この世界の片隅に(アニメ映画) -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2018年2月27日

簡単なあらすじ・ネタバレ

第二次大戦前の日本。広島市に住む浦野すずは絵を描くのが趣味のおっとりした少女。
彼女が10代後半に差し掛かった時に呉市に住む北條家に嫁ぐことになった。すずの夫となる北條周作は幼い頃広島市ですずと会っていた。周作の姉の径子だけは当初すずに厳しかったが、徐々に軟化していった。
里帰りした拍子で一時ホームシックにかかったりもしたが、すずは北條家に溶け込んでいった。
昭和19年ごろになると戦争も激しくなり、空襲に怯える日が続いた。そしてある日、すずは径子の娘の晴美を連れて出かけたが、時限爆弾の爆発に巻き込まれてしまう。すずは右手を失い、晴美は死んでしまった。
そんなことがあってもただ呉で空襲に耐えて日常を過ごす日々が続くが、すずは右腕を失ったショックや晴海を死なせてしまったことによる負い目などのストレスで追い詰められ、ついに「広島に帰る」ということを周作に伝える。しかし直前になって径子との会話でそれを思いとどまった。
だが昭和20年の8月6日、広島に原爆が投下されてしまう。そして15日には終戦。すずは焼野原となった広島に出向く。妹の浦野すみだけは生きていたが、父は原爆症で死に、母は原爆の爆発に巻き込まれ遺体すら見つからなかった。
今後を話し合うすずと周作の元に一人の少女が寄り添ってくる。彼女は母と共に原爆に巻き込まれ、母を失っていたのだった。すずと周作をこの少女を連れて呉へ戻り、北條家の一員として迎え入れ、育てていくことにした。エンディングではこの少女が成長していく様が描かれる。

感想・評価

数年前から時々あちこちで見かけるようになった作品。雰囲気、絵柄からしていかにも名作オーラを感じ取っていたのだが、このたびNetflixで初視聴。視聴前に評価を一瞬だけ見て満点だらけだったのを確認したのだが、視聴後には

「あ、これは絶賛されるわ」

と思うしかないような出来だった。
可愛らしい絵柄、おっとした主人公、昭和の純朴な空気。これらは人間の本能にすら訴えかけてくるかのようなものだ。この作品をあえて「嫌い」と言う人間が存在するとは思えないほどに、「好感を持てる要素の塊」で構成された作品。あざとい、と言ったが、実際のところそんな風には感じない。嫌味のない愛嬌、素朴さ。それがこの作品にはこれでもかと詰め込まれている。極端な話、頭身の低いすずが風呂敷を背負ってテクテク歩いているだけで、なんかもう愛らしくてしょうがないわけで。ある意味「ずるい」とさえ思えるほどだ。この作品は資金調達をクラウドファウンディングに頼ったということでも有名だが、この作品に入れ込む人間はこの絵柄や雰囲気にぞっこんなんだろうなというのは、今回初めて原作者のこうの史代を知った自分ですらよーく理解できることだった。

戦争悲劇という劇薬を詰め込んでいるだけに、ただほのぼのというだけでは当然終わらず、義理の姉径子の娘、晴美が死に、すずが右腕を失ってからは特に明確に作品の雰囲気が変わるが、それでも最終的には嫁ぎ先の呉の北條家で戦後を生きていくことを決め、平凡な日常を送っていく。アニメ映画で戦争というと嫌でも思い出すのが「火垂るの墓」だが、主人公が日常を嫌い目を背け、不可能な夢の生活に逃げ込み破滅を迎えるというそれとは違い、この作品「この世界の片隅に」は、基本的にどこまでもただの戦時の平凡な家庭の日常を描き、所帯じみている。「平凡でもしたたかに、楽しく生きるべし」という、大多数の人間にとって目指すべき人生の本質をただ誇張なしに書いているため、嫌味が無い。「顔も知らない男性の元へ自分の意思とは関係なく嫁ぐことになり、それでもそこで花を咲かせ、根付く」というのは、恋愛至上主義になった現代だと遠い世界の事象のようでもあるが、これは確かにありふれたことでもあった。たとえば自分(筆者)の祖母もほとんど同じような人生を辿っている。男女平等が謳われ、女性の生き方も自由になった今の世にあってはこれが果たして幸せなのかと思うと疑問に思うところでもあるが、「しっかり芯を強くして生きてさえすれば、流れ流されるような人生であってもなるようになってくれる」というのもまた人生の本質であるなとしみじみ思えてくるものがある。ただただ平凡でとびきり秀でたところがない主人公はじめ登場人物たちだが、だからこそ、その姿は人生を生きていくことの難しさ、ままならなさ、そして楽しさかけがえのなさを表現してくれている。

