サスペクツ・ダイアリー すり替えられた記憶 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>サスペクツ・ダイアリー すり替えられた記憶

執筆日:2018年2月21日

簡単なあらすじ・ネタバレ

主人公スティーヴンは10代の頃母親を失い、ろくでなしの父親には虐待され、一時はホームレスにまでなっていた。その数十年後、その悲惨な過去を元にして本を書いたところ大ヒットして、スティーヴンは有名人になっていた。
しかしこの本の朗読会でその父親のニールが現れて「本に書いてあるのは嘘ばかりだ」と騒ぎ立てる。本にはニールも死んだと書いてあったためにスティーヴンは信用を無くし、担当編集のジェンはクレームの嵐に追われてスティーヴンに「本の内容が嘘じゃないという証拠を集めろ」と言われる。妻殺しの罪に問われているハンスという男の裁判を膨張してハンスとニールを重ね合わせながら、スティーヴンは恋人のラナと共に自分の過去と向き合う。そしてニールはスティーヴンに虐待などしていないし、スティーヴンを愛していたということを知る。スティーヴンは自分を正当化するために記憶を都合よく改変していたのだ。これを知った後、スランプだったスティーヴンの筆は進み、見事な原稿が仕上がった。そして喧嘩していた親友のロジャーとも仲直りし、父親のニールとも和解して仲良くドライブを楽しんだのだった。

詳細なあらすじ・ネタバレ

世の中をどう解釈しているかは過去をどう記憶しているかで決まる。感情を正当化するために人は過去をすり替えるというスティーヴン・エリオットの言葉が出る。彼はこの作品の主人公。

冒頭、幸せそうな家族の日常を映した映像。子供は父と母に愛されていた。しかし時が流れ子供が思春期に差し掛かった時、父は浮気をし、病床に伏せた母は死んでしまう。
そして父は息子に虐待もした。顔を水に突っ込まれるような拷問を受けることもあった。

時は流れ、スティーヴンはこのような体験を元に作家として文章にした。本は大ヒットを記録していた。
スティーヴンの担当の編集者ジェンはペンギン社という大手出版社と契約することができたとスティーヴンに報告する。近々朗読会も行うことも伝える。

回想。スティーヴンとその親友のロジャーはかつて荒れた生活をしていた。そのため文章は14才レベルだと自虐するが。スティーヴンは大ヒットを飛ばしたのだ。

スティーヴンとロジャーはバーで盛り上がっていた。ハンス・ライザーという男のニュースが放送されていた。ハンスは有名なプログラマーだが、妻のニーナ殺害の疑いを持たれていた。未だニーナはどこにいるのかわからない。ハンスはただニーナは失踪したのだと主張していた。
スティーヴンはこの話に興味を持ってハンスとコンタクトを取ることにした。
面会するとハンスは「作家は事実を都合よく捻じ曲げる」と言って取材を拒否するのだった。

スティーヴンはハンスが何かを隠していると考えていることをロジャーに伝えた。ロジャーにはかつての荒んだ生活の陰はなく、子供を持ち幸せな家庭を築いていた。
ロジャーもかつて父親とキャッチボールをしたりサッカーボールで遊んだりしていたこともあったのでそれを思い出していた。

スティーヴンはハンスの裁判の傍聴に訪れた。
ハンスが傍聴席のスティーヴンを見た時、彼の視線の先を追うように振り替えるとそこには女性がいた。
女性はラナ・エドモンドという美しい女性で、タイムズ紙の記者だった。裁判後にスティーヴンが忘れたノートをラナが持ってきてくれた。スティーヴンはこれを機械にラナを食事に誘う。
スティーヴンのバイクに乗って二人はニーナの遺体を創作している海沿いの現場へと向かう。スティーヴンは自分ならハドソン渓谷に埋めると言った。

スティーヴンは朗読会を行う。多くの人間が集まった。しかしその会の中で突如「あんなのは嘘だ」と騒ぎ出す人物がいた。それはスティーヴンの父親ニールだった。そ ニールのせいで会は台無しになった。スティーヴンはラナに「父とは7年前に会って以来互いに死んだことにしていた」という話をする。ラナもスティーヴンに「義理の父親を殺そうとしたこともある」という話をした。ラナも虐待を受けていたのだ。スティーヴンとラナは体を重ねた。

朗読会にはジェンもいたが、父親が生きていたなどという話は聞いたことがなかったためにスティーヴンを責めた。各地から非難が殺到し、裁判を起こすという話も出てしまっていた。大手出版社のペンギン社との契約だけは消えないように何か書き上げろとジェンはスティーヴンを急かした。

