第9地区 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>第9地区

執筆日:2015年7月29日

評論

PS4に「なぜか」入っている作品。それに気付いたのは数ヶ月前だ。期限なしで存在しているため、PSSTOREでレンタルでなく購入したということになるはずだが、PS3の頃にレンタルで見たことはあってもPS4購入後にこの作品を見た覚えはない。なのに存在するのだからちょっとホラーだ。アカウント乗っ取りでもされたのだろうか?
…ともかく、ただで見れるのなら見てみようかとかねてより考えてはいたので今回視聴してみた。以前1度見たのでこれが2回目である。

ストーリー解説。
1982年に南アフリカの都市ヨハネスブルク上空に巨大な宇宙船が現れた。
その宇宙船内部に突入してみると、エビのような衰弱した宇宙人が大量にいた。
人類は彼らを受け入れるのだが、エビのような彼らはスラム化した隔離区域「第9地区」という場所に住むことになる。しかも彼らは人間を襲う者もいるので現地人との折り合いは悪く、さらに遠く離れた「第10地区」への移住計画が行われることになる。
第9地区にはナイジェリア人のギャングもおり、エビたちの持つ未知の兵器(エビたちでないと使えない)と引き換えにエビたちに彼らの鉱物であるキャットフードを渡していたりしていた。このギャングたちはエビたちを食べれば病気などの特効薬にもなると信じている側面もあり、色々な意味であぶない連中だ。

第10地区への移住計画を牽引するのはMNUという機関である。そして計画の主導者として選ばれたのはMNUのエイリアン対策課の職員のヴィカス(シャールト・コプリー)だ。彼の妻の父親がMNUの幹部であるので、そのつてで彼が責任者となった。
ヴィカスは護衛を連れて第9地区の住民に退去するための合意書にサインをもらおうとして地区内を回る。しかしトラブルが頻発する。
またその最中で、ある家で妙な装置を発見、そこから吹き出した黒い液体をヴィカスは浴びてしまった。

それからヴィカスの身体は変調をきたし始める。
爪が抜けたり、歯が抜けたりするのだ。ついには左腕が第9地区に住まうエビたちのものと同様にになってしまう。
たちまち研究材料になってしまうヴィカス。彼は遺伝子がエビそのものになりかけており、エビしか使えない武器も使える。彼の身体は数十億以上の価値があるとして解剖されて研究材料になるところだったが、ヴィカスは強硬に脱出する。

妻にも拒絶されて行き場のないヴィカスは第9地区へと逃げ込んでいた。
黒い液体を浴びた家を再び訪れると、そこの主のエビ、クリストファーと出会う。どうやらヴィカスが浴びたのは、この家の地下にある船の燃料だった。クリストファーはその船でヨハネスブルク上空の母船へ戻り、さらにそこから母星へと戻ることをずっと計画していたのだという。
またクリストファーによれば、母星に帰ることができればヴィカスの身体を元に戻すことも可能であるという。
それを聞いたクリストファーはクリストファーに力を貸すことにした。目指すはMNUに没収されてしまった燃料だ。

しかし丸腰では敵わない。そこでヴィカスはナイジェリア人ギャングの元を訪れる。彼らはエビたちから入手した武器をたくさん持っているのだ。ギャングたちはヴィカスの左腕も切り落として食おうとする凶行に及ぶが、間一髪、そこにあったエビたちの武器でヴィカスは難を逃れる。
その武器を持ってMNUへ突入するヴィカスとクリストファー。強力なエビの武器の力もあって燃料を入手することに成功する。そしてまたクリストファーの家へ戻ったが、そこでクリストファーは「母星へ行って戻ってくるまで3年かかる」と言う。その事実を聞いて絶句したヴィカスはクリストファーを殴り、地下の船を起動させて母船へ行こうとする。だが、途中で撃墜され、ヴィカスもクリストファーもMNUに捕らえられてしまった。

