ダンガンロンパ霧切7巻 -凡人の感想・ネタバレ-

凡人の感想・ネタバレ>ダンガンロンパ霧切7巻

執筆日:2020年06月18日

関連作品の感想

ストーリー・ネタバレ

プロローグ

ジョニィ・アープから犯罪被害者救済委員会のスカウトマン、「円藤藤吉郎」の名刺を受け取った五月雨結だったが、この件は霧切には明かす事ができず、仮初の日常を送っていた。五月雨はそれに書かれた連絡先に電話だけしてみる事にする。すると同じ店内にいた老人が電話に出た。老人は五月雨にある場所を指定する。
学校は終業式だったが、五月雨は霧切と過ごし、リボンをプレゼントした。五月雨は妹の誘拐殺人事件の件を思い出す。それは7年前に発生したもので、未だ五月雨はこの件は自分がもう少し注意深ければ避けられたのではないかと後悔し続けていた。

指定された場所へ行くとそこにいたのは委員会のトップの新仙帝だった。五月雨は霧切響子の父親の霧切仁から響子の祖父の霧切不比等との確執があると聞かされていたが、実際のところ、新仙の動機にはそれは無関係だった。
新仙はその能力ゆえに道行く人間の死が浮かぶ予知能力のような力を持っており、全ての人々の救済が目的だった。そしてそれを可能とする素質がある霧切響子を「究極の探偵」にするということであるという。だがまだ情に流される面があるため足りていないものがあるという。
そして新仙は五月雨に「黒の挑戦」の犯人となり、妹の件で復讐をするよう持ち掛ける。五月雨を犯人として突き止める事で霧切は情を捨て、究極の探偵となることが出来ると言う。そして従わなければ霧切を殺し、改めて別の候補で計画をやり直すだけだと脅す。
これを聞いて当然反発する五月雨はここで新仙を殺せば全てが終わるのではないかと考えるが、新仙が言うにはすでに委員会はシステムと化しており、自分がいなくても計画は実行されるのだという。そして新仙は所詮自分も駒の一つにすぎないと言い、自らの頭を凶器で刺して自殺してしまう。これで五月雨は復讐に乗るか乗らないかの二択から選ぶしかなくなった。

この場面に現れたのは霧切不比等。新仙の遺体は一般人にも発見されてしまう。新仙が自殺に使ったのは元々は不比等のもので、新仙が自殺したのは不比等を司法に拘束させておくためだった。五月雨はこの場から去ったが、帰り道で再び円藤藤吉郎と遭遇。彼は五月雨に「さて、答えは出ましたかな?」と問いかけた。

現場までの移動

この後霧切の元へ黒の挑戦の招待状が届いた。その現場となるのは一番最初の「黒の挑戦」の事件現場であるシリウス天文台だった。
五月雨は真相を霧切に打ち明ける事はなく、今までの事件と同様に事件解決のために現場へ向かう事とする。

現場へ向かう途中、雪村白弧という女性が二人に話しかける。彼女は「880」ナンバー、つまり誘拐専門では最高のゼロナンバー探偵。情報通からシリウス天文台に新仙帝の遺産があると聞いており、五月雨と霧切が今までいくつもの事件を解決したという事も知っていた。霧切はここで初めて新仙が死んだと聞くが、簡単には信じられなかった。三人は雪村の車でシリウス天文台へと向かう。

天文台へ向かう途中道に迷ってしまうが、そこに白馬に乗った妙な人物が現れる。それは夕覇院完二という男性で、彼もまた雪村と同じ「880」ナンバーの探偵だった。天文台へ向かう動機も同様で、新仙の遺産が目当てだった。彼が乗る馬の足跡を頼りに五月雨、霧切、幸村の三人はシリウス天文台へと辿り着く。

