ドローン・オブ・ウォー 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>ドローン・オブ・ウォー

執筆日:2017年05月31日

あらすじ・ネタバレ

2014年、イーサン・ホーク主演映画「ドローン・オブ・ウォー」のあらすじとネタバレ。

主人公はアメリカ空軍で階級は少佐のトーマス・イーガン少佐。ラスベガスに住む彼の任務は上空12000km以上を飛ぶドローンの空爆機の操作。地球半周以上も離れた位置のラスベガスにいてもこのドローンを使えば中東を攻撃することができる。ドローンからの映像で地上を確認し、標的となっている人物がいればその位置に超高速で飛行するミサイルを撃ち込んで粉々に抹殺する。それを繰り返す日々だった。だが、トーマスはかつては自分自身が戦闘機に乗り込む任務に就いていて、今の様に安全な位置から淡々と標的を殺害する任務よりもそちらを懐かしんで、焦がれていた。

ドローンでの任務をこなすと辛い出来事もあった。ある男は住居に進入するとそこに住む女性をレイプし始めたのだ。だが、その男は標的でも何でもないためトーマスたちにはどうすることもできない。
また、空爆で子供を意図せず巻き込んでしまうこともあった。トーマスの同僚のスアレスはこういうことがあるたびに悲しみ、トーマスの上司のジョンズ中佐は「仕方がないことだ」とトーマスたちに諭した。

ある時、トーマスたちの部隊はCIAの命令で動く任務に就くことになった。ジョンズ中佐は「今までは個別攻撃だったがこれからは特徴攻撃になる」と説明した。簡単に言えば今までよりも空爆するための条件が緩くなるということだ。

そしてその通り、それからの任務では今までよりも簡単に空爆が行われるようになっていってしまった。「恐らくそこが爆弾製造所だ」とされれば中に誰がいるかなどは確認せず空爆は行われ、さらにそこに集まってきた救助民に対しても第二撃を撃ち込む命令も。周囲に民間人がいたとしても「奴らはわざとそうして自分たちを守っている」とCIAは言い、巻き添えは仕方ないとしてやはり空爆の命令が下る。

トーマスの心は疲弊していった。そのために妻モリーへの態度もどんどんそっけないものになっていってしまい、夫婦の関係は冷たいものとなってしまっていった。
ある日、夫婦で出かけるはずだったのにトーマスが起きるとモリーが消えていた。そしてその後、モリーが他の男の車に乗っているのをトーマスは目撃してしまう。任務中にも連絡を取ろうとしたがモリーからの連絡はなかった。帰ってきたときトーマスはモリーを問い詰めた。モリーは浮気はしてはいないが浮気を考えたことはあると応えて、今まで我慢してきたトーマスへの不満を発散させる。そうしてついには大喧嘩に発展してしまった。

さらに任務は続き、今まで最も非人道的な空爆を行うことになってしまったトーマス。それは「空爆で死んだ7人の葬式が行われているその場にさらに空爆をして、参列していたテロリストを殺害する」というもの。当然関係のない多くの人間も巻き込んでしまった。
この頃になるといつもトーマスは空を茫然と見上げるようになっていたが、そこに近づいてきたモリーに対してようやく自分の任務の話をし始めた。葬式の空爆の話をするトーマスは「空爆した人々の顔が忘れらない」と言う。なぜ夫がおかしくなっていったのかをようやく理解したモリーだった。

モリーはトーマスに休暇を取るように言うが、トーマスはそれを聞き入れずなおも出勤する。
だが、今度の任務でトーマスは規則違反を犯した。わざとドローンのカメラとのリンクを乱れさせて、空爆が中断するように仕向けたのだ。それを知った中佐はトーマスをCIAの任務から下ろした。トーマスの昇進の道は断たれることになった。
職場にいたトーマスにモリーから電話が来た。「やり直そう、大事なことがわかった」とトーマスは言うが、モリーは子供たちを連れて姉のいるリノの街へと移るつもりだという。トーマスに愛想を尽かしたのだ。と「俺を捨てるのか?」とモリーに言うと「あなたが捨てた」と返されてしまう。