絶体絶命だったが、MNUに輸送されているところをギャングたちが復讐に来た。そのどさくさで再び脱出することができたヴィカス。また、今度はさらに、エビたちのパワードスーツのような強力な兵器を身に纏い、ギャングたちを皆殺しにし、さらにMNUにも猛威をふるった。
一人逃げようとしたヴィカスだったが、クリストファーが殺されそうになるのを見かね、自らが盾になってクリストファーを守る。そしてクリストファーは「3年後に必ず来る」と言い、自分の家の地下にあった小型船を起動させてそのまま母船へと戻る。
一方ヴィカスはパワードスーツの力でMNUの戦闘員たちをガンガン倒していくのだが、ついに限界が来てしまう。クーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ)に追い詰められて絶体絶命。しかしそこにエビたちが集まってきて、大佐を引きちぎり殺してしまう。
こうしてヴィカスは助かり、彼は笑みを浮かべながらクリストファーが起動させた母船を見つめていた。母船は地球を離れる。

そして最後には完全にエビとなってしまったヴィカスの姿が映され、クレジットへ。一方エビは第10地区へと移住したものの数は増え続け、250万まで達したとされる。

ここから感想。
この作品、人種差別問題、具体的には南アフリカで実際に行われたアパルトヘイトに関する問題が込められていると以前から聞いたことはあった。アパルトヘイトというのは白人優遇、黒人隔離の政策だ。しかもこの作品の監督のニール・ブロムカンプって人は南アフリカ共和国のヨハネスブルク出身だという。
すると、監督が映画を通しての主張を前面に押し出している作品だというのは明らか。映画というフィルターを通して、アパルトヘイト、ひいては人種差別問題の提起だろう。黒人を宇宙人に置き代えて物語を作るというのは面白い発想ではあるのだが、白人と黒人の人種差別問題というものからは程遠い日本人からすると、そういう目線で見てもさほど心に迫るものはないんじゃないだろうか。だってどうしたって身近じゃないもんなあ、日本に住んでたら。

そういうテーマは置いておいて、この物語では誰もが感じるのは主人公のヴィカスはじめ人間の醜さ、残虐さ。ヴィカスは主人公でありながらもてんで平凡であり、またエビを差別し見下している、弱くて利己的なただの人間だ。が、そんな彼が最後には身体を張ってクリストファーを救うという展開が見る者の胸を打つのだろう。
と、多分多くの場合そうなるのだろうな、ということでわざとらしく書いてみたのだが、正直なところこの映画は自分の琴線に触れる部分は特にない。
まず、特に明確な正義や悪の区別はない映画じゃないかと思うので、スカッとするような部分がないと感じる。人間側がいかにも悪しき側、残虐な風に描かれているが、エビたちだって不意に人間を攻撃して腕引きちぎったりする残虐な性質の者もいるし、インタビューされている現地人の後ろで略奪を行うシーンもある。よって隔離されてようが虐げられてようがイマイチ同情ができない。こんな化け物異星人が現れたのに殲滅せずに受け入れようとしているだけ、この世界の人間はまだ寛容な方じゃないかとすら思う。とにかく、エビ側も結構野蛮で残虐で乱暴なのが印象悪いな。
そこで結局、人種差別問題が出てくるのだろうか?そこに関心がある人間ならばこの作品を通してそういうことに想いをめぐらせて、うーんと唸ることも出来るのかもしれない。「エビだって人間と変わらないんだよなあ」とか「差別はいけないよなあ」とか思うのかもしれない。
が、上に書いたように自分はそういう問題に関しては疎く、正直言って興味が薄い。だからこの作品はただただ、「どちらが特別良いでも特別悪いでもない人間とエビが小競り合う作品」くらいにしか思えない、というのが正直な感想。

項目別評価

世間ではかなり評価高い作品になっているが、別に逆張りするわけでなく、自分としては良くても凡作といった感じ。今回2回目の視聴で改めてそう確認した。いきなり20年前に宇宙人が到来していてスラムで生活しているという前提からして唐突すぎてちょっと没入できない。それと、人間の残虐性を強調した脚本ながらも、衰弱しているところを救われた上に地球に間借りさせてもらっておいて乱暴なエビ宇宙人も見ていて問題がないとは言い切れないようでもあって、いまいちヴィカスたちの奮闘にも乗りきれない、やっちまえ!という気にはなれない。ただヴィカス自身には救いが無すぎるので、ありがちかもしれないが最後は3年経過して宇宙船が戻ってくるところで終わる方がよかった。

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