帰ってきたヒトラー(映画) 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2018年1月16日

あらすじ・ネタバレ

冒頭、マナーを教わるヒトラーが映される。かつてのナチドイツ式敬礼は失われたがやはりあれがいいと言うヒトラーだった。

2014年のドイツ。ベルリンに突如として現れ横たわっていたヒトラーは状況が理解できずうろたえる。
小さな売店にある新聞を見て2014年だとようやく気付いたヒトラーは卒倒してしまった。

ドイツのテレビ局「フラッシュライト社」では次期局長の選定が行われるところだった。副局長ゼンゼンブリンクは次の局長は自分だと思い込んでいたが、次期局長となったのはベリーニという女性だった。
副局長は業績がいまいちな社員ザヴァツキを解雇した。

倒れたヒトラーを介抱したのは新聞を売る売店の男性。ヒトラーは本物の総統みたいだと言われた。
ヒトラーは2014年に自分が現れたのは「神が与えた運命だ」と考えて2014年現在の情報を収集した。
サヴァツキはテレビ局に戻るための特ダネを探していた。そんな時テレビに映ったヒトラーのような人物をザヴァツキの母親が発見する。

売店の男にガソリン臭いと言われたヒトラーはクリーニング屋に行く。帽子だけ残して服を借りた。
売店に戻るとサヴァツキがやってきていた。その前で演説をするヒトラーを見て爆笑。ヒトラーを連れてドイツ各地を回るという案を見せた。 新聞台やチョコレート台を請求されたが「これは栄誉だ」と言ってごまかした。

旅行中にテレビを見て俗な番組ばかりの状況を見て、ザヴァツキの番組は政治を扱うと決めた。
そしてドイツ国民にインタビューして回る。数十年後も民主主義は浸透していないと感じたヒトラー。難民が大量に入り込み、そんな外国人に出ていけと言うことができない世の中で、政治不信が蔓延していると感じた。

犬が好きなヒトラーは犬を買おうとするが、遊んでいるうち噛みつかれて撃ち殺してしまうという事故も発生した。
金がなくなって製作費が尽きたのでザヴァツキは副局長に相談するが断られる。それで画家志望だったヒトラーがバイロイトの路上で絵を描いて金を稼ぐ。

旅を続けるとヒトラーはどんどん有名になっていった。SNSでヒトラーの存在は広がり、動画サイトでアップロード直後に100万以上を突破する。

ヒトラー自身がゼンゼンブリンクの所に来る。ヒトラーは会議室に入って演説する。局長のベリーニはヒトラーに会って番組を作ろうとする。ただし「ユダヤ人ネタは禁止だ」と添えた。ヒトラーはベリーニ局長を才女だと高く評価する。

ザヴァツキは憧れだったクレマイヤーをデートに誘うが、クレマイヤーの友人だという悪魔崇拝者の者がいる異様な家だったので戸惑う。

ヒトラーの秘書にクレマイヤーがつく。
コンピュータに興味を持つヒトラー。さらにインターネットというものに驚愕する。ウィキペディアにも感動する。 ゼンゼンブリンクはヒトラーがユダヤ人の逆鱗に触れるため、ベリーニの命取りになると考える。そしてわざと差別ネタなどを考えた。

クラス・アルターという、政治を小ばかにする生放送バラエティ番組にヒトラーが出演することになる。
しかしヒトラーは出演後何も話さない。映像に残る有名な演説のように完全に静かになるまで待ち、周囲がついに焦り始めてから話し始める。この放送をクレマイヤーの家で見ていたザヴァツキは泊まり、共に過ごした。

そしてベリーニはヒトラーを出しまくれば大うけだと確信し、一日中テレビ局に出演させるよう指示した。
番組内インタビューで「私は国民というピアノを弾く」と言い、「それには黒鍵もありますか?」と聞かれて「もちろんある。必要なら叩く」と言った。

連日テレビに出るヒトラー出演番組は大うけだった。
もはや知らぬ者はいらいまでになったヒトラー。ユーチューバーたちも取り上げるのは彼のことばかりで、もはやユーチューブを支配していた。