シリウス天文台のA棟にたどり着くためにはB棟から入って地下通路を通る必要があるが、地下通路には夕覇院、それに門美戦士という探偵がいた。彼は「990」ナンバー、殺人専門のゼロナンバー探偵だった。彼もまたここに来た動機は新仙の遺産。
これで五月雨、霧切、雪村、夕覇院、門美の5人がこの場に集結する。地下通路には扉があり、このそばにある5つの装置にそれぞれが腕を通して認証すると扉が開いた。
地下通路からA棟へと上がるための階段下には氷で隠された「何か」があることに霧切は気付くが、この時はその正体が何なのかは不明のままだった。

天文台での初日

A棟のホールにたどり着いた5人。−10度の低温のホールの中央には巨大な氷柱があり、中には箱が入っていた。また氷柱の周りには鉄格子があった。天文台A棟は真上から見ると五芒星の形になってあり、中央の部屋からは5つある二等辺三角形の部屋に繋がっていた。部屋の扉には穴が空いており、それぞれの部屋から穴を通じて隣の部屋へと鎖が繋がっていた。5人全員が鎖の先の手錠を両手に装着する事で氷柱の周りの鉄格子が下がる仕組みだった。これにより氷柱に近づく事は出来るようになったが、5人全員が鎖でつながれてしまうことになる。
まず5人は氷柱を溶かして中の箱を手に入れようとする。雪村、夕覇院、門美の三人は箱には新仙の遺産に関わるものが入っていると考えたため、我先にと手に入れようとする。また、各部屋にはそれぞれ2000万円の札束が置いてあった。

五月雨と霧切は3人の探偵のうち友好的な雪村とは協力するようになる。氷に対してはドライバーで削る方法を取るが、強固な氷を前にすぐ壊れてしまい使い物にならなくなる。五月雨は部屋にあるシャワーから出る熱湯で溶かす案を思いつくが、夜の10時以降は5人全員が部屋に入っていなければ建物が爆破される仕組みであるためそれは不可能だった。

こうして一日目は氷を解かす手段がこれといって出ないままに終わり、五月雨と霧切はそれぞれ別の部屋で眠ったのだった。

天文台での二日目

夜が明けるとなんと雪村が部屋のベッドの上でナイフで刺されて死んでいた。傷は深くなく、死因はナイフに塗られた毒物によるものだった。霧切は寝ずにホールを見張っていたが誰もホールには出てこなかった。門美は犯人は外に出て雪村の部屋に窓から入ったのだと推理するが、これは鎖の長さが届かないので不可能であることを霧切が証明した。

結局犯人はわからなかったが、全員の腕に繋がれた鎖を使って氷を削る案が出て、4人が交代でこれを行う事になった。五月雨と霧切は現場の検証を続ける。霧切は寝ないで見張っている時、なんらかの機械の駆動音のようなものを聞いていたことを五月雨に話す。
しかし、低温や睡眠不足で霧切が倒れてしまう。五月雨は霧切を部屋へと連れていき、ベッドで眠らせた。

天文台での三日目

三日目の朝、今度は門美が殺されていた。状況は雪村の時と全く同じで、寝たままに毒のナイフで刺されていたのだった。
これを見た夕覇院は五月雨と霧切が犯人ではないかと疑い、敵対的となった。
夕覇院には構わず調査を続ける五月雨と霧切。ここで霧切は雪村の部屋の屋根の上の雪が少なくなっていることに気付いた。
突如、調査中の二人を睡魔が襲う。

目が覚めるとホールの中央の氷柱の周囲が燃え盛っていた。柱の向こう側には夕覇院が矢を目に受けて倒れていた。彼は氷柱の中の箱を入手していたようで、それは黒いカードだった。カードを鎖の手錠にかざすとロックが外れ霧切は自由になることができた。そのカードを五月雨に渡し、五月雨も手錠を外す。そして二人は燃え上がる天文台を脱出して雪が積もる外へと出る。

