イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2017年05月26日

あらすじ・ネタバレ

この作品は3つの時代が入れ替わり描写される。1つは第二次大戦中の1939〜1945年であり、数学者アラン・チューリングが暗号解析に携わっていたこの時代の描写が最も長い。2つ目は戦後の1951年。ここではアラン・チューリングの家に空き巣が入り、彼が同性愛者の疑いで拘束され、アランと話すノック刑事がアランの話を聞く場面が描写される。3つ目は1927年ごろ、アランがパブリックスクールに通っている時代。
第二次大戦中の描写はこの1951年、ノック刑事と向かい合って座っているアランがノック刑事に対して回想として語っている形式になっている。

1951年、イギリスの数学者アラン・チューリングの家に空き巣が入った。その事をMI6が知り刑事を呼ぶように指示が出る。アラン宅にノック刑事が立ち入る。アランは「何も盗まれていない」と言い、しかも刑事を邪険に追い払ってしまう。ノック刑事はアランは何かを隠していると睨んだ。

時代は1939年に飛ぶ。
イギリスがドイツが敵対し大戦が開始されたころ。数学者アラン・チューリングはブレッチリー無線機器製造所へと足を運んでいた。
そこで英国海軍のアラステア・デニストン中佐の面接を受ける。英国は「何かの目的」のために人材を探していたのだ。言葉の裏の意味を読み取れないアランに対してデニストンはうんざりし追い返そうとするが、アランは探している人材は「エニグマ」という暗号解析のための人材であることを見抜く。機密であるはずのその情報を見抜いたアランを認め、デニストンは彼を採用したのだった。

「エニグマ」とはドイツ軍が毎日発する暗号。誰でも受信することはできるが、特定のマシンにかけないとその意味を読み取ることはできず、人海戦術で調べても2000万年かかるほど膨大な組み合わせがある。これを解読することがアランたち暗号解析班の役割だった。表向きにはブレッチリー無線機製造所で働いていることになっているが、これは国家機密であり、本当の事を言えば国家反逆罪で死刑になる。
アラン以外にもヒュー・アレグサンダーなど数人の人材が集められたが、アランだけは暗号解析に挑むのではなく、「暗号解析を行うためのマシン」の製造を行い続けていた。さらにアスペルガー症候群でもある彼は同僚とうまくコミュニケーションが取れず浮いていた。
マシンの開発に多大な予算が必要なのだとデニストンに直訴するも受け入れられず、それではとさらにデニストンの上司に手紙でかけあったところ、それが通り、さらにアランがチームのリーダーになる。アランは使えないと判断した同僚を容赦なく切り捨てた。

1928年。アランはこういう人の気持ちを汲めない性質があったために学生時代でも浮いており、いじめられていた。しかし彼にはたって一人、クリストファーという友人がいた。彼はアランに対して「思いもよらない人物が偉業を為すこともあるかも」と言ってアランを励まし、またアランは暗号解析に向いているかもしれないとも言った。アランはマシンのにこのかつての友の名前、クリストファーと名付けていた。

第二次大戦中に戻る。抜けた穴を埋める人材が必要だと考えたアランはあるクロスワードパズルの問題を市民に向けて出す。さらにそれを10分以内に解くことができた人間だけが受けられる試験を開催。そこで一人だけ女性のジョーン・クラークがやってきて、アランですら8分かかる問題をなんと5分で解いてしまう。
アランは彼女の力を素晴らしいものだと考えたが、クラークは合格したにも関わらず世間体を気にして辞退しようとする。しかしアランの説得により彼女もブレッチリーで働くことになる。
またある日、ブレッチリーにソ連のスパイがいるとしてデニストンにアランが疑われた時があった。聖書を元にした暗号が使っていることはわかったが、アランはそんなものは使わないと否定する。

1951年。アランの経歴を調べていたノック刑事はアランの海軍にいた経歴が抹消されていることを知る。また、アランと同じくケンブリッジ大学に所属している大学教授のうち二人がソ連のスパイであることが発覚したのもあり、アランは何らかの形で国家機密に関わっていると疑った。

それでもなお暗号解析は進まず、未だに計算機作りばかりを行っているアランに対してヒューたち同僚の感情が爆発することもあった。だがそれでもアランは計算機を作り続けた。
クラークはアランに対して「同僚とはうまくやらないと」とアドバイス。それを聞いてアランは同僚に差し入れを行うなどするようにすると、ヒューたちの態度も徐々に軟化していく。
ある日、成果が出ないことに業を煮やしたデニストンが研究所に乗り込んできてアランのクビを勧告するも、ヒューたちは「暗号を解ける可能性があるのはアランのマシンだけだ」と言ってかばってくれた。デニストンはなんとか引いてくれたが、期限はあと一か月で成果を出さなければ全員まとめてクビにすると言った。

