ダンガンロンパ霧切3巻 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ>ダンガンロンパ霧切3巻

執筆日:2014年11月29日

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待ちに待ったダンガンロンパ霧切3巻。その感想。

もうすでに3つの事件を真っ当に解決してきた五月雨と霧切の学生探偵コンビ。
そろそろただ事件を解決するだけの展開にはならないだろうと思っていたものの、予想よりも随分斜め上を行かれて、物凄く面白い。時間を忘れて読みふけった。
というかこのシリーズ、そもそも何巻まで続くのだろうか?おそらくは少なくとも5巻くらいは出そうではある。今回から、推理小説としての側面よりもよりキャラクターにスポットを当てた展開へと移行、「ダンガンロンパ」ファンが読んで面白いものになってきていると思う。今回も復讐者を救済する「黒の挑戦」による殺人計画を解き明かすという展開もあるが、推理小説としてではなくダンガンロンパの小説として読んでいる自分としては俄然面白くなってきたという感じ。4巻が待ち遠しい。

今回、五月雨自身が黒の挑戦の探偵役として選ばれた。しかしそれは、探偵の頂点に立つ人間でありながら、2巻では犯罪被害者救済委員会の一員であるとわかったトリプルゼロクラスの探偵、龍造寺月下からの挑戦としてのものだ。しかもなんとその件数は1件ずつであった今までのものと違い同時に12件も。これが今回最も驚かされたところである。流石に12とか多すぎるよ。黒の挑戦のルールは、黒い封筒を開けた時点から168時間以内に事件を解決することであり、1件につき168時間ではない。つまり12件を168時間以内に解決しなければならないのだ。
事件を解決できなくとも五月雨にはペナルティはない。しかし犯罪被害者救済委員会の幹部である龍造寺は、「12件すべてを解決できれば自分は犯罪被害者救済委員会から降りる」ということだ。全世界の探偵の中のトップに君臨する人間が犯罪者を救済するという組織に属していることに反感を持つ五月雨は当然のように、受けて立ち、委員会の弱体化を狙う、というのが今回の展開だ。実際のところ、一人が降りたところでどうなるかとかそういうところに疑問は持ったが、まあ探偵が絶大な力を持つこの世界観ではそういうことになるらしい。

色々語りたいところはあるが、まず今回注目されるのはやはり、3人いるトリプルゼロクラスのうちの一人である「御鏡霊」だろう。龍造寺月下の秘書のような立場にいる無垢な美少年、しかしその正体は善悪の概念にとらわれない超天才探偵という、いかにもフィクション、テンプレのような存在ではあるが、こういうキャラが登場するのがダンガンロンパシリーズなので、違和感はなく受け入れられた。そして冗談めかしながらも五月雨にキスを強要する御鏡に嫉妬する霧切。3巻まで進んだ現状、ロリ霧さんはもう五月雨にぞっこん状態と言ってもいい。ダンガンロンパ霧切は推理ありショタあり百合ありと美味しい作品だな!

12件もの件数をどうするのかと思ったら、五月雨&霧切のコンビと御鏡とで6件ずつ分けて解決するという無茶な展開に相成る。今回、6件のうち1件、武田幽霊屋敷という場所で計画された殺人を阻止するために五月雨と霧切は動くのだが、今回、大体これの解決には285Pあるうちの半分程度を使って解決してしまう。今までで最もあっさりと解決される。
そして2人が1件解決してしまううち、なんと御鏡は5件を解決してしまうという離れ業を見せる。具体的には、犯罪を起こす前に犯人をふんじばってしまうという、実も蓋も無い解決方法を彼はとったわけだが。まあ、12件すべてが描写されるとは思ってなかったにせよ、殺人計画をした復讐者たちはこれでも計画失敗とみなされ、自らの命をもって代償を支払うことになるのだろうから…。自業自得とはいえ、流石にあんまりだとも思う。

そして結末では衝撃の事実が明らかに。
今回、冒頭では五月雨に龍造寺が接触してきてしばらく五月雨と霧切は離れているのだが、龍造寺とのやり取り後、寮に帰ったところで霧切が部屋の前で待っていた。それからしばらく五月雨は霧切の様子がどこかおかしいと察するのだが、その理由は。

終盤、五月雨は霧切の家に忍び込むのだが、そこで見つけたのはなんと、霧切の祖父である霧切不比等の腐乱した遺体だ。霧切が何かにおびえていたのはこれを発見したからだった。
五月雨が霧切の家の家政婦らしき女性に襲われそうになったところを、霧切の父、霧切仁に救われる。そして五月雨は寮に戻り、霧切に降りかかる過酷な運命に涙しながら、霧切を守ることを決意する…という引きだ。
色々言いたいことはあるが、キャラクター別にまとめた方が感想を書きやすいのでそうしようと思う。