事件の真相

外に出た五月雨と霧切だったが、霧切は五月雨に警戒の態度を表した。そして事件のトリックを五月雨に対して話し始める。
ホールを通るでも外を通るでもなく犯人が被害者たちの部屋に入れたのはなぜか。それは各部屋が垂直に持ち上げられる仕組みがあったからだった。持ち上げられた部屋同士ならば互いの窓の位置が近くなり、鎖の長さが間に合うようになる。そして部屋が垂直になっている状態であるならば窓からナイフを落とすようにすれば被害者の体に刺さり、毒ナイフなので深く刺す必要もないのだった。そして、これが出来るのは雪村の隣の部屋だった五月雨だけだったのだと霧切は言う。

そして門美の殺人については、五月雨の部屋から2つ隣なので五月雨には不可能なはずだが、これは五月雨が夕覇院に対してそそのかしたことで夕覇院が行った殺人なのだと言う。
そしてその夕覇院が矢を受けて殺されていたことに関しては、五月雨が部屋の扉と霧切のリボン(事件前に五月雨が買ってプレゼントしていた)を使って矢を飛ばして殺したのだという。ホールが燃えていたのは、夕覇院が札束を燃やして氷を溶かす強硬手段に出たというのが真相だった。

なぜこんなことをしたのかと問い詰める霧切に五月雨は「君は事件を解決する事は出来ても人の心の謎は解き明かせない。それが君の弱点だ」と言った。

黒の挑戦を行う復讐者が失敗した場合、委員会の手により消されてしまう。霧切は五月雨を殺させはしないとし、かつて霧切と五月雨をつないだ手錠を使って自分と五月雨をつなぎとめようとする。やめさせようとする五月雨。
その時、突如五月雨の背中を矢が撃ち抜いた。
燃え上がる天文台から現れた人物がいた。死んだと思われた夕覇院だった。彼は目に矢を受け、さらに全身に重度の火傷を負いながらも生きていた。その手にはクロスボウがあり、そんなものがあるはずがないと狼狽える霧切。そして狂気にかられた夕覇院は五月雨と霧切の二人を殺そうとする。そして霧切は左手にナイフを受けてしまう。背中に矢を受けながらも五月雨は霧切が持っていた手錠により自分の腕と夕覇院の足をつないで自由を奪った。そして夕覇院をひきずりながら霧切から離れようとする。夕覇院の服は炎で焼けたことで五月雨が妹の誘拐事件の際に犯人につけた彫刻刀での傷が露わになり、これで妹を誘拐した犯人が夕覇院だということを知るのだった。
五月雨はそうしながら夕覇院に対して自分の妹をなぜ誘拐したのかと問うと、地位も名誉も関係なく、ただ自分の欲望でやったのだと語った。それを聞いて生かしておいてはいけないと殺意を露わにする五月雨。
天文台の近くの崖付近まで夕覇院をひきずったところで、爆破システムに引火したことで天文台が大爆発する。この爆風により五月雨は夕覇院と共に崖下へと落下する。この時、霧切に対して「君は間違ってない」と叫んだ。

崖下へ落下した五月雨は瀕死だった。燃える天文台の破片をどかしながら五月雨に近づいてきた霧切。その両手は重度の火傷を負ってしまっていた。クロスボウがあることを見落としていた霧切は「犯人扱いしてごめんなさい」と五月雨に詫びながら呼びかけるが、五月雨はそんな霧切を「綺麗」と思いながら、ついに絶命する。

事件後

霧切が気付くと病院だった。そこにいたのは武田幽霊屋敷の事件で出会ったサルバドール・宿木・梟と二人の女子高生助手だった。宿木は遅れてシリウス天文台へと到着し、そこで霧切を発見したのだという。そして五月雨が死亡したことを霧切に伝えたのだった。彼は世界各地にいる「堕天」して犯罪に手を染める探偵たちを狩る仕事をし、霧切もこれに協力してくれないかと誘うが、五月雨が死んだことで自分も死んだと感じる霧切はその誘いに乗る事はなかった。