ことに原爆を描いているだけに一部の海外評判は厳しいことを描かれているようだが、この作品の本質は戦争とか原爆とか、そういうことではないのだろう。家庭に入り、子を作り、日常をただ送っていくだけでも人生は難しく、楽しく、かけがえのないものである。そんなことではないだろうか。是非見るべき作品。60過ぎくらいの両親、祖父母にも勧めても問題はないだろう。

人物解説

北條(浦野)すず

声優:のん
主人公。広島生まれだが18才の頃に呉市の北條家へと嫁ぐ。絵を描くのが好き。おっとりした性格で、のんの棒読みとも言える吹き替えが絶妙にマッチしている。どちらかというと楽観的な性格だが、昭和20年の空襲で右腕と晴美を失ってからは流石にショックだったらしく、北條家を離れる決意をする。しかし結局はそれはやめ、原爆投下で故郷の広島も滅茶苦茶になってしまったため、呉で生きていくこととなる。周作と共に広島で孤児となった少女を連れて帰った。水原に対して恋愛感情を持っていたらしいが、周作の事も本心から好きになってしまったため、水原が北條家を訪れた時には葛藤した。

北條周作

声優:細谷佳正
呉市の北條家の嫡男。すずとは幼い頃に広島市で会っていた。逞しくも優しく、すずにとっては良き夫であり、すずも周作を好くようになっていく。
すずとの初夜シーンがあるせいでこの作品は家族での視聴が若干難しくなっているのは惜しいと思うのだがどうか。洋画でよくあるような性的シーンよりはよほど控えめなんで気にするほどでもないかもしれないのだが。

黒村径子

声優:尾身美詞
周作の姉。黒村家に嫁いだが、夫が病死したのをきっかけに黒村家とは離縁することになり、息子は跡取りのために持っていかれてしまい、娘の晴美だけを連れて北條家に戻ってきた。そんな身の上で、しかも元来気が強いため、すずが嫁いできた当初はすずに強く当たるも、徐々に軟化していった。しかし晴美が死んだ際には生き残ったすずに「あんたが死ねばよかった」と責める。だがそれでも本心から言っているものではなく、右手を失ったすずの世話もするように。

黒村晴美

声優:稲葉菜月
径子の娘。息子を黒村家に持っていかれた径子にとってはかけがえのない存在。しかし空襲直後の呉をすずと歩いていた時に時限爆弾の爆風に巻き込まれて死んでしまう。すずにもよく懐いていた。

水原哲

声優:小野大輔
すずの幼馴染。すずとは両想いだったがついに結ばれず、すずは北條家へと嫁いでしまった。海兵になってから北條家を訪れ、すずとのやり取りで親しい仲であることを周作に見せる。周作は「家長としてあんたを家には泊まらせられない」と言って離れに泊めた。この時すずと会話。未だに互いを思い合っているのを確認し、「広島に連れて帰ろうか」とすずに提案するが、すずはすでに周作のことも好いていたため、葛藤しながらも断る。戦後も生き残っている。

浦野すみ

声優:潘めぐみ
すずの妹。姉妹仲はとても良い。すずが右手を失った時には呉に見舞いに来て、広島に帰らないかとも誘う。しかしその後広島に原爆が投下。命は助かったが、原爆症となってしまう。戦後どれだけ生きたのかは作中ではわからない。

浦野要一

声優:大森夏向
すず、すみの兄。非常にわんぱくな性格なので妹たちからは恐れられてもいた。戦争になると兵士として闘うが戦死。骨となって浦野家へ戻ってきた。

項目別評価

アニメ映画「この世界の片隅に」評価

ほのぼのした雰囲気と戦争の恐ろしさ、激しい二面性を持ち合わせる作品。しかし可愛らしい絵柄、雰囲気のおかげで観ているだけで楽しく、なごみ、ジブリ以上に老若男女楽しめる稀有なアニメだろう。両親や祖父母とでも是非一緒に見るべし、と言いたいところだが、微妙に性的で気恥ずかしい場面もあるので、ちょっと難しい?

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