アメリカン・スナイパー 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>アメリカン・スナイパー

執筆日:2015年7月23日

評論

PSストアで22日夜に視聴。イラク戦争で活躍し伝説のスナイパーであるクリス・カイルの自伝が原作の映画だ。原作は数多くの映画を手がけ、戦争映画でも「父親たちの星条旗」や「硫黄島からの手紙」という有名どころがあるクリント・イーストウッドだ。
ここ数年、ストアトップで大々的に宣伝される戦争系の映画が目立つような気がする。自分が見ただけでもローン・サバイバー、このアメリカン・スナイパー。それに事実が元にはなってはおらず、第二次大戦が元だが「フューリー」もあった。いずれも大ヒットを飛ばしており、このアメリカン・スナイパーに至ってはあのプライベート・ライアンが持つ戦争映画の興行収入記録を塗り替えたというから、バケモノ級の映画らしい。イラク戦争の定義としては、2003年から、オバマ大統領が終了を宣言、米軍が完全撤退する2011年までとされているのが正式なところらしい。
米軍撤退により一応は完全終結を見て落ち着いてきたところで、戦争経験者の生々しい戦場の経験を題材として映画を作ろう、という流れがあるのだろうか?
本国にいてさえ、911テロを経験して以降のアメリカ人というのは戦争を身近に感じているのは間違いなく、多くの人間の近親者がまたイラク戦争で単純に命を失い、あるいは心を病み自殺などをしたのだろう。いやらしい言い方をすれば、戦争への国民の興味は相当に高い状態であって、なら映画という莫大な金が動くコンテンツで目をつけられないわけがないな。
自分が生まれて以降で、アメリカが大規模に「戦争」と呼ばれるものを行ったのは90年代の湾岸戦争、2003年〜2011年のイラク戦争、2001年から現在進行形でアフガニスタン戦争となる。終結が最も近いイラク戦争、これを扱った題材がこれからまだ出てくるのかもしれない。

それはともかくネタバレ解説。
物語は中東の町で男が狙撃銃を構えて、武器を持って米軍へと投げ付けようとした男児に狙いを定めているところから始まる。銃撃と同時に回想が。
テキサス州のカウボーイとして生まれたクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は荒っぽい気性であり、父親ウェイン・カイル(ベン・リード)から、「お前は羊を守る牧羊犬になれ」と言われる。ウェインの持論として、「狼は何かを奪う者であり、だからといって羊は弱く生きていけない」というものがあり、だからどちらでもない牧羊犬として生きることをクリスに示したわけだ。
時は流れ、クリスは自身をカウボーイであるとして荒れた生活をしていたが、1998年のアメリカ大使館爆破事件を契機にシールズへの入隊を決めた。もはや30歳にもなっていて志願者としては年長な彼、指導者に年齢のことでからかわれながらも、9割が脱落するという地獄のしごきを耐えてシールズに入隊する。入隊までの訓練において、指導者ですらも見落としていた蛇を狙撃銃で撃ちぬくという芸当をしてみせ、すでにスナイパーとしての頭角を現していた。

ある日バーでタヤという女性(シエナ・ミラー)と出会い、恋に落ちる。
だが、911テロが発生し、その後2003年にはイラク戦争が勃発しクリスは派遣されることになる。
スナイパーとして目覚しい戦果を上げるクリス。いつしか「伝説」と呼ばれるほどの有名人となる。その有名度に比例するように彼は高い使命感を持って戦争へと没頭していく。2003年から2009年まで彼は4度にわたりイラクに赴いてそのたびに生きて帰っては来るのだが、妻のタヤの前でも上の空であるような事が多く、タヤは戦争により元々のクリスが失われることを嘆き始めていた。だがそれを聞いても使命感の強いクリスは戦争へと赴いていってしまう。

戦場では、親友のビグルスが頭部を撃たれ、生存はしたものの予後が悪く死亡。マークという同僚もまた戦場で撃たれ、その場で死亡した。それによりクリスはますます敵対するイラク軍への敵意を増していったのだった。ビグルスを撃ったのは米軍内でも名が広がっていたムスタファという狙撃手だった。
4度目の派遣時についにムスタファを発見するクリス。だが、凡人ではまず狙撃を成功させることなど不可能な1920メートルの距離がある。にもかかわらず、クリスはムスタファの頭部を撃ちぬき、ついに彼は同僚の仇を撃った。だが、この狙撃により周囲を敵に囲まれ大ピンチに陥る。この状態でクリスはタヤに電話をかけ、「もう軍を抜ける」と言った。屈強な意思と使命感を持っていたクリスも、この時ついに精神的に限界が来たのか、白旗を揚げたのである。そして逃げるために車に乗り込む際に脚を撃ちぬかれるも、なんとかギリギリで逃げ切ったのだった。

