ターミナル(映画) 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日:2015年10月26日

ストーリー・ネタバレ

二か月以上更新が停滞したが、ぼちぼちまた書いていこう。
再開一発目はトム・ハンクス主演の2004年映画。レンタル開始直後に見たいとも思っていた作品だったが、記憶に埋もれていつしか忘れていた作品、huluでランキング上位に入っていたのを機会に、ようやく視聴と相成った。そういやここ5年くらいトム・ハンクスって映画で見てないどころか話題すら聞かないがどうしたんだろうか。

ストーリーとネタバレ解説。
ビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)はアメリカのケネディ国際空港(JFK空港)へと到着した。彼はニューヨークに用事があるのだが、空港の入国手続きゲートで止められてしまう。
彼の祖国のクラコウジア(この映画で作られた架空の国)でクーデターが発生し、クラコウジア政府が消滅したためビクターのビザが無効になってしまい、アメリカに入ることも、祖国に戻ることもできなくなってしまう。英語が分からないベクターは事情を空港の職員から説明されていても笑っていたが、テレビを見て事情を理解すると深刻さを理解することとなる。
空港の国境警備局主任であるフランク・ディクソン(スタンリー・トゥッチ)はベクターに対して事情を説明したのだが、空港の警備は特に厳しいわけでもないため、てっきりベクターは不法に国に入国して姿を消すものだと思っていた。あまつさえ、わざとベクターに対して「正午には警備が薄くなる」などと説明して、自らの意思でベクターを空港から出ていかせようとするのだった。
だが、まじめなベクターは律儀に空港から決して不法に出ることはなく、空港で生活を始めてしまった。それは本来、まったくもって正当で正しいことなのだが、ディクソンは自分の管轄である空港内にとどまるベクターを厄介者とみなす。ベクターは67番ゲートを寝床として生活を始めてしまう。また、彼は常に大事に何かが入っている「缶」を持っていた。

空港内にある空のカートを定位置に戻すことでお金が戻ってくることを学んだベクターはそれで日銭を稼ぎ始めたが、ディクソンがその役割(空カートを整理する役割)をわざわざ作って彼から稼ぐ手段を奪ってしまう。
ベクターはJFK空港の入国係官であるドロレスと毎日顔を合わせて、書類に「不認可」が押されることを日課としていたが、エンリケ(ディエゴ・ルナ)はドロレスに思いを寄せており、またエンリケは空港で提供される食事を作る係であったため、ベクターに「食事をタダでやるからドロレスについて色々教えろ」と言う。こうしてベクターはエンリケと親しくなる。
また、ベクターはアメリア・ウォーレン(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)という女性とも知り合う。彼女はキャビンアテンダントだが、男癖が悪かった。彼女が付き合っている彼と破局しかけているのを機に、ベクターは彼女と徐々に親しくなっていく。

アメリアを射止めたいと考えたベクターは、彼女のために服装などを整えるため、空港内の施設に自分を雇ってくれるように頼むが、どこも受け入れてはくれない。しかし夜中に勝手に壁の塗装や工事をやってしまうと、その腕を見込まれて建設業者にそのまま雇われてしまう。
さらに、エンリケ経由で空港の掃除係のグプタ(クマール・パラーナ)や貨物担当のジョー(シャイ・マクブライド)とも親しくなる。エンリケがビクターが大事に持っている缶について聞くと、「ジャズだ」と答えるが、正確に何なのかはまだわからない。
また、ビクターはグプタと会話し、グプタがインド人で、インドで警官を刺すという傷害事件を起こしたがゆえにインドには戻れないという、脛に傷を持つ人物であることを知った。

資金もたまったビクターは、エンリケ、グプタ、ジョーの助力を得て、アメリアがJFK空港に戻ってきたときを見計らってデートに誘い、承諾してもらえる。ナポレオンが好きなアメリアと親交を深めていく。そして再度会った際には、ナポレオンがナポレオンの恋人であるジョゼフィーヌに噴水を送ったことに倣い、水飲み場を改造して噴水にしたものを見せる。このときようやく、アメリアはビクターが空港に住み着いていることを知った。
アメリアが「なぜニューヨークに行きたいのか」とビクターに問うと、ようやく真相がわかる。缶の中身は、ジャズミュージシャンのサインが詰められていた。ビクターの父親のディミタル・ナボルスキーは40年前、ジャズの名手ばかりがそろっている、実在する有名な写真である「A Great Day in Harlem」を見て、そこに写っている全員に手紙を送った。すると、一人をのぞいて全員がサインを書いてディミタルに返事をくれた。しかし、ただ一人ベニー・ゴルソンだけはサインをくれないまま40年が経過し、ディミタルは死去してしまった。そこで息子であるビクターは、父に「必ずベニー・ゴルソンのサインも手に入れ、この缶に入れる」と誓ったのだった。そのため、ニューヨークにいるベニー・ゴルソンに会いに来たというのが、ビクターがニューヨークに行きたがっている真相だった。この真相をアメリアに話した後、ビクターは彼女とキスを交わした。

