悪の教典 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2015年06月01日

評論

一月と一週間にもわたって更新していないので。過去見た作品だが、インパクトがあったので思い出し感想可能かということで。

もう二年前くらいに見ただろうか。ほとんど邦画は見ないのにPSストアでこの作品を見つけたときになんとなく購入してしまったのだが。
全く内容を予備知識として持っていなかったので度肝を抜かれた記憶がある。だからこそ今更感想書いているわけだ。原作は小説だが、そちらのほうは見ていない。

主人公は、社会的には完璧、なんでもできる天才、優秀な教師として普通に生活している蓮実聖司(伊藤英明)。しかし彼は実は度々殺人を繰り返しているサイコキラー。サイコキラーというのは要するに、他者への共感能力が著しく欠けているがために簡単に人を殺せてしまうイカれた人間のことだ。サイコパスという言葉自体、他者への共感能力が欠けているという意味合いがある。それゆえに安易に殺人を犯せてしまうという、サイコパスが最悪の形で発展してしまったのがサイコキラーだ。

上手くその正体を隠してずっと立ち回ってきたが、高校の文化祭の準備を行っている期間中、ふとしたことで自分の殺人を生徒に見られてしまい、いよいよもう隠せないと悟るとなんと校内にいる全ての人間の抹殺を始めてしまう。つまり目撃者、証言者を全員殺してしまうなんてとんでもないことを画策するわけだ。
まるでパーティーでもするかのように学校内にいる生徒、ほぼ全員をショットガン(文字通り百発百中)で殺して回る。最終的には生き残った生徒の機転により蓮実の所業が警察の知るところとなるが、それでも蓮実は自身が無罪になるために精神異常者を装い、再び同じことを繰り返すだろう、と予感させるところで物語は終わる。いやいくらなんでもこんなに(40人くらい)殺したら精神異常だとしても死刑じゃないのかと思ったのだが。

文化祭前の装飾でにぎやかな雰囲気の校内における蓮実の殺戮シーンがこの作品の中核となっている。まるで殺人という娯楽を楽しむかのように、生徒を何のためらいもなく学校中を徘徊して殺しまわるわけだ。
このシーンをどう捉えるかでこの作品の評価が完全に二分するのじゃないだろうか。「胸糞悪い」と思うか、蓮実聖司のサイコっぷりに恐怖し、そこからエンターテイメント性を見出すか。
自分の場合それぞれが半々といった感じだった。いくらなんでも悪趣味が過ぎると感じるのも確かだったが、感情の昂ぶりもそれほどないままに殺戮を行う蓮実にある種の魅力を感じたのも確か。…いや、魅力というと違うかもしれない。自分が感じたのは「説得力」だろうか。

現実に、その人生で何十人、あるいは3桁単位で殺人を犯した人間というのは史上存在する。ジェフリー・ダーマー、テッド・バンディ、アルバート・フィッシュといった人物が有名だ。そういう、「数十人も殺人を犯したサイコキラー・シリアルキラー」の精神というのは確かにこういうものなかもしれない、という説得力を感じたのだ。それはもはや人間とは呼べない、人の形をした悪魔の心理だろう。普通の人間にならば大なり小なり存在するはずの良心の呵責というものを微塵も感じさせないで、まるで作業であるかのように殺しを行う。その姿はあまりに現実離れしてはいるものの、現実に確かにこういう頭のおかしい人間も存在するのだろうなという、嫌なリアリティを感じた。

こんな感想を覚えるのも、一時期自分がウィキペディアとかでシリアルキラーやサイコキラーの項目を見たりしてその逸話に恐怖したことがあるからなのだが。
作中で、蓮実は他者への共感性が著しく乏しい「サイコパス」の側面が徹底して強調されている。何せ自身の障害になると感じたのならば、まるで躊躇せずに対象を殺すし、拷問までしたりする。なるほどこれは他者への共感性というものが欠けているから可能なのかと納得できてしまう。ここまで「サイコ」という言葉が似合うキャラを、自分はどのメディア媒体でも見たことがない。サイコパスの連続殺人鬼という、現実でもたまに現れることもある恐ろしい化け物を、上手く表現できていると思えたのだ。この手の人間は実際に、能力は優れている場合も多いのも蓮実と共通している。ていうか多分、テッドバンディを意識したキャラ作りなのかな。
結局、この作品の最大のポイントはそこなんじゃないだろうか。それも、蓮実聖司を演じる伊藤英明がめちゃくちゃハマり役なのも大きい。

伊藤英明と言えば2000年前後くらいが旬の俳優だった記憶が。その頃はドラマの主役をこなしていることもあったと思う。あとは代表作といえば海猿があるか。
すごく失礼なことを書くが、個人的に、この伊藤英明という俳優には何か得体のしれない不気味さを感じてもいた。見た目整っているのに、その眼の奥では何考えているのか分からないというか。この映画を見る以前から元々そういう印象を持っていたのもあって、この上なくハマり役と思えた。彼というキャスティング無しでは、2年も前に見た映画を思い出しながら感想を書く、なんて行為には至らなかったろう。伊藤英明と聞くとこの映画を真っ先に思い浮かぶくらいには強烈に印象づけられたのだった。

項目別評価

正直、見る人が見たら「こんな映画が存在すること自体許せん!抗議だ!」みたいなことになりそうな映画だけども、「シリアルキラー、サイコキラーというのはこういうものなのかもなあ」という説得力がある。よくも悪くも印象に残る映画には違いない。作品情報を調べたところ、AKBの大島優子は気分が悪くなり上映会中に席を立ったのだとか。もっとも反応だと思う。間違っても人にオススメはしたくない映画でもある。

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