トーマスは以前やっていたのと同じ監視任務に戻った。そこではCIAの命令で動いていた時とは違い冷徹な空爆命令は下らない。
だがそこに映される映像には、以前も見た強姦魔がいた。今日もまた、以前と同じ被害者女性の元へと足を運んで暴行を行おうとしていたのだ。仕事場であるコンテナに自分しかいなくなったタイミングで、トーマスはこの男を殺害するために私的にドローン空爆を行う。あやうく被害者女性もろとも殺してしまうところだったが、女性を救うことができたトーマスは満足気だった。だがドローンを私的利用したことはすぐに気づかれる。コンテナから出ると同僚が集まっており、そこにいたジョンズ中佐がトーマスに呼びかけるが、それを全く無視してトーマスは去る。

軍をやめたトーマスは車に乗って移動していた。行き先は妻と子がいるリノの街だった。

感想・評価

アメリカ軍がもはやゲーム感覚のような、殺人の実感のない空爆を行っているというのは随分昔からの周知の事実だし、訓練を積んだ兵士ではなくゲームが得意な若者をその任務に就かせているなんてことも、軍関係に全く興味のない自分ですら知っていたことだった。そしてそういう事実を知った人間としては以下のような意見が出るのが普通だろう。

「まるでゲームのように人の命を奪うなんて!」「テロ組織を殲滅するためとはいえ民間人まで巻き添えにするとは!」「この行いが結局は憎しみを生み、未来のテロリストを生んでいるので無意味だ!」

という具合だ。これは誰でも感じるところだろうが、残念ながらこの作品、こういうありきたりな感情の範疇でしか構成されておらず、浅いと感じる。中佐は思い悩むトーマスやスアレスを納得させるために色々と理屈を並べるのだが、これもまた誰でも思いつきそうなもので。「奴らは911テロでは明確に民間人ばかりだと知っていても実行した」とか「私たちが殺さなくても奴らが殺すのはやめない」とか。誰でも思いつきそうな、正論しか言わないものだから、なんとも薄っぺらい。いや、命を奪うということをやっている以上、言葉なんてどれだけ並べても無意味なのかもしれないのだが、ちょっといちいち登場人物(主にジョンズ中佐とスアレス)にそれを喋らせすぎなんだよなあ。「それはまあ、わかってるから。いちいち口に出さなくてもいいから」と、そんな風に思ってしまうのだ。特にスアレスはトーマスの同僚の中では女性ゆえか最も感傷的なキャラクターとなっていて、命令を下すたびにいちいち文句を言い出して、少し鬱陶しい。「そんなに文句があるならもうやめたらどうだ?」と思ってしまったところ。最後には本当に辞めるが…。罪のない人々を巻き込む葛藤に関しては、あまり直接的な台詞を喋らせるのではなく、別の方法を取ってもらいたかった。