その後、ビクターに朗報が届く。彼の祖国のクーデターが終結し、ついに彼は空港から動くことが可能になったのだ。そして、アメリアはツテで入手した、一日だけニューヨークに入れるビザをビクターに渡した。ビクターは彼女に「一緒に行こう」と言うが、アメリアは彼とよりを戻しており、ビクターを振ってしまう。
それでも彼女からもらったビザを使ってニューヨークに入り、目的のために動こうとするビクターだったが、障害が。一日だけのビザは通常のものと違い、ある人物の許可をもらう必要があるのだ。その人物とは、ビクターを煙たがっているディクソンだった。
彼に交渉するビクターだったが、ディクソンはもはやビクターを目の敵にしており、「ニューヨークに入るなどというならば、素行の悪いエンリケ、グプタ、ジョーを解雇する」と脅す。そう言われてはビクターも折れるしかなかった。

てっきりニューヨークに入るつもりだとエンリケたち友人は思っていたが、それを果たさずに祖国に帰ろうとするビクターに対して、グプタなどは「臆病者」などと、自分らのためにビクターがそう選択したとも知らずに罵る。しかしそれを見かねたディクソンの部下であるウェイリン(コニー・レイノルズ)はグプタに事情を説明すると、グプタは滑走路に入り込んで飛行機の着陸を妨害した。自分が脅しに使われていることを知り、あえて自ら解雇を選んだということだ。
身軽になったビクターはついに空港から出ようとするが、警備が立ちはだかる。ディクソンの側近であるレイ・サーマン(バリー・シャバカ・ヘンリー)がビクターを捕らえるのかと思いきや、彼もまたビクターの味方になってくれ、妨害するどころか上着をビクターに着せて送り出したのだった。

ついに空港を出て、つまりニューヨークへと出たビクター。ここでアメリアと会うも、二人は言葉を交わすこともなく、ただ目で会話をして最後の別れ。ビクターが乗ったタクシーを見送ることになってしまったディクソンは部下に対して「持ち場に戻れ」と言い、結局は見逃すことになる。
タクシーで目的地へと向かう。彼が会いたいベニー・ゴルソンはあるホテルのラウンジで毎晩ジャズを演奏しているのだ。ついに彼に会い、演奏を聞いた後にサインをもらったビクター。
ホテルから出るとまたタクシーに乗り、運転手に「どちらまで?」と聞かれると満足げな表情で「家に帰るんだ」と言い、終幕。

感想・評価

さて感想。いわゆるヒューマンドラマ、真面目に法を遵守し、言葉も通じない異国の空港において徐々に信頼を積み上げていく感動大作!なんてのが売り文句になるであろう作品だが…。
正直、ストーリーに穴が多すぎる。ストーリーをまとめて上のように書いてて頭を整理すればするほど、突っ込みどころが出てくる作品だった。
たかだか一年未満の空港滞在にしては英語ペラペラになりすぎてて、これなら英語喋れない設定はいらなかっただろ、とか、エンリケと仲良くなる過程が無理矢理すぎることや、ラスト近く、ディクソンに脅しの材料として使われるのはグプタだけじゃないのにグプタの件だけ身軽になってどうすんだ?とか、壁の工事を無断でやって腕が良いからって即雇われるわけないだろとか、ロシア人の旅行者のトラブルのシーンでは、ロシア語なんてメジャーな言語の通訳をベクターに頼らざるをえないほどにJFK空港って人材不足なの?とか。

