冷たい熱帯魚 評価 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ映画>冷たい熱帯魚

執筆日:2017年11月16日

あらすじ・ネタバレ

社本信行は熱帯魚店を経営している気弱な男。妙子という妻、美津子という娘もいるが、妙子は再婚しての妻であり、前妻の子である美津子は信行のことも妙子のことも軽蔑している。そんな状態な上に妙子は食事はレトルトばかりを利用するような女であるため、家庭内の雰囲気は最悪だった。

また美津子はそんな家庭には距離を置いて不良仲間と遊んでおり、非行にも走っていた。ある時スーパーで美津子が万引きを行い、社本夫妻はスーパーの店長に呼ばれてしまう。
そこで現れたのが村田幸雄という人物だった。彼はスーパーの店長を説得して社本一家を救うと、自分の家へ社本一家を案内する。村田も社本同様に熱帯魚店を経営していたが、その規模は大きかった。また村田自身も非常に口が上手く人を惹きつけるのが上手い男であり、フェラーリを乗り回し、自分よりずっと若い妻も持っていた。

村田と関わりができた社本一家。信行は村田とビジネスパートナーになり、また美津子は村田の店でバイトとして雇われることになった。
ある時、村田、信行、そして吉田アキオという男の3人で高級熱帯魚を使ったビジネスをやる話を村田が持ちかけてきた。あまりに高額な魚の話を聞いて懐疑的な吉田。村田から出された飲み物を飲んでから吉田の様子がおかしくなり、間もなく死亡してしまう。ここで信行はようやく村田幸雄の正体を知る。彼は邪魔になるような人物、自分の意のままにならない人物のことは容赦なく殺害して消すような連続殺人犯だったのだ。妻の愛子もこれに加担していた。

村田は死体をバラバラにして遺棄することを「透明にする」と言った。夫妻は鼻歌さえ歌いながらも吉田の遺体を解体し、山奥の川に捨てて魚のエサにしていたのだった。意思の弱い信行はそのままずるずると共犯者として村田の犯罪に加担することになっていったのだった。しかし村田周辺の人間が不審な失踪を遂げることで警察は前々から村田をマークしており、信行もマークされることになった。「もしかして共犯なのか?」とまで聞かれたが信行は何も答えなかった。

村田の殺人は自分の顧問弁護士をしていた筒井高康、その部下のにも及んだ。例によって解体してから川に捨てにいった村田夫妻と信行。遺体を信行に捨てさせた幸雄は、情けない男である信行に対して執拗に言葉で攻め続ける。「娘がグレるのもお前が情けないからだ」「お前は自分の力で解決したことなんかあるのか」「俺はお前と違って自分でなんでも解決してきた」などなど、数分に渡って攻め続ける。それを聞いてついに逆上した信行は幸雄と殴り合いになるが、幸雄はようやく覇気が出てきたとばかりにむしろ喜ぶのだった。そして景気づけにその場で信行と愛子に性交させようとした。

幸雄が信行と愛子を性交させて面白がっていた最中、信行は隙をついてまず愛子に、続いて幸雄に対してペンを何度も突き刺した。そしてそのまま幸雄に対して攻撃を続けてついには殺害してしまった。首にペンを刺されて重傷を負った愛子だが、この様子を見てもなぜか高笑いをして止めようともしなかった。

幸雄を殺害した後の信行はまるで幸雄が乗り移ったかのように別人になった。愛子はそんな信行に圧倒されたのか忠実なしもべとなった。彼はまず愛子に村田の解体を命じた。
そしてまず娘がバイトしている村田の熱帯魚店に行くと、嫌がる美津子を殴って気絶させて強引に連れ帰った。そして信行は家にいた妻の妙子に食事の用意をするように怒鳴りつける。さらには無理矢理押し倒して暴行する。その途中で目を覚まして「お前ら何やってんだよ」と言った美津子を再び殴って気絶させるなどやりたい放題。