ドイツ国家民主党(NPD)に乗り込んだヒトラー。党首を叱咤しまくったヒトラー。
密告者によりテレビ局に検察が乗り込んでくる。扇動罪だと。しかし検察は「個人的にはヒトラーは素晴らしい」と言って見逃してしまう。密告者はベリーニを失脚させたいゼンゼンブリンクだったがこうして失敗に終わる。

思惑通りにベリーニを蹴落とせないゼンゼンブリンク。今度は撮影中にヒトラーが殺した犬の件に目を付けた。
ヒトラーはいつも通りインタビューにを受けていたが、ここで犬を射殺した映像が流れる。追及されると「犬を殺したのは仕方ない」と言った。これによりベリーニは局長をクビになった。

こうしてゼンゼンブリンクは局長になった。
ヒトラーも公に出られなくなり、ザヴァツキの家に匿われることになった。
これは苦難だがヒマな時間を使って本を書くことにした。これは現代のベルリンで目覚めた自分自身を書き記したものだった。ザヴァツキはこの本をベリーニに渡して自分が映画化すると言った。
本は大ヒットし、ヒトラーはその金を動物保護に募金して好感度を取り戻していった。ゼンゼンブリンクの局のテレビは視聴率的かで破産寸前だった。この状況で、「ヒトラー最後の12日間」をオマージュしたシーンが流れる。

追い込まれたゼンゼンブリンクはヒトラーにすり寄ることにした。映画の放映権を獲得しようとザヴァツキに交渉する。 クレマイヤーの家を訪れたヒトラー。痴呆症の祖母がヒトラーを思い出して出ていけと言う。ヒトラーの正体は知っている。みんな覚えていると騒いだ。ここでクレマイヤーがユダヤ人だったとわかった。
クレマイヤーがユダヤ人だったことに失望するヒトラー。ザヴァツキに対して「ユダヤ人でも多少の血なら克服できる」と言い、ザヴァツキに「なんて人だ」と蔑まれた。

映画の撮影のためにヒトラーが最初に転移した場所をザヴァツキに教える。ヒトラーは自分でも何が起きたかわからないと言った。 ヒトラーはこんな中ネオナチに殴られて病院行きになった。民主主義の旗手だと。ベリーニがお見舞いにきていた。

ザヴァツキは過去の映像を調べているとヒトラーがいた場所に謎の光が発生しており、さらにヒトラーが最初にいた場所は塹壕跡だったことを知った。これにより彼は正真正銘のヒトラーだと確信し、病院に行く。すでにヒトラーは退院していたがベリーニはいたので「彼は本物のヒトラーだ」と訴える。しかし頭のおかしい人間だと思われるだけだった。

病院を飛び出したザヴァツキ。ヒトラーを見つけて銃を突き付けて「お前はヒトラーだ」と言うと「嘘を言ったわけではない」といい、「1933年でもプロパガンダに惑わされたわけではない。国民が私を選んだ」と言った。
銃を突きつけたまま屋上の端に追い込んでザヴァツキは「怪物め」と言うと「では私を選んだ国民が怪物だな」とヒトラーは返す。「心の底では国民は私と同じだ」と。 「君は撃てない」と言った直後にザヴァツキはヒトラーを撃ち、ヒトラーは屋上から落ちた。 ザヴァツキが下を覗き込むと遺体はなく、なぜか後ろにいた。「私を消すことはできない。私は君らの中に存在する」と言った。

ここでヒトラーが殺される一連のシーンは映画だったことがわかる。
実はザヴァツキは病院で騒いだ後確保されていて、ヒトラーの元に辿り着けていなかった。それを見て泣いて悲しむ恋人のクレマイヤー。

こうしてヒトラーの存在は皆に歓迎され、愛されるようになった。ヒトラーが「機は熟した」と言う結末。

感想・評価

2012年の小説が原作。ヒトラーが現代に復活し芸人として人気を集め、ユーチューブを席巻し、さらに映画俳優になってしまうというストーリーに隠れてしまうが、作品の主軸は大量の難民流入による不安、それを管理できない政治への不信を取り上げ風刺するというもので、ドキュメンタリーの形式に近い。
遥か離れた日本でもドイツへの難民流入が何度も報道されたのが2015年だった。しかし何かと差別主義者に厳しい現代、レイシストの極みであるヒトラーを復活させたくなるほどに国民の不満や不安は高まっていたのかもしれない。2015年だからこそ公開できた映画だろうか。それでもブラックで洒落にならない一線ギリギリだと思うのだが、ベリーニがヒトラーに「ユダヤ人ネタだけはダメよ」と大真面目な顔で言うことなんかは方々への配慮が感じられた。終盤でクレマイヤーがユダヤ人の血を引いているシーンでは酷いこと言ってるが、ここ以外ではユダヤ人がどうと口にするシーンはない。当たり前だが映画でもコメディでもユダヤ人をネタにするのはシャレにならないんだなあと伝わってきた。