1951年。
ノック刑事はアランが何かを隠していると見込んで捜査をしていたが、それとは関係なく、アランが同性愛者であることが発覚。男娼と関係を持ったことが明らかになったのだ。この時代のイギリスで同性愛は犯罪になる。こんなことで逮捕するとは当初の目的とは違うとノック刑事は上司に反論するもそれは受け入れられず、結局同性愛の容疑で拘束することになった。

第二次大戦中に戻る。
クラークが「両親が自分がいつまでも独身でいることに危機感を抱いているから帰郷する」と言い出した。まだクラークの力を必要と考えていたアランはこれを止めようとする。最初は口喧嘩になるも、アスペルガー症候群のアランなりに告白をし、アランはクラークと結婚することになった。
ヒューたち友人もクラークとのことを喜んでくれたが、同僚の一人であるケアンクロスに対してアランが実は自分が同性愛者であることを打ち明ける。そのためクラークとはそういう関係を持つことは難しいと考えていた。だがアランはクラークのことは人間として好きなのは確かだった。

1951年。
ノック刑事は拘束したアランと二人きりで対話をする。そこでアランの秘密を聞き出そうとする。アランは「イミテーション・ゲーム」という、「相手がマシンか人間か」を判定するテストをノック刑事に行うように言う。アランは自分がマシンなのか人間なのかを判定してみろと言い出した。そしてここは映画冒頭のシーンに繋がる。アランはノック刑事に対して大戦中に秘密裏に行っていた暗号解析の件を話し始めた。

第二次大戦中に戻る。
未だ暗号解析は進まない。ある日、アランがヒュー、クラーク、クラークの友人のヘレン酒場で飲んだ。ヘレンは暗号を受信する仕事をしていて、「暗号には必ず最初には特定の文字が含まれる」という話をした。これがヒントになり、「通信の中に必ず含まれるものだけを調べればいい」ことに気付く。そして毎朝午前6時には「午前6時 天気は〜 ハイル・ヒトラー」という通信が必ず発信されるため、「天気」と「ハイル」と「ヒトラー」だけは必ず含まれる。これを手掛かりにしてクリストファーに入力したところ、ついに次に行われる空爆の座標の情報に変換され、エニグマの解読は成功したのだった。

喜ぶ一同。すぐにデニストンに教えようとするも、アランはそれを止めた。なぜなら、「空爆を避けるように連合軍があからさまに動いたらドイツ側としてはエニグマが解読されたことに気付いてしまうから」である。アランの同僚のピーターの兄がいる軍艦が次に狙われると分かっていてもなお、それはあえて見殺しにすることになってしまった。それでも兄だけは助けたいと思っていてもアランはそれを否定。
解読したデータはドイツ軍に解読が悟られないようにする制限つきで利用する必要があった。このことをMI6長官のミンギス少尉に進言したところ了承してくれた。

ある日、アランは研究所でケアンクロスの机の上に聖書が置いてあり、しかもかつて犯人として疑われたソ連のスパイが使ったらしい一節が書かれたページに折り目が入っていることに気付いた。アランはケアンクロスがソ連のスパイだと気付くが、ケアンクロスは「バラしたら君が同性愛者であることもバラす」と脅してきた。覚悟の上でなおもそれを告発しようとするも結局はアランにその勇気はなかった。
ある日自分の部屋にミンギス少尉が侵入していた。なんとミンギス少尉はケアンクロスがスパイであることを承知で泳がせているのだという。ソ連に流した方がソ連の動きを制御しやすいからだ。何もなかったように行動しろとミンギス少尉に言われるアランだった。ミンギス少尉が信用できないためにクラークに対して「婚約は解消だ、故郷に帰れ」と言い、自分が同性愛者であることも告白するも、すでに仕事に生きがいを感じているクラークは別れようとはせず、とどまった。クラークはアランに対して「あなたは怪物だ」と罵った。
だが結局そのまま何も事件は起きず、戦争は終結した。アランたちが働いた形跡となる書類その他は全て焼却抹消された。

1951年に戻る。こうしてアランはノック刑事に語り終えた。アランは「僕は人かマシンか?判定してくれ」と言うもノック刑事には答えることはできなかった。
そうしてアランは同性愛者として罰を受けた。それはホルモン剤により精神的去勢。彼にあるのはさらに進化したクリストファーだけだった。アランと別れたクラークはアランの元を訪れ、去勢をなぜ受け入れるのかと言うが、逆らえばクリストファーを持っていかれてしまうことを恐れるアランは泣きながら「孤独はいやだ」と言った。
そんなアランに対してクラークは「あなたが普通とは違うからよかった。あなたのおかげで今の平和がある。思いもよらない人物が偉業を成し遂げるのよ」と言い最大限の賛辞をアランに送った。