まず五月雨結お姉さまだ。
もはや3巻にもなってくるとすっかり彼女にも愛着が沸いてくる。そして、奇天烈な余人ならざる人物ばかりが出るもんだから、むしろどこまでも普通なことが彼女の個性にも思えてくる。ダンガンロンパ1作目の苗木誠もそうだけど、おかしな人間ばかりがいる中だと普通の人間が相対的におかしく思えてくる現象ってあるな。「狼の群れに羊がいたとしたらそれは凄い羊じゃないか」みたいなことを昔何かで読んだ。普通であることが彼女の個性。ミス普通。霧切にもすっかり信頼され、奔放な御鏡に大してもお姉さん属性を全開な彼女は主人公であり作品の癒しだ。
そんな彼女だが、前巻にも増してその危うさは増していってしまう。冒頭の龍造寺との会話では「君もこちら側の人間だ」と評され、探しても見つからない霧切を殺された妹と重ねて見ている描写が今回も。そして3巻は「霧切を傷つけるものは誰であっても決して赦さない」と病み気味に心象を語るシーンで終了となる。
一気に、ではないもののますます死亡フラグ、あるいは闇墜ちフラグが積み重なってしまったお姉さまである。龍造寺との会話では、探偵として黒の挑戦を受けるか、あるいは犯罪者救済委員会の一員に入るか、という選択を迫られ、彼女はとまどいながらも黒の挑戦を受けることを選ぶ。しかしこのシーンは委員会側に五月雨が墜ちてしまうことを予想させるものだ。例えば「霧切を守るためには委員会側のほうが…」とかそういう理由で。妹を亡くしている彼女がどんどん霧切に対する愛情を膨らませていっているのは1巻から丁寧に描写されてきているところなので、彼女がそういう選択をしてももうなんら不思議ではない段階に来ている。やはり墜ちるのか。墜ちてしまうのか。1巻からハラハラしているが、次巻でこそ彼女は大きな決断をするのではないだろうか。霧切と電車に乗るシーンで「夏には海に行こう」なんて語るが、それあかんフラグや…。それに対する霧切の態度が示すようにそんな日はきっと来ないのだろう。せめてそれが死別ではないことを祈るのみだ。

そして霧切響子。
彼女は今回も基本的には冷静沈着であるが、もはや五月雨には普通の少女らしい姿を見せることが多くなっている。ヤキモチを妬いたり、ふてくされてみたりと、もう五月雨とは完全に打ち解けたと言ってもいい。3巻で初めて五月雨と霧切が会うのは五月雨の寮においてだが、その際五月雨に抱きつく描写が。後でそれは、五月雨が新仙帝が化けたものではないかどうかを見極めるものだと分かるのだが、きっとそれだけではなかったのだろう。要するにキマシタワーだ。
今回の彼女は1巻から通して初めて、明確に何かに怯えている様子がある。どこまでも冷静な彼女をそんな風にさせるというのはよほどのことだろうと五月雨も思うのだが、むしろその程度でよく済んでいた、というほどの事実があった。上述の通り、霧切が尊敬し敬愛する祖父、霧切不比等がなんと殺されていたのだ。ただ、この点に関しては小説「ダンガンロンパ・ゼロ」を読んでいる、あるいはPSVita「絶対絶望少女」をプレイしている人間なら「あれ?」と思うはずなのだが。この点については後述。
今回、元超高校級のロッククライマーである暗殺者に首を絞められ、危ういシーンがある。そしてその絞められた痕を気遣う五月雨に対して「次はこの程度ではすまないかもしれない」と言うのだが、これはやはり手の火傷につながることとなってしまうのだろうか?

3巻の表紙にもなっている美少年、御鏡霊。
彼は3つの呼び名がある。トリプルゼロクラス龍造寺月下の秘書のリコルヌ、その愛称のリコ、そして真の姿の御鏡霊。
年齢は弱冠12歳であり、トリプルゼロクラスの探偵となったのはなんと9歳のときであるという。そして自分自身もトリプルゼロクラスでありながら同じ立場の龍造寺の元で働いているという時点で相当なトンデモ人物である。しかも龍造寺にすらその本性は疑いをかけられているだけにとどまっており、知られてはいない。今回、龍造寺からの助っ人として五月雨に協力する立場だ。彼はそういう立場ではあるが、犯罪被害者救済委員会には全く関わっておらず、3人いるトリプルクラスゼロの探偵の中で唯一、五月雨には協力してくれる可能性のある人間だ。ただ、その幼さゆえの奔放さ、ただ純粋にミステリーを欲する純粋さを持つ危ういキャラクターだが。
実は五月雨に対する12件の黒の挑戦は彼の素性を疑っていた龍造寺が仕掛けたものであり、結果、その正体が龍造寺に知られることとなるのだが、その後も特に話の展開上にはそれは関わらず、五月雨のサポートをする。そして12件のうち5件の事件を五月雨&霧切が1件解決する間にスピード解決してしまう。現状は五月雨の味方ではあるものの、何せ世界で3人しかいないトリプルゼロクラスの一人。本来的に五月雨の手に負える人物ではないだろう。今後はトリックスターとして話をかき回すということもありそうである。
この人物が今後どう関わってくるのか、現在のところ全く分からないが、割と死亡する可能性も高いと思う。2巻の感想でも書いたが、何せダンガンロンパシリーズは簡単に主要人物を殺すからね。