まあそれらは大筋には関係ないし致命的というほどのものでもない。大きな問題はほかにある。
何より引っかかったのはディクソンという悪役についてだ。ていうかそもそも、この作品にこんなわかりやすい、露悪的な悪役は必要だったか?という話。
ビクターはあくまで誰も悪くない事情で空港から出れなくなったのだし、まして法をちゃんと守っているという設定であるのに誰かに憎まれるということ自体が理不尽すぎていらんだろう。それに、このディクソンも序盤、結構いい奴かも?と思わせる部分があったりするのに、結局ただの悪役に収まっているのがいけない。
具体的には、「邪魔ならすぐ逮捕しては?」と部下に提言されるシーンで「いや、嘘の理由で捕らえたくはない男だ」と答えるシーンではなかなかに器量のあるところをうかがわせる。これはつまり、簡単に出ようと思えば出れるのに、律儀にも法を守るビクターに敬意を払っているわけだ。これを見て視聴者としては「お?このディクソンって人も悪役側ではあっても、ただの悪人ってわけではなさそうだな」と思うはずなんだよ、ここで。なのに、この後のディクソンの行動というとビクターを目の敵にして「お前を決して空港の外には出さない」などと宣戦布告じみたことをするし、ラストでビクターがついには外に出るシーンでは「逮捕しろ!」とただ息巻くだけの小物、悪役でしかない。
どう考えても、このキャラクターには完全な敵役であるよりも、粋なところを見せるというか、ビクターに対して寛大な裁量を行う方が物語としては綺麗に収まるし、見ている方も気持ちいいはず。それなのにただの薄っぺらい悪役にしてしまっているのだ。一体どういう判断での脚本だこれは?この部分がこの作品で最も大きい欠陥になっている。この作品、実話を元にしているらしいが、モデルとなった人間は実際のところ疎まれていたらしいので、それを反映して一人はビクターを完全に嫌うキャラクターを据えたということなのだろうか?いずれにしても、中途半端な立ち位置のディクソンというキャラクターの動かし方が映画としてベストとは思えない。

それとどうにも全体的に違和感を感じていたのだが、結局なんでビクターが不法には出ていこうとしないのか、そこに明確な説明がないからだと気づいた。ここ重要なところだろうに。wikipediaのストーリー解説によれば、「真面目なビクターはなに空港内で待つことを選び」なんて書いてあるのだが、別に作中で彼が真面目などとは誰も言及していない。ここは、あくまでも不法に空港を出ようとはいない理由を物語中にビクターの意思として明確に発言させなきゃいけないところだと思う。
少なくとも作中においてはビクターがそれほど真面目な人間には見えないのがその違和感を加速させている。真面目どころか、カート整理でこざかしくも小銭を稼ごうとしたり、椅子を強引に移動させて寝床を作ったり、傷心のアメリアを口説こうとしたり、豪快に水飲み場を改装して空港内に勝手に噴水を作ったりと、「お前はミスタービーンか何かかよ」と言いたくなるような自由人っぷりの方が目につくもんで、「なんでこんなおちゃらけた奴が律儀に空港にとどまっているんだろう?」と考えてしまう方が自然なんじゃないだろうか。ましてニューヨークでの用事なんて、数時間あれば終わるものだったのだし…。重ねて、ここはビクターの言葉で明確にさせるべきところだ。
アメリカの不法入国事情なんて日本人の自分は知るべくもないが、少なくともディクソンやその部下の態度からして、(また冒頭でも不法入国する中国人のシーンが入っているのもあって)、珍しいものではないということがあからさまに演出されている。なのにこのビクターという男は数ヵ月にもわたりあくまで法を遵守しようとしている。それはなぜ?物語の根幹部分であるのに最後まで推測はできても明言はされないのである。真面目で誠実な人間であるから、というのなら、もう少しそういう部分を見せるべきなのだ。最後は結局、ディクソンの許可を得ずに出てしまっているのだから不法に出ちゃってるし…。台無しである。

それと、ビクターのニューヨーク訪問の理由も、終盤まで伏せていた割には大した理由でもない。作品中での扱いとしては半ばマクガフィンだろうが、しかし視聴者としては割とどうでもいいこのサイン集めが完了したところで物語が終わるもんだからちょっと尻すぼみ気味にもなっている。
これに関してはジャズに興味があって、「A Great Day in Harlem」という1958年に撮影された有名(らしい)な写真についても見識がないとわからんよなあ。自分は視聴後に調べてようやく「ああそういう写真なんだな」と知った程度。もちろん、見ている間は「何なのその写真?」って感じである。ジャズに興味ある人間にしかピンとこないものが主役の動機だった、というのはちょっとどうかと。

まとめると、素材はいいのに重要な部分がすっぽり欠けている。強引に感動できないこともないが、一度細部が気になり始めてしまうともう感動よりは違和感を感じることの方が多くなる、そんな作品だ。

項目別評価

話としては独特で面白いし、キャラクター設定もそう悪くないのに、「もうちょっと良いものにできたろうに」感が大きい、もったいない作品という印象。やはり自分としては局長のキャラクター設定が最もマイナス点。彼を単純な悪役にしてしまっているため、どうも引っかかって気持ちよく見れなかった。

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