そしてここからはかなり厳しいことを書くが、最後に強姦魔をドローンの私的利用で殺害して「命令じゃなくて自分の意思で人を救った、良いことやった…!」みたいな感じになってるのもどうかと。例えば日本でも連続強姦魔はいるだろうが、義憤からそれを問答無用で殺してしまったらどうだろう?それを聞けば気持ち的にはスッキリ爽快因果応報ざまあみろ!と感じる部分も大きいだろう。だが、人間社会じゃ、法治国家じゃそうはいかないに決まっている。ここって怖いところで、視聴者としても麻痺してしまうところなのだ。現に自分も視聴後しばらくしないとその違和感に気付かなかった。それより前に全く関係ない人々が爆撃に巻き込まれて死んでいる描写を何度も見ているからだ。それを見た後の「強姦魔への私刑」なので、まるで正統な正義の行為のように見えてしまう。だが、この行為の後にトーマスは特に罰も受けた様子もなく(当然問答無用で軍を辞めさせられたのは確かだろうが)、晴れ晴れした気持ちで愛する妻と子の元へ向かってしまうのだ。これって凄まじく傲慢な行為だ。強姦魔への私刑によりトーマスはようやく善性を持った人間らしい行為ができた、と思っているのだろうが、「犯罪者といえど、安全地帯から問答無用で殺害する」という傲慢な行為をそれと自覚していないため、最後まで精神的にはおかしいままだったとも言えると思う。
傲慢で間違った行為であるとともに、「元々CIAの命令でそれ以上に取り返しのつかないことをやっているので同じ事だ。CIAの命令だからといって免罪符になどならないのだから。」とも思う。何かの大義を持つ組織(アメリカ)の命令で神の裁きのごときものを振るうことは許されて、私的な裁きは許されない、なんていうつもりもない。だが、視聴後にどうにもモヤモヤした気分が胸を漂っていて、少し考えたら上記のようなことに辿り着いたため、自分としてはやはり無視できない部分になる。例えば強姦魔がいる場へ直接トーマスが乗り込んで殺害するならばまだ納得がいく。だがドローンからの空爆攻撃というのは、ノーリスクで行えるものでまさに神の所業であり、人間が人間に対して私的な感情から行う行為としてはあまりに禁忌の域を超えているのだ。いくら良心によりそうしたと言えど、最後の最後でこそ、トーマスは超えてはいけない一線を超えてしまったように思えるのだ。

ということを書き、ようやく自分としてはモヤモヤに整理がついた。
もちろん、このラストを「いい話だ。正しい行為だ」と思う人間がいても自分は否定はしないが、このページを見ている人はどうだろうか?

登場人物解説

トーマス・イーガン

演:イーサン・ホーク
アメリカ空軍少佐。ラスベガスに妻と二人の子と共に住んでいる。以前は戦闘機に乗る任務についていたためにドローン操作での空爆においても風を読むことなどに長けていて一流の腕。しかしその殺人の実感のない任務に精神を蝕まれていく。実際に空を飛ぶ任務に戻りたいと願うも命令違反をしたことで完全にそれは断たれて、最後にはドローンを私的利用して強姦魔を殺し、軍をやめて妻のいるリノへと戻った。

モリー・イーガン

演:ジャニュアリー・ジョーンズ
トーマスの妻。トーマスが機に乗る任務についていたころは同居はしていなかったが、その頃は会うたびに愛を確かめあえていた。逆に今は同居しているのに気持ちが冷めてしまっている。トーマスがドローン空爆任務に就いていることを知り、そのためにトーマスの精神が異常をきたし始めていることを知ると休暇を取るように言うもトーマスは聞き入れず。そのために子供たちを連れてラスベガスから出ていってしまった。

ジャック・ジョンズ中佐

演:ブルース・グリーンウッド
トーマスの上司。ただ任務をこなすだけのドライな軍人だが、トーマスの腕を買っていて、それなりに気遣いもしてくれる。作中で特に文句のつけどころはない人物。

ヴェラ・スアレス

演:ゾーイ・クラヴィッツ
トーマスと共に働く女性。トーマスがトリガーを引く前に補助的な作業を行う。CIAの命令で任務が行われるようになってからは民間人の被害を以前よりも顧みないようになっていったため、スアレスは自分たちが大量の殺人を犯し、結局はテロリストの発生を助長していると悩む。トーマスが軍を辞めるより先にスアレスは辞め、トーマスとはもう同僚ではなくしがらみがないと言い、トーマスを誘ったが、トーマスはそれに応えることはなくドローンの私的利用後に軍をやめてしまった。

項目別評価

「空から安全に敵を爆撃して排除」という行為を聞いて誰しもが感じるようなことにしか作中で触れず、「浅い」という印象がぬぐえない。はるか上空からの空爆が着弾するシーンは何回も行われるがそのたびに息を飲みはする。見所の一つはこの空爆映像だろうが、こういった映像はずいぶん昔から現実で公開されているため、あまり新鮮に感じることはなかった。そして評論で書いたように、ラストに対して違和感を感じてしまったので厳しめの評価に。
と、色々と厳しいことばかりをつい書いてしまったが、観て考えさせられるテーマであることは確かだし、時間の無駄にはならない作品だとも思う。

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