龍造寺月下。世界に3人しかいないトリプルゼロクラスの探偵の1人。イラストでは白い長髪に髭、そして紅い目と、まるで吸血鬼のような容姿だ。
彼の存在は1巻の頃から主に探偵図書館の場面において語られるが、2巻では同じくトリプルゼロクラスのジョニィ・アープ、そして「元」トリプルゼロクラスの探偵であり、犯罪被害者救済委員会の会長である「新仙帝」と共にいるところを五月雨と霧切は目撃している。つまり、復讐者をそそのかして人殺しをさせる「犯罪被害者救済委員会」の一員であるということだ。彼はどこまでも人を救う探偵であるという自負があり、黒の挑戦により復讐者を救済することもまたそれの一環であると言い切る。もちろんそれに五月雨は反発するのだが…。
彼は今回、冒頭で五月雨に接触してきて、自分の探偵事務所へと彼女を招待する。そこで五月雨は彼が数多の人間を救ってきたことや、人々に感謝されているということを見聞きする。そして、「黒の挑戦を開催する犯罪被害者救済委員会に入るか」「黒の挑戦を探偵として受けるか」の選択を迫られる。青臭くも確かな正義感を持つ五月雨は探偵として黒の挑戦を受けることを選ぶのだが、彼は彼女を「昔の私と同じだ」と評する。上述の通り、これは結局見鏡をあぶりだすという目的があったのだが、しかしこの12件の黒の挑戦は無効というわけでもなかった。その事実が明らかになった後も変わらず、12件の殺人事件を事前に防止、あるいは解決しなければならないのだ。彼は五月雨を探偵の力は乏しいとしつつもその精神性は買っているというが、これはおそらく本心によるものだろう。五月雨は命をないがしろにする彼を否定しつつも、また自分のような小娘には彼を否定することなどもできない、という客観性も持っている。龍造寺は確かに多くの人を救っており、またその姿が自分の理想の探偵像であるとすら、五月雨は言う。今後、五月雨が自分の非力さをうらむような展開になるのならば、五月雨が龍造寺の誘惑に乗ってしまうこともあるのだろう。「正義のためならば多少の犠牲はつきものだ!」的なよくある悪党像ではあるが、それはともかくとして五月雨が彼を完全否定はできていないことが今後の展開のポイントとなりそうだ。がんばれ結お姉さま!

そして霧切響子の祖父である霧切不比等。響子が敬愛する人物だ。
1巻のラストで五月雨は霧切の家で彼と会っており、しかも会話までしている。しかし3巻ラストでは彼が家にいたり海外にいたりとフラフラしすぎな点に疑問を持つ。その真相は、実は五月雨が会った彼は新仙帝が変装していたものであり、本当の霧切不比等は殺され、自宅の庭に埋められていたのだ。
だが、ダンガンロンパ霧切よりも遥か未来、1の前日譚である「ダンガンロンパ・ゼロ」において彼は生存が確認されており、また時間軸は1の後となる「絶対絶望少女」においては霧切響子の縁者として塔和シティに拉致監禁されているはずなのだ。
素直に考えれば五月雨が見た死体は霧切不比等ではない、別の誰かということになるのだろうが、しかし「ダンガンロンパ・ゼロ」や「絶対絶望少女」を読んでいる自分のようなシリーズのファンならばその事実は明らかなのだ。明らかすぎてミスリードにもならない。だが、その死体を確かに見て、霧切不比等と判断している五月雨の様子から少なくとも見た目は間違いなく霧切不比等なのだろう。その後現れる、不比等の息子である霧切仁は「こんなことになるとは…」などと発言するにとどまっているので彼が別人である余地も残されているのだが…。結局どうとでも取れる形になっており現状事実ははっきりしない。まさか「時間軸とか考えてなくて殺しちゃった!てへっ!」なんてことはありえないだろうし。…ないよね?
1、2巻を見返してみると、少なくとも2巻終盤で電話で五月雨と霧切に新仙帝について警告をしたのは間違いなく本物の霧切不比等だろう。この時点で「新仙帝に気をつけろ!」などと言う理由は新仙帝が化けた不比等には存在しないのだから。…いや、それもそう思わせる偽装だとすれば可能性は普通に存在するか。この警告をした人物は本物だと仮定し、本物は死んでおらず3巻の死体が偽者だとすると、本物と、新仙帝が化けた偽者、そして死体の偽装に使われた人物?と、3人の霧切不比等の姿をした人物が現段階でいる、ということになるか?死体の状態からして、少なくとも死体は1巻開始時点より前に存在したことになる。つまり、これが本物だとしたら作中で登場した霧切不比等はすべて偽者ということになってしまう。
まあ霧切不比等は作中での描写から、本来はトリプルゼロクラスの人間に並ぶ存在であるはずなので、そうそう殺されたりはしないだろうし、どういう展開になろうと後の時間軸で生きている人間が死ぬわけないので死んでないんだろう。死んでたけど蘇生したぜ!なんて、本編ならいざしらず外伝推理小説であるのこのシリーズでは流石にやれないだろう。祖父といえば父方、母方がいるものなので、このあたりを使った叙述トリックかもしれない。

