RYU FINAL(リュウ ファイナル) -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ漫画>RYU FINAL(リュウ ファイナル)

執筆日2015年04月12日

評論

1997〜1998年にかけてアーケードゲーム雑誌ゲーメストにて掲載されていた中平正彦の漫画。
誤植の多いゲーメストの中でも伝説の「たしかみてみろ!」をやらかした作品として有名ではあるが、おそらく漫画の中身を知っている人はそれほど多くないと思う。何せ古いし。

この作品はそのタイトル通り、ストリートファイターのキャラクター、主人公であるリュウの進むべき道の終着点は何なのか?というのが主題になっている。
白い胴着に身を包み、ひたすらに「真の格闘家」を目指すのが初代ストUから続くリュウのキャラクター性なのであるが、その真の格闘家とは結局のところ何なのか?というものを中平氏なりに結論つけている作品といえる。中平氏のストリートファイターの漫画では「ストリートファイターZERO」なども存在し、その作品での回想も入ったりするため、時間軸は繋がっているということになるだろう。真面目に考証すると若干の矛盾があるような気がするのだが、まあそれはここでどうこう語るところではない。

作中の時間軸はストリートファイターV。リュウの年齢は30歳前半というところか。この作品を簡単に説明すると、冒頭で、親友でありライバルでもあるケンにボロ負けしたリュウが、仙人オロと共に旅をし、強敵と戦い、「真の格闘家とは何か?」という問いの答えを見つけるという話だ。
対戦相手として出てくるのは、ケンのほか、ヒューゴー、ダッドリー、ユン、ヤン、サガット、そして豪鬼だ。

作中において豪鬼は単純な強さだけでは桁違い、別次元に位置づけられており、これはゲーム中での扱いよりも上であると言ってもいい。だが、その単純な破壊の力、殺戮の力は真の格闘家ではないとリュウは断じ、自分にとっての真の格闘家への道を見つけるという流れ。ダッドリーとの戦いの中では「風の拳」という、破壊のためではない力を持った拳を編み出し、それをもって宿敵サガットと決着をつけ、さらには日本において、圧倒的な力の「殺意の波動」を持つ豪鬼を制す。エピローグとして、ストVの(一応)主人公であるアレックスがリュウと邂逅するところで物語は終わる。

重ねてこの漫画は、ストUの頃からリュウは真の格闘家という言葉を使っているのだが、それはどういうものなのか?という点に決着をつけた作品であると言える。色々と中平氏は考えたんだろうなあと思えるのではあるが、その論理が色々と疑問に感じるところも多く、正直「何言ってんの?」と思うところも多い。

細部では突っ込みたくなる部分はあるものの、全体として言わんとしていることはなんとなく分かったような気がする。簡単にまとめると、「リュウは全ての格闘家の牽引者である」ということを言いたいのではないのかな、ということだ。
結局、最後の豪鬼との戦いにおいて単純な力では全く歯が立っていないし、最強の殺意の波動の、さらに最終奥義に位置づけられる瞬獄殺を破りはするものの、豪鬼がその気ならたちどころにリュウは殺されてしまっているだろう。だが、戦いの中で豪鬼が「子を育てるのだ」と言うように、リュウの役目は「最強であること」ではなく、「ストリートファイターとしての魂を伝え続けること」ということ。そういう風に感じ取れた。

確かに、リュウというキャラクターは強さよりその精神性が際立っているキャラである。初代ストUのキャッチコピーである「俺より強い奴に会いに行く」はリュウの目線の言葉であるだろうし、また同じく初代ストUの勝利台詞の「世の中には俺よりも強い奴がいる。下手な自信は捨てることだな」というものも彼を象徴する台詞として印象深いものだ。リュウより強い奴はまあ普通にいるのだ。だが、リュウというキャラクターにとってそれはさほど重要なことではない。格闘家、ストリートファイターはかくあるべき、というキャラクター、それがリュウなのだ。

ちなみに、この作品より後に出た同じく中平正彦氏の「さくらがんばる!」の特別編においても、リュウという格闘家の到達点が重ねて表現されている。
この作品の主人公はリュウに憧れる女子高生ファイターの春日野さくらであるのだが、彼女の持つ拳、「人を活かす拳」こそが、リュウの目指す拳なのではないだろうか?とされているのだ。
これは言葉は少し違っているが、やはりこのRYU-FINALでリュウが至った道と同じことを言っているのだろう。エピローグにおけるアレックスは、リュウと戦ったことで自分の中の不純物が全て風に消し飛ばされてしまったようになり、まるで「浄化」されてしまったような感銘を受けている。風のようにいずこからともなく現れたリュウと拳を合わせた格闘家は、ただ純粋に「ストリートファイター」と化してしまう。そんな力を持っているのが、この作品においてリュウが至った「真の格闘家」ということなのだろう。

リュウというキャラは最強ではない(とはいえ作中において単純な強さにおいても豪鬼に次ぐのも確かだが)。だが、格闘ゲームというカテゴリでの代表キャラであるのは疑いようがなく、またその精神性はそれにふさわしいものである。全ての格闘家を牽引していく存在、それがリュウである。そんなメタ的な意味合いもきっと含まれているんじゃないだろうか。リュウをただ純粋でストイックな求道者であるだけにしておかず、そのように結論付けたこの漫画は、リュウというキャラを最もあるべき位置に収めた作品だろう。

ちなみに、中平氏の漫画からゲーム中にたびたび設定やキャラが逆輸入されているのは一部で知られているところだったりする。例えば元々は「さくらがんばる」の登場キャラでありながらストZERO3に登場する「神月かりん」が最たる例だが、このリュウファイナルのサガットのエピソードで出てくるサブキャラクターのチットやその兄なども、ストリートファイターWにおけるエンディングなどに登場することになる。ゲームの稼働にあわせてアーケードゲーム雑誌に掲載されていたのもあってか、その影響力の程がうかがいしれるが、それだけじゃなく、深いキャラ愛や考察がカプコン側に伝わってこその逆輸入なのだろうなあ。

項目別評価

話はいささかこじつけや謎の論理が多く、強引に納得するしかないという感じも多分に感じられるのも確かであるが、リュウというキャラクターの目指すものという点を描き切った点に意味があると思う。。それと、中平正彦の漫画の特徴として、格闘漫画としての構図が素晴らしい点は共通していると思う。

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