結末ではアランたち暗号解析班が戦争終結後に書類を燃やすシーンが映されながらのモノローグ。アランは1954年に自殺したこと。エリザベス女王が2013年に彼に死後恩赦を与えたこと。そしてアランの業績により大戦では1400万人もの人名が救われたと見込まれること。
書類を燃やすアランたちはまるでキャンプファイヤーをしているようで実に楽し気な表情をしていた。

感想・評価

「アスペルガー症候群」だが、並々ならぬ頭脳を持つ天才数学者アラン・チューニングがドイツの暗号「エニグマ」に挑む様、それにそれを取り巻く人間たちの物語。
あのノルマンディ上陸作戦などもアランたちの働きなくして成功はなかったなどという、「ホントかあ?」と疑ってしまうような話なのだが、どうやら紛れもない事実らしい。その事実をイギリス政府が認めたのが戦後50年で、2013年にはアランの扱いに対して死後恩赦があったとか。もう題材からしてフィクション以上にフィクションじみていて面白いのだが、それ以上に何が面白いって、主人公アランだろう。超天才数学者でアスペルガー症候群で同性愛者という、ちょっと盛りすぎじゃない?と思ってしまうような濃ゆい濃ゆいそのキャラクター。その超常の思考、それゆえの苦悩(周囲から浮いてしまう)、降りかかる災難(イギリスでは同性愛が禁じられていた)。実際にいた人物なのでこう言ってしまうと悪いかもしれないが、観ている分には実に波乱万丈で面白い。「一緒に食事をしないか?」と言われて断るのに、「何か食べたいものはあるか?」と聞かれたら「スープを頼む」などと言ってしまうシーンなどは本人としては大マジなのだろうが笑ってしまった。ただでさえ生きていくのが面倒そうな人間であるのにさらに同性愛者であることが明らかになった時は思わず「ええ〜?」と声が出てしまった。さらに運が悪いことにそれが罪となる時代。戦後はホルモン注射で精神的去勢を受け、妻とは別れてかつての親友の名を付けたマシンだけを傍に置き、孤独におびえながら41才の若さで自殺。なんとこのアラン・チューリング、大戦で連合軍を勝利に導きおびただしい人命を救ったというだけでもとんでもないのに、この時作った計算機は現代存在しているコンピュータの始祖のような扱いでもあるらしく、まさに作中で言っているように「誰も成し遂げたことのない偉業を為した」のであるが、それにしては報われない晩年だ。

ラストでアランが戦後どうなったかを淡々とモノローグで語られる中、アランたちが自分たちが働いていた証拠となる書類を全て燃やす作業を笑いながら、実に楽しそうにやっているのだが、このシーンは切なかった。戦時中、暗号解析を行っていた間だけはアランは間違いなく幸せだったのだろう。自分の才能の全てをぶつけられる難関に出会い、一部では自分以上の能力を持つ妻と出会い共に研究をし、アスペルガーゆえに最初は疎まれていたが、それを含めて理解してくれる友人もいた。この間だけ見れば、むしろ並の人間よりはよほど幸福でもある。その終わりを飾る書類の焼却抹消をまさに最後の祭り、夢の終わりの最後の花火のように見せる演出は本当に切ない。

ちょっとした自分語りになるが、人生において「人と違うことをどれだけ成し遂げられるか」というのは一つの真髄だと思っている。だからこういう人物にはどうしても感情移入してしまうのだよなあ。神々の山嶺もこの作品と同じように普通でない変人が主人公の作品だが、あの作品を高く評価したのもそういう理由なのが大きい。男と生まれたのなら「人と違う何か」になってみたいと誰しも思わないだろうか?誰もやっていないことを世界で自分だけが成し遂げたくはないだろうか?レールから降りろ!そして道なき道を開拓しろ!
そういう思考がほとんどすべての行動の原動力になっている自分にはこのアラン・チューリングという偉人の生き方は、例え本人がそう幸福でなかったとしても、大きなエールになってくれた気がするのだ。