冒頭でヒトラーがマナーを学ぶシーンを見た時に「現在に現れたヒトラーがトラブルを起こすドタバタコメディか」と想像したのだが、思った以上に風刺が効いていた。特に終わり方に関しては「感動路線か?コメディ路線か?」と二択に考えていたのだが、まさかのシリアス路線。ヒトラーが再びドイツを手中に収めてしまうという危惧を抱かせるようなシーンで終わる。現代に現れたヒトラーが大絶賛されるという状況を通して「全ては国民が決めること。国民の責任だ」と暗に訴えて終わるというわけだ。

正直なところ、はっきり言えば「くだらない映画」を予想していたので良い意味で裏切られた。決してそういうもんではなく、コメディとしても風刺としても面白いんで、特にドイツの政治文化に興味あるならばオススメです。

それと、「ヒトラー最後の12日間」のあのシーンは日本でも有名だが、ゼンゼンブリンクたちがパロディやるのは不意打ちで吹き出してしまった。あのシーンってドイツでもネタにされるんだなあ。

登場人物解説

アドルフ・ヒトラー

理由は分からないが現代に転移した。現代の国民を先導する。芸人扱いされてどんどん人気を博していったが、犬を殺した件をゼンゼンブリンクに知られて一度失墜する。しかし本を出して大ヒット、その金を動物保護に募金しえ人気復活。その後は映画にも出た。誰しもが芸人だと思い込んでいたが最後の最後でザヴァツキだけが正体を見抜き騒いだがザヴァツキは頭のおかしい人間だと思われたため止める人間は誰もいなくなり今後ドイツを手中に収めることが予想される。

フランク・ザヴァツキ

テレビ局を解雇された冴えない男。マザコン。解雇後にテレビを見ていた母親がヒトラーを発見。それを使って番組を使うことを思い付く。それは上手く行くが、本物のヒトラーだということを見抜いて騒ぎ立てたところ精神疾患者だと思われ捕らえられる。

ヨアヒム・ゼンゼンブリンク

フラッシュライト社の副局長。局長になったベリーニを疎んじ、どうにか失脚させようとする。ヒトラーの犬殺しの件でそれは叶い、念願の局長になるがヒトラーがいなくなったフラッシュライト社は視聴率急降下。その時「ヒトラー最後の12日間」の例のシーンのパロをやる。

カッチャ・ベリーニ

局長に選出。保守的なゼンゼンブリンクと違い器量が大きく大胆さを兼ね備えているためかゼンゼンブリンクを差し置いて局長になった。ヒトラーの犬殺しの件で立場を追われるが、ヒトラーが書いた本の原稿をザヴァツキから渡されて出版の権利を得たので再び成功者に。「あれは本物のヒトラーだ」と訴えるザヴァツキの話を聞かず、まんまとヒトラーを支える側近のような立場となってしまった。

ヴェラ・クレマイヤー

ザヴァツキと同僚でザヴァツキが好意を持っている。実は悪魔崇拝者の友人と付き合いがある。それに実はユダヤ人のクオーター。ザヴァツキと恋人同士になる。痴呆症の祖母がいるが、この祖母がヒトラーを見ると過去を思い出して本物のヒトラーだと見抜き罵詈雑言を浴びせた。クレマイヤーがユダヤ人だったことを知ったヒトラーは残念がり、ザヴァツキはそれに対して怒りをあらわに。ザヴァツキが捕らえられたシーンでは泣いて悲しんでいる。

項目別評価

難民を抱えることになったドイツの怒りがひしひしと伝わる、意外にもシリアスな作品。設定だけ見ると茶番劇のようなものを想像してしまうが、観る価値はある。コメディとしても普通に面白い。「ヒトラー最後の12日間」のパロも見所です。

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