宣言通りもうシールズを抜けて退役軍人となったクリスだったが、PTSDに苦しめられていた。現役時代でも異常な血圧の高さや、敵が利用していたドリルの音に過剰反応したりする描写があったのだが、この段階のクリスは完全に精神病である。ちょっとした刺激で攻撃的になり、犬を叩き殺しそうになったのだった。
精神科の医者に相談したが、クリスは「今も戦場で守れなかった仲間のことを悔やんでいる」と話す。すると医者は「退役し傷付いている軍人の相手をし、助けとなったらどうか」と話した。

その通りにし、身体のいずれかを損傷したりしている元軍人と射撃訓練の相手をしたりする日々を送るようになる。
PTSDも和らぎ、家族とも気さくに接するようになり、タヤもそんなクリスの様子に安心、満足していたのだった。
ある日、PTSDを患う若い海兵隊員だった男と出かけるのをタヤが見送る。その日、クリス・カイルが帰ってくることはなかった。その海兵隊員の凶行により銃殺されてしまったからである。
死亡した事実がただ淡々と画面に文字で表示された後は、実際のクリス・カイルの葬儀映像が流れ、無音のスタッフロールへと入り、映画は終わる。

ここから感想。
事前情報を全く見ずに視聴したわけだが、何はともあれ結末に驚いた。まさかの死亡エンド。しかもそれは短く文字で伝えられるだけであり、そのままクレジットが流れ始めてしまうという。
家族を顧みずに戦争へと身を投じ、妻にあわや見限られそうになりつつも家庭と向き合い良き父親となりつつあったにも関わらず、皮肉にも、イラクと比べたら全くの安全であるはずの本国アメリカにおいて銃殺されるという、なんとも無情な結末である。

戦争映画であって、当然、クリス・カイルの伝説とまで言われる狙撃手としての腕を発揮する場面も多く、また親しい仲間が死んでしまう場面や、ムスタファ射殺後の脱出シーンではあわやクリスが死に掛けているのもあり、戦争映画ならではの緊迫感もありそれが面白くもある。だが、「家庭を顧みず仕事ばかりしていたサラリーマンとそんな旦那を悲しむ嫁」という、何か日本でもフィクション、ノンフィクション問わずよくある図式もまた目立つ映画であり、一人の偉大なスナイパーの人生を垣間見、その精神的な強さ、あるいは家庭をないがしろにしてしまう弱さに共感することで楽しむ映画だろう。

まずアメリカ大使館爆破事件がきっかけでクリスはシールズを目指すのだし、911テロを見てテロ組織への敵意を強めるシーンもあり、また彼は自伝で「撃ち殺した敵に対しての同情などは全くない」とも語ったのだという。その愛国心には感服するが、自身の命も危ういというのに、さらに奥さんが泣いてもう戦争には行かないでとも言うのにそれでも行く、というのは、自分のような命の駆け引きなどとは程遠い、安全な日本に住む日本人としては結構度し難い部分ではある。「やめりゃあいいのになあ」なんて思いながら見るのだけれど、しかしそんな使命感と意思力があってこそのスナイパーの腕前でもあるのだろうな。クリスの父親の言うように、戦争でやっていくためには羊では駄目なのだろう、牧羊犬でなくては。とはいえ彼はまた牧羊犬として良くも悪くも強すぎたのかもしれないが。

正直、最初からクリス・カイルという人物が死ぬということをわかってしまっていた場合、終盤が尻すぼみに感じられるんじゃないか?と思った。因縁の相手であるムスタファを倒すところから、なんとか敵の包囲から逃れて脱出するまでのシーンがクリスの命の危機もあり最大の緊迫シーンなのだが、彼の人生を知っていればここで死なないことも分かるのであまり緊迫しないだろう。だが、自分のようにクリスが死ぬと知らないのであれば、そのシーンでハラハラできるし、いきなり出てくる「この日クリスは死亡した」という一文でえらく驚くことになる。そういう意味で、事前情報は何も見ずに見たほうが映画としては楽しめる、はず。
戦争映画ってのは主人公が死ぬことも多いカテゴリなので、これからも事前情報はあえて見ないことにしようと強く思った。

項目別評価

終盤、平和なアメリカに戻ってきて、「いまいち盛り上がらずに終わっちゃうぞ?」と思った矢先に「クリスは殺された」という淡々としたテロップで物語が締められる。クリス・カイルという人物を知っているかいないのか、それで印象は全く変わってきそうな映画だ。もちろん、知っていても単純な伝記映画として楽しめるだろう。元々知っている上で彼の人生の軌跡を垣間見るというだけでも十分にエンタメとして面白い。知ってたら知っていたでラストシーン、最期に家を出るときの「ああこの後…」って悲壮を感じながら見ることも出来るのだろうけどもね。だが、知らなければラストが大きなサプライズに作用するわけであって、自分はそれを体験できたのが嬉しかった。
なお、映像面でのグロさ、残虐描写としては戦争映画としては控えめ低い。クリスの同僚のマーク、ビグルスが撃たれる場面、および標的の根城に突入したときに拷問された死体、切断された頭などがあるあたりがショッキングなシーン。その辺苦手なら一応、注意。

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