スティーヴンは再び過去のことを思い出していた。父親に酷く罵倒された記憶だった。万引きし、それを咎められる記憶も。そして手首を深く切って出血多量で死にかけた思い出もあった。
何か書き上げようとするがスランプになって麻薬にも頼った。

また裁判の傍聴へと足を運ぶ。ハンスの息子のコーリが証言台に立って説明していた。彼はハンスがバッグの中にニーナを詰め込んで運んだ、と想像したと言う。スティーヴンはコーリが父親のハンスを名前で呼ぶことに違和感を覚えていた。
スティーヴンは以前のコーリの裁判での証言記録を調べる。本の内容が偽りでないことを証明できる証拠を集めろともジェンに言われていたため、自分の情報も探すことにするスティーヴン。ラナはその証拠をタイムズ紙に掲載することを約束する。
ラナと共にスティーヴンの父親二ールが刑務所にいた記録とスティーヴンが厚生施設にいた証拠を集める。しかしスランプなので掲載する声明文が思いつかないのだった。ラナは証拠となる書類をそのまま掲載することを提案する。

スティーヴンとロジャーはボクシングのスパーリングに興じていた。その時のスティーヴンはペンダントを渡す。ロジャーから借りたものだった。ロジャーの祖母の形見だった。スティーヴンは「クスリで倒れた時にもらった」と記憶していたが、ロジャーは「パーティで盗まれたものだ」と言っており、食い違いが起きた。ロジャーはスティーヴンが盗んだのに都合よく記憶を改ざんしていることに怒り、気を悪くしてしまった。
スティーヴンはマゾヒズムの気があり、拘束して爪で引っかかれるプレイをニーナに望んだ。

スティーヴンはハンスの件を使った犯罪ノンフィクションを書こうとするがジェンは難色を示す。
ラナの家を訪れてニールはメッセージを残していた。怒ってニールの元を訪問するスティーヴン。
ニールの家に入って親子で会話する。なぜ俺に会いに来たのか、俺を憎んでいるだろうと問うスティーヴンに対して、ニールは意外にもそれほど敵対的ではなかった。朗読会で騒ぎ出したのは、自分が死んだなどという嘘をついていたからだという。それに対してスティーヴンは虐待で7回の逮捕歴がある証拠や自分がホームレスだった時の証拠を出すが、ニールは「自殺しようとしていたスティーヴンを捜していた」と言う。 ここでもスティーヴンの記憶と食い違っていた。だがスティーヴンには確かに虐待された記憶があるし、手錠で拘束された記憶があるし、無理矢理髪を剃られた記憶もあった。 ニールは「お前を捨ててなどいない」となおも言う。スティーヴンはそれを信じられず、みじめに死んでしまえと吐き捨てて去った。

ハンスの裁判の傍聴。ニーナはコーリに体の害になる薬を与えていたという話をする。ニーナはコーリを虐待していたと。そしてハンスは自分は正しいことをしてきたと主張した。ハンスが父親のニールと重なり、スティーヴンは過去の忌々しい記憶を思い出していて気分を悪くした。

スティーヴンはストレス発散のために麻薬を使ってラナと交わった。スティーヴンが首絞めプレイを強要するとラナは過剰に締めてしまい、一次スティーヴンは意識を失ってしまう。意識を取り戻したスティーヴンはラナに愛していると言いプロポーズするがラナはそんなスティーヴンを恐れ、激しく拒絶した。
スティーヴンを振ったラナはもう連絡してこないでと留守電に残した。またジェンからは犯罪ノンフィクションの話は無しになり、新しい編集者を捜したほうがいいとまで言われてしまう。また、行くはずだったハンスの裁判傍聴も忘れていた。

裁判は終わってしまっていたが、録画された映像で判決時の様子を見るスティーヴン。ハンスは第一級殺人罪で有罪となったが、「子供を守るためだった」と必死に訴えていた。ハンスはロジャーと会って「ハンスと親父は同じことを言っていた」とバカにした。どちらも妄想癖があると。
ロジャーはまたスティーヴンの記憶とは違う記憶を話し出す。ロジャーは、ニールが作った新しい家族の前でニールの車のマスタングを破壊するような真似をしたから、確かにスティーヴンも悪かったと指摘する。それに気を悪くしたスティーヴンはロジャーを罵倒するが、ロジャーも激怒して絶交を言い渡してしまった。スティーヴンはどんどん孤独になっていく。