霧切は改めて事件の回想をする。なぜどこにもあるはずがないクロスボウなどが夕覇院が手にしていたのか。これは地下通路の氷の下にあったのだと推測する。夕覇院は手錠を外して脱出する際に自動的に発射されたこのクロスボウを目に受けて昏倒し、さらにその後これを武器にして五月雨と霧切を襲ったのだった。そして、雪村の殺人に関しても部屋を同時に3つ垂直にすれば、隣あっていない部屋でもギリギリで届いたので、五月雨ではなく夕覇院が殺しを行う事も可能だったはずだと分析した。
つまり、五月雨は誰も殺してはおらず、夕覇院が知ってか知らずか、代わりに殺人を行っていたというのが真相だった。
クロスボウを仕込んだのは生前の新仙帝であり、この事件では必ず五月雨が犯人であるかのように仕立てられるように新仙に仕組まれていたのだった。
冷静に分析すればこういう結論に至るはずだが、霧切は五月雨に情があり感情が論理を上回っていたために、五月雨が犯人ではないと思いたいのは自分が感情的になっているだけだと切り捨ててしまい、かえって五月雨が犯人であると思い込んでいた自分に気付いたのだった。

失意のままに探偵図書館に向かった霧切。ナンバーは「910」に昇格して最高位のゼロナンバー探偵となったが、何も嬉しくはなかった。だが、霧切宛てにメッセージがあった。それは五月雨からのものだった。
図書館の指定された棚を調べるとそこには五月雨の手紙があった。内容は霧切を思いやり、感謝するものだった。

霧切は入院中に宿木が語ったことを思い出していた。宿木が到着したのは天文台で全てが終わってから半日も経過した頃であり、極寒の場所で霧切が死なずにすんだのは、五月雨が霧切の上に覆いかぶさり守っていたおかげだったという。

霧切は誰もいないバス停で、五月雨の名を呼びながら声を上げて泣いた。

その後、霧切は自分の手の重度の火傷は戒めとして残すことにした。そしていつも五月雨に結ってもらった右の三つ編みは作らず左だけにするようになる。
気持ちを新たにした霧切は宿木へ連絡し、堕ちた探偵たちを狩る仕事を共にすることを決意する。

エピローグ

それから数年後、霧切響子は希望ヶ峰学園へと入学した。
霧切たちの活躍もあり、すでに堕天した探偵たちはほとんど姿を消していた。しかし霧切は近いうちに何か大きな事件が起きる事を感じていた。
依頼主からの連絡で携帯電話が鳴る。それは隣町の殺人事件に関してのものだった。廊下の角を曲がったところで男子生徒とぶつかり、霧切は探偵図書館の登録カードを落としてしまう。それを男子生徒は拾い上げて霧切に渡した。

さらに、その男子生徒は霧切に対して「隣町の殺人事件の犯人を目撃してしまったかもしれない」などと言い出す。彼の名は苗木誠。
そんな偶然があるのかと不思議に思う霧切だったが、「いいわ。話を聞かせて、苗木君」と言った。

感想・評価

1巻発売が2013年9月13日発売で最終巻が2020年6月17日発売、足掛け7年弱でついにダンガンロンパ霧切完結!
結論から言えば、「期待に応えつつ予想を裏切る」創作物の好例、素晴らしい内容だった。
大まかな予想を6巻の感想にて書いているが、大枠は当たってはいたものの、決定的な点では予想を上回ってくれた。

なんにせよ、まずは五月雨結は結局は復讐には最後まで手を染めなかったというのが驚き。
シリウス天文台の最初の夜、地文にて結お姉さまがナイフで人を殺したかのような描写があるが、これはミスリードであり、かつて妹が誘拐された時に犯人に反撃していたのを思い出していただけだった。最後のエピローグで霧切が改めて推理していた通り、殺人はあくまで「代理の犯人」とでも言うべき夕覇院が行っていたに過ぎなかった。

