ロスト・ボディ 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>ロスト・ボディ

執筆日:2015年10月26日

ストーリー・ネタバレ

huluで新作になったいた映画。2012年スペイン映画。知名度はおそらくそんなに高くないだろう、がしかし。先に言ってしまうと見て損はしない映画だ。
それはともかく定例通りネタバレ解説。

まず冒頭は年配の男性が森の中を逃げ回るシーンから始まる。彼はまるで何かに追われているように憔悴しきっている。そして、森を抜けて道に出たところで車に轢かれてしまう。

シーンは変わり、ハイメという警部の元へ電話が。車に轢かれた男性について部下から連絡が来たのだ。
警部は男性が搬送された病院へと向かう。警部が部下から事情を聴くと、どうやら男性は法医学研究所の警備員であり、名前はアンヘル・トレスという。トレスは意識不明の重体だが一命はとりとめていた。
トレスの職場へと向かう警部とその部下。法医学研究所というのは、つまり遺体安置所(モルグ)であった。モルグからは1体の死体が盗まれているという異状があった。盗まれた遺体であるマイカ・ビジャベルデという女性はいくつもの大手企業の株を過半数持っている富豪で、夫のアレックスはその企業の一つのうちの研究所の所長だった。

シーンは変わって、マイカの死を悼むマイカの友人たちのシーン。マイカとアレックスの結婚式のビデオを見ている。マイカは「永遠の愛を誓うか?」の問いに「いいえ」などと答える悪ふざけをするような肝の据わった女性である。
夫のアレックスは落ち込んでいるような素振りだったが、マイカの友人やアレックスの妹が去ってからバイクでどこかへ行く。あるマンションの一室へ入るアレックス。そこには若く美しい女性が。彼女はカルラと言い、アレックスの浮気相手だった。アレックスはカルラと一緒になるため、妻のマイカを毒殺したのだった。
そこにハイメ警部から連絡が入る。「妻の遺体がモルグから消えた」という話を聞いて狼狽するアレックス。カルラにどういうことか聞かれてもわからないと答えるしかない。アレックスは警察からの呼び出しに応じてモルグへと向かった。

ハイメ警部から事情を聞くアレックス。一人になったところで、アレックスはカルラに連絡を入れて、警備員のトレスが入院している病院に探りを入れてほしいと頼む。警部たちはアレックスを窃盗した犯人ではないかとにらむ。警部は妻を亡くしているため、妻が死んだ直後なのに落ち着いているアレックスを怪しいとも。監察医のシルヴィアと話す警部。妻を亡くしたことで警部は自分を責め続けていることが分かるが、具体的に何があったのかはまだわからない。
もう帰らせてくれと頼むアレックスだったが、拘留は続く。嵐が強まり、不穏さを増していくモルグ内。アレックスはマイカが安置されていた安置所で、なぜかマイカの持ち物が移動させられており、さらにはアレックスがマイカの殺害に使用した猛毒TH-16も発見する。アレックスはなぜこの毒がそこにあるのかわからない。そこに警部たちが戻ってきて怪しまれる。とっさに隠した毒も発見される。

トイレでカルラに連絡を入れ、マイカの所持品がいじられていたことや、アレックスとカルラしか知る由もない毒薬があてつけのように置かれていた件をカルラに話すアレックス。さらに、空いた窓にはアレックスとマイカしか知るはずのない思い出の言葉が書かれた紙が。
モルグの制御室へアレックスを案内する警部。監視カメラを制御している場所だが、屋上に繋がるエアダクトから侵入された跡が発見されたのだった。犯人がここを通ってマイカの遺体を盗んだのは間違いない。さらに、制御室のカレンダーの日付が2012年3月20日に変更されていた。さらには制御室の暗証番号が20032012に変更されていた。数字は二人が出会った日を表わしており、これもまたアレックスとマイカ以外に知りえることのない二人の思い出の数字だった。

警部&その部下とアレックスが貨物エレベーターに乗っている最中でエレベーターが停止する。何者かが屋内で火災を発生させて警報機を鳴らしたがゆえのものだった。この隙をついてまたアレックスはカルラに連絡を入れる。カルラと電話しているところでカルラの名前の書かれた名札(遺体安置所にあったもの)を発見し、もはやアレックスはマイカが生きていると確信して戦慄する。
アレックスの携帯を没収する警部。警報機が鳴ったのはトイレでタバコの火を使ったものであり、また毒薬は投与から8時間後に心停止を起こすものだということを警部は知る。

