楽として見るよりもアメリカがどういう経緯や努力を尽くしてビン・ラディンに辿り着いたのか?というのを知りたい人間なら観るべき、という作品。やや冗長ではあるが、それもまたアメリカの苦節を表現していると思えば肯定的に受け取れる。

凡人の感想・ネタバレ映画>ゼロ・ダーク・サーティ