そして信行はいつも村田夫妻が遺体の解体をしていた小屋へと行く。その前に警察にも連絡した。そこには血だらけで夫の幸雄を解体している愛子が。隙を見て愛子の頭を殴りつける信行。それでも愛子は死ななかったが、包丁で腹部を刺されてついには死ぬ。
そこにやってきたのは警察、それに妙子と美津子だった。血だらけになっている信行に駆け寄り抱き着こうとした妙子だったが、そんな彼女をも信行は刺し殺してしまう。

そして信行は美津子に対して包丁を突きつけ「生きたいのか?」と聞く。そして「人生ってのは痛いんだよ!」と言ってから自分の首に包丁を突きつけ自殺する。
地面に倒れた信行に対して奈津子が「やっと死にやがった!起きてみろよじじい!」などと嬉しそうに笑いながら蹴りを入れる。すでに絶命している信行の目はただ映ろに空いているだけだが、信行が星を見ることが好きだったことを象徴してか、ラストシーンでは宇宙から見た綺麗な地球が映されて終わる。

感想・評価

「えぐい描写がある作品を」と探していたら当たった作品。名前を知った後謙作したら邦画だという。規制がうるさそうな邦画界でも(実際のところ知らないが)そんな尖った作品があるんだなと半ば感心しながら視聴した。ただ、「18禁的な描写がある」ということだけを知って視聴したのであり、具体的にどのような内容なのかは知らず、また、実際にあった事件の「埼玉愛犬家連続殺人事件」を元にしているということも知らずに見た。

何といっても、村田の存在、ですよねこの映画は。
最初に登場した時はやたらと気のいいおっさんにしか見えず、「冴えない主人公が嫉妬してこのおっさんを殺すんだろうか?」なんて、てんで的外れな予想を立てたりもした。
しかし社本の妻の妙子に対してサディスティックな行いをして以降はどんどん本性を現し始め、ついに自分の意のままにならない吉田を殺してしまう。そして問題の解体シーンだ。

怖ろしいことだが、人体の解体を行う事件というのは事実いくつもあるわけで、直近では神奈川で9人の被害者を出した例の事件も。どれも共通しているのは「風呂場で行う」ということだ。この映画はそのシーンに非常に力を入れている。もちろん、なんて書くのもバカバカしいが作中に使われている人体はフェイクだろうが、よくできている。そしてそれを真っ赤になりながら、鼻歌を歌いながら解体する村田幸雄と村田愛子はまるで人の皮をかぶった化け物にしか見えない。この作品、徹底して「音」の演出はあえて行わないようになっていて、この解体シーンでも「ジャーン!」とか「ドーン!」とかいったような音は使わない。社本が解体現場の風呂場の扉を開けるシーンなどでもあくまで淡々と演出は映像のみによって行われている。楽し気に人体を解体する村田夫妻には本当に心からゾッとした。これが恐らく実際にあった光景とほとんど変わらないものだと想像するとさらにその悪寒は強まる。

作品の方向性が明確に変わるのは社本が村田を殺害してからだ。愛子に幸雄の解体を明示、半ば自棄になりながら妻と娘に暴力を行い、流れで愛子を殺し、なぜか妙子をも殺してしまい、さらに首を掻っ切って自殺し、最後には娘に「ようやく死にやがった!」などと言われながら足蹴にされる…。
正直、この流れはあんまり評価できない。特に、ラストがあまりに悲しすぎる。

社本が村田を殺すシーンでは、それを見ながら狂気の笑いを上げる愛子を見下ろすような形で映すシーンがあるのだが、ここが一番良いタイミングだろう。終わるタイミングだろう。それまでは冴えない男が流れ流され村田に逆らうしかないという、ある意味リアルな流れだったのに、社本が漫画みたいな「覚醒」を見せてしまってはそれまでの雰囲気とはちょっと違い過ぎる。ちょっと極端に走りすぎと感じたのだ。さらに自殺して何らかを娘に教えたかったのだろうが、ざまあみろと言われながら蹴られるなんてちょっと悲しすぎる。