アレックスを部屋に監禁する指示をする警部。その部屋は遺体安置所にも通じている部屋。そこでアレックスは安置所側から携帯が鳴るのを聞く。なんと、ハビエル・アロンソと書かれた遺体の遺体袋の中から携帯が鳴り響いているのだ。携帯に応答すると息遣いだけが聞こえてきた。さらに何者かにより扉が閉じられてしまう。明らかに誰かがアレックスのすぐそばにいるのだ。
遺体袋にあった携帯の履歴、マイカの番号にダイヤルするとアラベスクという飲食店のパトリシアという女性が出た。しかしこれはマイカの携帯をパトリシアが持っているということではなく、マイカにかけるとそのパトリシアの持っている携帯にかかっているということだった。マイカの番号にアラベスクでマイカと食事をした記憶を思い返すアレックス。そこではアロンソという人物がマイカと意味ありげに会話していた。
三度カルラに連絡するアレックス。遺体袋の中にあった携帯に登録されているのはマイカの携帯番号のみで、遺体袋の携帯はアロンソの携帯であり、それを使ってマイカの携帯に連絡するとパトリシアの携帯に転送されたことをアレックスはカルラに伝える。回想の中でマイカはアロンソは精神科医だと紹介していたが、それは嘘だとアレックスは推測する。そしてアロンソの正体を探ってほしいとカルラに伝えた。

場面は変わってハイメ警部の回想。それは昔、警部が妻を事故で亡くしてその痛ましい遺体を見たシーンだ。
またアレックスに聴取をするハイメ警部。アレックスとマイカの馴れ初めや、マイカの死体発見時の様子を聞いた。そしてここで、アレックスは二年前に自分も心臓発作をしたことを明かす。そしてここではアレックスが嘘をついたことをハイメ警部が見破り、さらに、マイカが生前、探偵を使ってアレックスの浮気調査をしていたことを明かす。しかもその探偵はアロンソだった。
警部と二人でさきほど携帯が入っていた安置所のところへ行き、遺体袋の名札を見せたが、名前はなんとアロンソではなくなっていた。

カルラに連絡すると、カルラのマンションに封筒があり、中にメモリーカードがあったという。中身をカルラに送信してもらうと、そこにはアレックスとカルラの浮気現場、そしてアレックスのマイカの殺害の証拠となる音声データまでもが。カルラの命がマイカの手により脅かされる考えてアレックスはカルラに逃げろと言うが、カルラの背後から何者かの車が迫ったところで携帯が切れてしまう。
カルラを救いに行こうと、強引に突破しようとするアレックスだったが、ハイメ警部に殴られて拘束されてしまった。

ついに観念して警部に真相を話し出したアレックス。カルラとの浮気のこと、カルラ殺害のこと。
さらに、アレックスの家に捜査が入り、家からはモルグの見取り図など、モルグへアレックスが侵入したことの確たる証拠が出てきた。
そして昏睡状態だった警備員トレスが目を覚まし、モルグで何があったのか明らかになる。モルグ内のエレベーターにマイカの遺体が乗せられているのをトレスは見たが、その後エレベーターが戻ってくると遺体は消えており、さらに覆面をかぶった何者かがトレスに銃撃してきたのだ。これから逃れるため森を走っていたというのが、冒頭の真相だった。
ここまでの証拠により、ハイメ警部は「アレックスがモルグに忍び込んで遺体を盗んだ」と主張するが、対するアレックスは「マイカはアロンソと協力しており、自分が殺したと思った後に蘇生したのだ」と主張するのだった。

いよいよ物語は大詰め。遺体が見つかったとハイメ警部に連絡が来た。
アレックスと共にその現場へ行き、遺体袋を開けるとまぎれもなくそこにはマイカの遺体があった。
ここでハイメ警部は驚愕の事実を話す。「カルラなどという人物はどこにもいない。お前(アレックス)の妄想だった」と。
手錠をかけられた状態で逃げ出すアレックス。
それを追いかけるハイメ警部。二人きりになったところで、更なる、真なる物語の事実を警部が話し出した。

ハイメ警部の妻は交通事故で死亡したが、その加害者側の車を運転していたのはなんとアレックスだったのだ。マイカもその助手席に乗っていた。アレックスは事故を起こしながら、救急車も呼ばずに逃げ、そのためにハイメ警部の妻は助からなかったのだ。マイカもこのとき「すぐ逃げて」とアレックスに指示しており、共犯である。
ハイメ警部と妻が乗っていた車の後部座席には娘のエヴァも乗っており、彼女が覚えていた記憶を手がかりにハイメ警部とエヴァの親子は犯人アレックスを割り出す。そして、アレックスの浮気相手である女子大生カルラこそが、ハイメ警部の実の娘のエヴァだった。彼女はカルラという偽名を使ってアレックスに近づき、アレックスが事故の犯人であるという確証を得たところで、ハイメ、エヴァの親子は今回の復讐を開始したのだった。遺体を盗んだのもハイメ警部だったが、警部とカルラの力によりアレックスが犯人であるような状況証拠は作り上げられ、あるいは消去されており(アロンソの遺体袋の携帯、アラベスクにあった携帯、アレックスの家にあったモルグ侵入の証拠など)、マイカの殺害は全てアレックスの単独犯であるように見せかけるための、親子による10年越しの復讐劇だったのだ。
そして、エヴァ(カルラ)は最初にハイメがアレックスに電話をした時点で、マイカを殺すために使った毒薬TH-16をアレックスが飲む酒の中に混入されており、いままさに、その効果が発動する8時間が経過しようとしていた…。というところでスタッフロールへ。