自分語りはともかく、とにかくこの作品は色々な意味で面白い。見て損はしないので是非。

登場人物解説

アラン・チューニング

演:ベネディクト・カンバーバッチ
天才数学者。デニストンとの面接ではアインシュタインなどを引き合いにして自分よりも彼らの方が若くして偉業を為したというように語る。アスペルガー症候群なので「言葉の裏にある意味」を理解することができず周囲に嫌われるような言動、行動をするため子供の頃から浮いていた。クリストファーという人物だけが唯一の友人だった。しかしブレッチリーでの仕事をしている間には同じく数学に優れたジョーンやヒューと出会い、それも含めての理解者となってくれた。エニグマの暗号解析により第二次大戦での連合軍の行動をコントロールさえしたのだというのだから、ある意味では国のトップ以上の影響力があったということにもなるのではないだろうか。同性愛者でありそれを黙りつつジョーンとの結婚。すぐに破局。しかしジョーンとの関わりは友人として深く、人間的に同じ数学者として好きだったのは確か。1954年に自殺したとあるが、他殺説や事故説もあり、実は未だはっきりしていない部分らしい。

ジョーン・クラーク

演: キーラ・ナイトレイ
アランが共に仕事をする仲間を募集するために出したクロスワードクイズをアランよりも早く解いてみせる能力を持つ女性。女性なので試験会場で本当に自分で解いたのかと疑われるも能力は本物だった。男女が共に仕事をする時代ではなかったせいでアランやヒューと表だって共に働くことはなかったが、隠れてアランと会い共にエニグマ解析に尽力。親を放っておけないから帰郷しなければ、という時にアランからプロポーズを受けて夫婦になる。アランが同性愛者であることを知っても驚かなかったが、結局は破局。しかしアランとは変わらず友人であり続けた。戦後に再婚。戦後再会したアランは孤独におびえていたが、「あなたのおかげで今の平和がある」と言い慰めた。

ヒュー・アレグサンダー

演: マシュー・グッド
アランと共にブレッチリーで暗号エニグマ解読のために働く男性。アランと同じく暗号解読に携わった功績のほか、チェスの打ち手として名高い人物らしい。また、アランと違って戦後20年の間、イギリスの暗号解読部門として大きな影響を残した人物でもあるようだ。最初はアランに辛辣だが、アスペルガーな性質は本人に悪気がないことを理解し、またその天才的頭脳も認め、良き友人となる。

ジョン・ケアンクロス

演: アレン・リーチ
アランの同僚の一人。実はソ連にイギリスの情報を流しているソ連のスパイだが、ミンギス少将はそれを知りつつも黙っていた。アランが同性愛者であることも、ジョーンに打ち明ける前にケアンクロスは見破っていた。スパイであることを知ったアランに対して「バラしたら君の同性愛趣味もバラす」と脅す。

アラステア・デニストン中佐

演:チャールズ・ダンス
アランの上司に当たる人物。暗号解析に必要な人物を見定めるための面接でアランを採用したのだが、なかなか成果が出ないことに業を煮やし、そのうちにアランには非常に辛く当たるようになる。アランが作り出したマシンを止めてクビにしようとするも、ヒューたちがそれを食い止めた。

スチュアート・ミンギス少将

演:マーク・ストロング
イギリス諜報部MI6の長官。アランたちが暗号解析した後、それがドイツに知られたら結局暗号を変えられてしまうので、それがバレないようにふるまってほしいと頼まれて承諾する。ケアンクロスがソ連のスパイであることを知りながらも放置。それは「あえて流した方がいい情報もある」という考えからだった。アランにはその事を教えてうまく立ち回るように言って、アランはミンギスを信じられなくなったようだが、特になにもないまま終戦を迎えた。

ロバート・ノック刑事

演:ロリー・キニア
この作品はアランの少年期、大戦中の暗号解読時期、戦後の3つの時代がローテーションのように場面転換を繰り返すが、戦後の時代に登場する刑事。アランの家に空き巣が入ったと聞いて立ち入るもぞんざいにされる。しかし何か秘密があると考えて調べ、アランに直接話を聞くとアランは暗号解読に携わっていた時代のことをノック刑事に話し始めた。大戦中の描写はアランがこのノック刑事に語っている回想の形式になっている。

クリストファー

アランの学生時代の親友であり、アランは彼に恋をしてしまったいた。しかし実は結核を患っており、アランにも打ち明けておらず、アランが知らないうちに死去してしまっていた。彼の名前をマシンにつけ、晩年の孤独もそのよりどころとなっているアランは見ていていたたまれない。

項目別評価

事実に基づいた物語でありながらまるでフィクションのような物語。ウソのようなホントの話。暗号を解読する変人天才数学者、決して恵まれてはいない人生だったのかもしれないが、暗号解読に費やした数年の間だけは確かに友がいて、妻もいた。こういう、人生について考えさせてくれるような物語は実に好み。文句なしにオススメできる。

凡人の感想・ネタバレ映画>イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密