なんで最後にこういう展開にしたのか考えてみたのだが、ラストシーンで宇宙から見た地球が映されている。そして村田が社本に対して「お前は地球が綺麗に見えてるんだろうな、でも俺にとってはただの岩だ」みたいな発言がある。これはつまり、自分が死んだのを見てせめて非行少女である娘の心に何か変化があってほしいと、甘い考えを持っていた社本を痛烈に皮肉っているのかな、と。そんなことをしても娘は変わるどころか自分が死んだことを純粋に喜ぶだけだった。これは村田が言う「ただの岩」のような現実なのかなと。そういう解釈をした。確かに現実はそういうものかもしれないが、このラストシーンは個人的には殺害シーンとか解体シーンとかよりもよほど精神的に堪えたのだった。

人物解説

社本信行

演:吹越満
熱帯魚店の店主。冴えない弱気な男。社本とは正反対の村田幸雄と出会ってから運命が狂う。村田夫妻の犯罪の共犯者となるが、最後には村田に挑発されたことで激昂し村田を殺害。その後は村田の妻の愛子も殺し、自分を心配して駆けよってきた妻の妙子も殺し、最後には娘の前で自殺。その後はその娘にざまあみろと言われながら足蹴にされる。

村田幸雄

演:でんでん
社本と同じく熱帯魚店を経営しているが社本のそれより規模は大きい。きわめて陽気で口の上手い男で人を惹きつけるカリスマがある。が、実は邪魔な人間を殺して解体して(このことを透明にすると村田は言う)遺棄するという犯罪を過去にいくつも行っていた。社本を共犯に引き込んでからは手ごまとしていいように扱う。筒井高康の死体遺棄現場において社本を長々と馬鹿にし焚きつける発言をしたことがきっかけで激昂した社本に殺される。その後は妻の愛子に解体されていたが、そのさなかで愛子も殺されたので解体作業は半ばのままだった。
擁護できる点はない凶悪な人物ではあるが人生を楽しもうという一点において純粋で明け透けであり、それがゆえに人を惹きつけるところがあるというのは理解はできる。まさに社本と対照的な人物。遺体遺棄現場で信行と幸雄が殴り合う最中、信行が泣いて幸雄に抱き着くシーンではまるで親子のようでもある。

村田愛子

演:黒沢あすか
村田の妻で派手な格好をした女。村田同様に人を殺すことも解体することも全く厭わない。まさに人の皮を被った悪魔のよう。幸雄のような暴力的な男にい惹かれる性質のようで、幸雄が社本に殺されてからはその社本の命令で長年付き添ったであろう幸雄の解体も行っている。村田が殺されるシーンでもなぜか高笑いをしてそれを止める様子もない。さらに自分をも殺そうとした社本に対してすら抱き着いてキスしようとしたり…。幸雄以上におかしい、何を考えているかわからない、もはや狂人としか言いようがない人物。社本に腹部を刺されてからは死ぬことを悟って解体中の幸雄のそばに寄り添って力尽きる。もう本当に何もかもおかしい。

社本妙子

演:神楽坂恵
社本の妻。しかし再婚しての妻なので、前妻の子である美津子とは確執がありまともな交流はないようだ。最後は純粋に夫を思って駆け寄ってきたのだろうが、無惨にも殺されてしまう。

社本美津子

演:梶原ひかり
社本夫妻の子。しかし信之の前妻との子。妻が死んですぐに若い女と再婚した父親のことも、その若い母親のことも嫌っている。父親が目の前で首を掻っ切って死んだというのにそれを罵倒しながら蹴り飛ばすというシーンは胸糞。

項目別評価

特筆すべきはでんでん演じる村田幸雄。楽しい遊びでもするかのように風呂場で解体をする様はもはや人の姿をした化け物に思えてくる。本当にただのそこらのおっさんにしか見えない容姿であるのでギャップがあり、それをよりz増幅させている。話は最後があまりにも救いがなく、もうちょい違う形にしても…と感じた。どうであれ、一見の価値はある作品。ただし視聴後は恐らく気持ちが暗くなるので余裕ある人だけ見よう。

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