感想・評価

アレックスが殺人犯であることは冒頭で明らかにされつつも、アレックスが何者かの思惑に翻弄され、マイカの幻影に怯え狼狽していく、アレックス目線の物語。ストーリーの完成度が高く、素晴らしいホラーサスペンスである。ここ半年間に見た映画の中では最も完成度が高い映画だったとさえ思った。今までサスペンスというジャンルでいい映画に巡り合っていない(そもそもあまり映画を数見てないからだが)ので、間違いなく自分が見たサスペンスの中では最高の出来。

最後に明かされるまさかの真実にはもはやただ茫然とするのみだったが、振り返れば丁寧に伏線が序盤から撒かれており、十分に納得できるもの。
「若い女との浮気を許さない妻の夫への復讐」を思わせるもので、さらにその夫が妻との回顧を踏まえながら進行する構成といい、途中までは「あれ?もしかしてこれゴーン・ガールと似た映画?」なんても思っていたが、ハイメ警部、エヴァ(カルラ)親子の復讐劇という、全く予想だにできないものだった。この親子の復讐も、あくまでアレックスにのみ標的にしたものであり、私刑ではあっても他を犠牲にしていないため、「アレックスとマイカの外道夫婦ざまあ!」と素直に思えて、同情の余地もなくすっきり終わっているのも良い。

ただ単に「サスペンス」だったのなら、その驚愕のラストをもってしても、ここまで衝撃を受けることはなかったと思う。
すごいのは、途中まで本当に妻のマイカが生き返ったように思えることだ。例えばアレックスが薄暗いトイレに入ったシーンでは何か後ろに映りそうで恐ろしいし、さらにはアレックスが死体安置所に足を踏み入れるシーンでは否が応でも恐怖心をかきたてる。それにアレックスと定期連絡する単独行動のカルラはいつ襲われてもおかしくないように思える。その「ホラー」部分がサスペンスだけでは足りない恐怖、不安を補っており、まさに「サスペンスホラー」となっている。サスペンスとホラーが全くぶつかり合うことなく融合しているのだ。

伏線に関しては、ハイメ警部が何か心に傷を負った人間であることは冒頭から明かされているのだが、これは今回の事件に直接かかわりのあるものではないとも考えていた。例えば妻を大事にしていた警部が、妻を殺したアレックスを叱咤することへの説得力を増幅させるため、とかそういうソフトな感じでつながると思っていたのだ。それが警部、そしてカルラがまさかの事件の先導者であり首謀者でもあったという。アレックス、マイカ夫妻の関係性を強調し目くらましにすることで視聴者の警部への注意を逸らしており、ラストで完全に虚を突かれることとなる。特に自分の場合、上に書いたようにゴーン・ガールに似ているな、という色眼鏡をかけた状態になってしまっていたのでなおさらミスリードとなったわけだが。とにかく、過不足なしの伏線、演出、構成。シナリオの完成度は非常に高い。
まさに「隠れた名作」と呼ぶに相応しい出来。文句なくお勧めできる作品。ここはネタバレサイトなのでここを見ている時点で致命的に面白くなくなってしまうが…。

項目別評価

ハイメ警部がアレックスを見下ろし、笑いながら「時間だ」と言ってスタッフロールが流れ始めた時、思わず「素晴らしい」とつぶやいてしまった。綺麗に伏線をちりばめ、ラストでほとんど破綻なく点と点を繋げて謎を明かす作り。終わる5分ほど前、マイカの遺体が写され、ハイメ警部が「カルラはお前の妄想だ」と言ったところで「ああなんだ妄想だったのか」と視聴者に思わせたところから、それはミスリードでしかなく、さらにラスト数分にかけて予想できないまさかの真実。
単純なサスペンスなだけなら中だるみしそうなところを、序盤から中盤にかけての、本当に生き返ったのか?と思わせるようなマイカというホラー存在によりそれを食い止めており、まさにホラーとサスペンスの融合、決して視聴者に弛緩を許さない。
こういうあまり有名でない名作を発見するために俺は映画を漁ってるんだろうなあ、なんてことを思わせてくれる程度に素晴らしい出来だった。

凡人の感想・ネタバレ映画>ロスト・ボディ