テレビではハンスが真実を語っていた。ハンスは確かに妻のニーナを殺していた。ハンスのことは愛しておらず、別の男と逃げようとしたために逆上して首を締めて殺してしまっていたのだった。
ラナと直接会って話すスティーヴンだが、ラナは相変わらずスティーヴンに辛辣だった。ラナはある書類を渡す。 そこにあった事実は「スティーヴンは薬物依存で自殺願望があったため自傷を防ぐために保護されていて、ニールはそれを悲嘆していた」というものだった。スティーヴンは自分が記憶を都合よく改ざんしていたことを知った。

家に戻るとニールが勝手に上がり込んでスティーヴンが幼い頃のホームビデオを見ていた。冒頭でも流れたものだ。
ニールは自分が病気でもうすぐ死ぬからその前にスティーヴンと和解したいと言い出した。相変わらず虐待した父親として話す。だがニールはお前自身が自分の人生をメチャクチャにしているんだと指摘する。そしてビデオを残していこうとする。しかしニールは体調を崩して倒れてしまう。仮病だと思っていたスティーヴンは驚いて救急車を呼ぶ。
救急車の中でるニールの手をスティーヴンは握るとニールも握り返した。ニールはとりあえず一命はとりとめた。。

自宅に戻ったスティーヴンはニールが残していったビデオを見始める。それはニールがカメラに向かって話しているもので、スティーヴンへのメッセージだった。
ニールに 髪の毛を剃られ」「拘束された」というのはスティーヴンは同時に起こったものだと思い込んでいたが、実は別々の話だった。髪の毛を剃った話は「ニールが売るはずだった空き家をスティーヴンが荒らしていた」ためにスティーヴンを殴って髪を剃ったのだという。それをニールは酷いことをしたと反省していた。
そして「拘束した」という話はスティーヴンが路上生活者だった時に家に連れていったら自殺しようとしたので手錠でパイプに繋いだ。しかしその後血だまりがあって死んだかと思ったのという。ニールは手錠を外して「好きに生きろ」と突き放した。これをニールはスティーヴンに謝りたかったのだった。ニールは確かにやりすぎなこともあったがずっとスティーヴンを大切に思っていたのは確かだったと言った。そこでメッセージは終わった。

スティーヴンはハンスに面会をしに行った。ハンスは「親として子供のためにしたことだ」と言う。そして「注目されればそれでよかった」ともいう。
スティーヴンは幼い頃の写真やハンスの事件に関する資料をを壁に並べて眺めていた。スランプに陥って描けなくなっていたが、ようやく書きき始める。「どうして他人の記憶を疑うのに自分の記憶は信じ込むのか。自分と父親はどちらかが犠牲者でどちらかが悪人だと思い込んできた。そんな風に思いたくないのに。他人から見た自分を振り返ったこともなかった。こうしてすべてが崩れてよかったのかもしれない。今度は別の人間に、もっといい人間に生れ変わりたいから」という文章だった。
ジェンにたった2日で書き上げた原稿を持って行き、感心された。ジェンもスティーヴンを見直して再び共にやっていこうと言ってくれた。

次にスティーヴンはロジャーに会う。水やりをしていたロジャーはからかってスティーヴンに水をかけた。スティーヴンはロジャーに俺が悪かったと謝罪をした。ロジャーも「お前は俺がどうしようもない奴だった時代でも見捨てなかった」と言って仲直りした。

そして退院したニールにも会いに行った。ニールはフロリダへ戻ろうとしていた。スティーヴンは昔ニールを乗せてマスタングを運転したことを話した。スティーヴンはニールをドライブに誘った。
一方、ハンスが教えたことでニーナの遺体は警察に発見されていた。
ラストシーンはスティーヴンとニールの親子が黙ってドライブを楽しんでいる姿。

感想・評価

「絶対にこうだよ!絶対!絶対間違ってないって!」っていうくらいに確信的な記憶なのに間違っていた、ということはいくつも経験がある。自分で行ったことなのに全く覚えておらず、むしろ友人が覚えていた、ということも経験がある。「何それ全然覚えてないんだけど本当に俺そんなことやった?」というね。だからこそこの作品はフィクションがかっているというわけではなく、確かに現実にあることだろう。それにしても自分が薬中で自殺願望もあったということさえ忘れていたというスティーヴンは極端だ。