最終巻はこのミスリードのために大事なところで時間が飛んで何があったか不明な箇所があり、語り手、地の文である結お姉さまが一体どういう心持ちで最後の事件に臨んでいたのかもまた詳細には不明なのがまた心憎いというか、想像の余地があって面白い部分だと思う。読者にとって一番身近であったはずの常識人、語り部である主人公の五月雨結が、この最終巻においては途端に異様で不可解な存在となったわけだ。
新仙が自殺した後に組織の使いの円藤藤吉郎が「さて、答えは出ましたかな?」と問うが、この後は場面が飛んで霧切の元に「黒の挑戦」の手紙が届いた、という場面になってしまう。そしてこの後は今まで通りに、まるで何もなかったかのように霧切と共に事件現場へ行き、解決に励むという。本心は語らずにほとんどいつも通りに地の文で語り続け、霧切をサポートし続ける様は不気味ですらあった。

事件後日に霧切が、事件は必ず五月雨が犯人に仕立てられるように決まっており
@結が犯人役を名乗り出た場合
A犯人役を断った場合
B犯人役を受けたのに実行を躊躇したり中止した場合
どの場合でも予定通り事が運ぶように夕覇院が犯行を犯すようになっていた、と推理するわけだが、この@〜Bのうちどれだったのかは結局は明確にはされていない。読者目線でも、上記の通り円藤藤吉郎に問われた直後に時間が飛ぶので五月雨がどう答えたのかは不明となっている。
しかし、夕覇院が妹の事件の犯人だったということは土壇場まで知らず、自分が傷つけた傷を見てようやく知ったわけで(復讐を選んだのであるなら当然情報を教えられているはず)、実行犯すなわち施設の全容を知っているはずだとすればクロスボウの件を知らないような様子だったために恐らくAということになるだろう。そうだとした場合、代理人が殺人を犯す事なども含めて五月雨と委員会は折衝した可能性はあるが、想像の域を出ない。

なんにせよ、どういう心境で最後の事件に五月雨結が臨んだかというと、「妹殺しの事件に関わった者に会いたい。しかしあくまで犯人を殺す事は拒否し、さらに自分の代理で行われる殺人の真相を霧切に突き止めてもらいたい」という感じではないだろうか。もちろん、自分が行わない場合でも自分が犯人であるかのように仕立てられることも承知の上で、だ。自分が殺したわけでもないのに霧切を抱き締める自分の手を「汚れている」とする場面があるが、自分が殺さないとしても代理人が殺す事は了承したからなのだろう。
もう一つ言えば、新仙帝は「論理に徹しきれない霧切が究極の探偵となるには犯人となった五月雨を告発することが必要」と言ったが、自分には決してなれない理想の探偵の姿を霧切に見ている五月雨は、この点には半ば同意していたのではないかとも思える。最後の最後まで反論材料を探して霧切に食い下がるのも、彼女に完璧であってほしいという思いの表れだろう。

確かにこの件を以て、わずかに存在した探偵としての隙もなくなり、霧切響子は完全無欠の探偵となったのかもしれない。そして完璧な推理力を持っている霧切は初代ダンガンロンパやアニメのダンガンロンパ3でその推理力を遺憾なく発揮し、新仙が予想した通り確かに世界を救う力となったわけだが、同時にこれらの作品を見れば分かる通り、彼女は日常においては決して人としての情を邪魔などと言って切り捨てる事はなく、あくまで感情のある人間として行動し続けている。ダンガンロンパでの世界崩壊前の写真で見せている笑顔や、ダンガンロンパV3の才能育成計画での会話などを見れば分かる通り(V3はパラレルのようなものではあるが)、成長した彼女は一定の社交性を持ち続けているようだし、五月雨の死により自分を戒めた後だが、むしろ中学生時よりも希望ヶ峰学園での生活では多くの友人を持ったはず。
そして五月雨の死後、高校生時にも左側だけリボンで三つ編みを続けているのは、彼女との思い出を大事にしていることの表れでもある。人間として必要な情を持ち、かつ推理の際にはどこまでも冷静に判断できるようになった彼女は、五月雨にとっては理想の探偵となってくれただけではなく、人生を楽しむ事を知った一人の女子ともなったわけであり、五月雨が生きていれば喜ぶのは間違いないだろう。(個人的にV3での朝日奈、春川との会話が好き)