そして最後に少しだけだが出てきた霧切響子の父親の霧切仁。後の希望ヶ峰学園の学園長であり、ダンガンロンパ1冒頭シーンで宇宙に発射される人だ。
彼がまさかこのシリーズに登場するとは思っていなかったので意表を突かれた。今回はただ五月雨を助けるためだけに登場しただけだが、今後はどう物語に関わってくるのだろうか?
彼は探偵の家系に生まれながら探偵として生きることは拒み、娘を捨てて霧切家とは決別した。そして娘の響子は「父親に捨てられた子供」という周囲の奇異の目に晒されながら生きてきており、自分を捨てた父親に決別を言い渡すために希望ヶ峰学園に入学した、というのがPSPゲーム「ダンガンロンパ希望の学園と絶望の高校生」の設定である。
この際だから書くが、このあたりの設定はやや粗いと思う。元々ダンガンロンパシリーズ自体、そう長く続ける想定ではなかったからなのかもしれないが…。まず、霧切響子の動機としてこれがちょっと弱いというか無理があるというか。ダンガンロンパ・ゼロでは父親である彼から直接依頼を受けて捜査をしている彼女であり、結局のところ父親とはどういう関係になりたかったのかな、と。それこそ「あなたとはもう親子でもなんでもありません」ってことが言いたいだけならば希望ヶ峰学園に入学する必要性自体が別にないんじゃないかと前から思っていたし。霧切仁と霧切響子の関係というのは本編や小説で今まで少しずつ語られながらも、どうにもすっきりしない感じが続いている。ゼロを読めば分かるとおり、霧切仁もまた、超高校級という才能に対しては過剰な偏愛を示す異常者であるという側面も描写されている。1のラストで響子が「自分の父親ならこんな時苗木くんを見捨てる選択なんてしない」などと言うような発言がある。ゼロでの確執を見ると単に記憶を失ってるから言えるだけなんじゃないかな…などとも思ってしまうところであり、客観的に見ているとどうにもこの親子関係は微妙なまま終わっているように思えてならない。今後、このあたりをすっきりさせてくれるときは来るのだろうか?まあ、もう霧切仁が死んじゃってるからもうどうしようもないんだけどね。とりあえず「ダンガンロンパ霧切」シリーズにおける霧切仁は、娘を影ながら助けるような立場を担うことになりそうだ。

以上、各登場人物に関する感想である。前2巻と比べて文章量が跳ね上がりすぎた。
2巻までは中継ぎといった展開だったので、ここからが本番だろう。結お姉さまはどうなるのか?霧切の手の火傷の理由は?御鏡は今後どう動くのか?
五月雨が危うい、という以外はてんで予想がつかないが、次はおそらくまだ出番のない3人目のトリプルクラスゼロ、ジョニィが動く頃ではないだろうか。2巻から3巻まではちょっと空きすぎた。4巻は是非とも早めにお願いしたい。
なお、今回の巻末に新たなダンガンロンパの小説シリーズが発表されることが示唆されている。執筆者は佐藤友哉氏とのこと。

ダンガンロンパ霧切3

2016年10月25日、イラスト変更。
彼女の手袋の下に隠された傷の所以は一体何なのか──?
現状、悲劇的な結末しか見えないけれど、結お姉さまには死んでほしくはないところですな。

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