しかし父親ニールも母親を放って別に女を作っていて、スティーヴンの顔を水に漬けるという拷問のような真似をしたのも事実で、これが記憶の捏造の補助をしたと考えれば、またこれもあり得ることなのかもしれない。「人間は見たいものだけを見ようとする」という言葉もあるが、それもまた同じようなことを言っているのだろう。全世界のどんな人間であろうとも、口では何を言おうとも、一切の例外なく自分にだけは甘いのだ。こと、未熟で自分勝手で万能感の錯覚に惑わされている10代ならば尚更だ。しかしスティーヴンは最後には自分の非を認め、大切な人たちとの絆を取り戻す。面白い切り口から描いた再生の物語としてなかなか独特だ。

完全にスティーヴンだけが悪かったのかというとそうではなく、白黒はっきりつく物語というわけではない。物語自体にカタルシスがあるわけではないが、「自分を客観的に見ること」の重要性を思い出させてくれる映画だ。

人物解説

スティーヴン・エリオット

主人公で作家。自分が親に虐待されていたという過去を書いた内容で大ヒットを飛ばす。本の中で父親は死んだと書いていたがそれが嘘だったために方々からバッシングされて窮地に。しかしそれがきっかけで過去の記憶と改めて向かい合い、自分が都合よく改変していたことに気付き、最後には父親とも和解した。

二ール・エリオット

スティーヴンの父親。スティーヴンが自著を読みあげる朗読会の最中で突然騒ぎ出しスティーヴンの本の嘘を暴く。息子とは7年会っていなかった。浮気して別の家族を作った(ような気がするのだがこれもスティーヴンの捏造?どっちかよくわからなかった)。スティーヴンはこのニールから虐待されたという記憶を持っていて、確かに過剰な暴力を振るっていたのは確かだったが、それはニールの素行の悪さや自殺願望が原因だった。スティーヴンを大切に思っていたのも事実だったという。朗読会であんなことをしたのは自分が死んだなどと嘘を書いていたことに耐えられなかったかららしい。このニールも言動はやや汚いのでちょっと紛らわしい。

ラナ・エドモンド

タイムズ社の記者。養父に虐待されていたという点でスティーヴンと同じだったのでシンパシーを感じて惹かれ合う。作中でスティーヴンとラナのベッドシーンがやたらと描写される。スティーヴンとは違い養父からの虐待は真実であり相当に憎しみを持っているようで、首絞めプレイ中に「父親だと思って締めろ」とスティーヴンが指示すると殺す勢いで締めてしまい、スティーブンは機を失った。このことでドン引きしてスティーヴンから距離を離すようにする。

ロジャー

スティーヴンの親友。昔はスティーヴンと共に悪さをしていたが、現在は数人の子供を持つ良き父親。不良が子供出来ると真っ当になる典型的パターンか。スティーヴンから祖母のペンダントを盗まれたが、スティーヴンはそれを「ロジャーが自分にくれた」と都合よく改変していたため、怒る。さらにスティーヴンがニールの車を破壊したことについて「あれはお前も悪かった」と指摘。これによりスティーヴンと大ゲンカに。しかし自分の非を認めたスティーヴンは直接ロジャーに謝罪し、仲は修復した。

ハンス

自分の妻殺しの容疑者。有名なプログラマーなのでニュースでは連日これを伝えていた。実は浮気をして男と出ていこうとしたニーナのことは首を締めて殺していたのだが、ニーナはコーリに虐待じみたこともしていたらしい。このハンス絡みの話がちょっとわかりにくいとも思った。つまり「息子に虐待をする上に違う男と出ていこうとまでしたので激昂して殺した」ということなのだろうが、それでも「自分は子供のためにやった」とか、あと「目立ちたかった」とか言っているのが意味不明だった。

ジェン

スティーヴンの担当の編集者。スティーヴンの著書の中ではニールが死んでいたと書いていたのでそれを信じていたが、朗読会でそれが嘘だと知ったので愕然とする。そのせいで各地からの非難を受けることになったのでスティーヴンに愛想を尽かすが、スティーヴンが全非を悔いて原稿を書き上げたことに感心して見直し、共に頑張っていこうとスティーヴンに言う。

コーリ

ハンスの息子。息子なのにハンスを「ハンス」と呼ぶ。

項目別評価

映画「サスペクト・ダイアリー」評価

ろくでなしの男が自分が都合よく記憶を改変したことに気付いて改心する話。誰でも多かれ少なかれ記憶の改変というのはあるものなので共感もできる。特に父親との和解はグッとくる。ただ若干腑に落ちない部分もある。

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