最後に、著者である北山猛邦があとがきに関して。
「結末は1巻時点で決まっていたものの何度も変えたい欲求に駆られた。しかしそれは彼女たちの生き様を拒否するようではばかられた。その選択が間違っていても選択に臨む誠実さだけは失うことはなかった」と記している。

確かにこのシリーズ作品の1巻を読んだ時点で読者のほとんどが主人公五月雨結が最終的に復讐者となることは予想すると思う。本巻の結末に関しても大枠としては1巻時点で多くの読者が予想した範疇かもしれない。
しかしネットでダイレクトにあれこれと意見や感想を見れてしまい、創作者にとって考えが揺れがちであろう今の時代に、7年もの時間がありながら初志貫徹したということは本当に賞賛したい。自分も奇をてらうよりはハイクオリティで描いた王道に好感が持てるタイプなので、こういう人がこの作品を書いてくれて本当に良かったな、と。五月雨の結末も、霧切が手に火傷を負う理由にも納得がいくし、ゲーム「ダンガンロンパ」での霧切の言動や思想に関してもこの小説からの地続きなのだなと、不自然なところはなく納得がいく。このあとがきで北山氏はダンガンロンパの生みの小高和剛氏とも話して霧切響子について理解しようとしたり、「教室にやってきた転校生」のように内面を知ろうとしたということも語っている。そういう熱意を持って創作に取り掛かってくれる人というのはファンにとってもありがたいと思える存在である。
冒頭で書いたように、まさに期待に応えつつ予想を裏切る内容で大満足だった。北山先生、お疲れ様でした。

さて今年は実はダンガンロンパシリーズ生誕10周年であり、一応ゲームシリーズのスマホへの移植などが予定されているが、開発チームはすでに解体されており、生みの親である小高和剛氏は2018年に小松崎類氏らと共にスパイクチュンソフトを退社して新会社を設立、新作品の望み等は薄い。特にシリーズのコンセプトである「サイコポップ」を見事に表しきっている唯一無二のイラストレーター、小松崎類氏の絵なくしてダンガンロンパは成り立たないとも個人的には思うので尚更。

余談だが、この作品は巻を追うごとに内部のイラストが減少していったのは読者なら知っているところだろうが、この最終巻ですら表紙以外に小松崎氏のイラストがなかったのがやはりもうダンガンロンパに関わる事はないのだろうのなという裏付けに感じられて、少し悲しかった。会社を違えてしまえば当然と言えば当然なのだろうけども。最終巻にはちょっとしたイラストを寄稿する形ででも掲載してほしかったな、なんて思ってしまうのは贅沢だろうか。

ともあれ6巻での感想に書いた通り、恐らくこのダンガンロンパ霧切の終焉を以てダンガンロンパの新たな作品展開は打ち止めとなると思われるが、これだけは言いたい。


ありがとうダンガンロンパ。フォーエバーダンガンロンパ。





登場人物・キャラクター解説

五月雨結

霧切を「究極の探偵」とするためのきっかけになるように黒の挑戦での犯人役をやるようにと新仙帝から誘われる。そして霧切響子にとっての最後にして最大の殺人犯として立ちはだかる…かと思いきや実際のところは殺人を犯しはしなかった。
今回はいつも通り地の文での語り部であるものの、妹の仇の可能性がある3人の探偵と出会った時すらまるで何もないようなそぶりで語り本心を隠し続けるため、今までとうってかわって得体の知れなさを感じる。
妹の誘拐事件が発生した時に犯人の顔は見ていないが彫刻刀で太ももを傷つけていたことは覚えており、夕覇院にあった傷を見て犯人だと確信する。瀕死の夕覇院が本性をむき出しにした時には「こんな奴は生かしておいてはいけない」と本気の殺意を見せる。背中を矢で射られ、天文台の爆発で吹き飛ばされ、最後に自分を見る霧切を妹と重ねながら絶命するが、気を失った霧切の上に覆いかぶさって彼女が凍死するのを防ぎ、最後の最後まで霧切を守る。霧切に残しておいた手紙からすると事件の後に霧切の前から姿を消すつもりだったらしい。

霧切響子

五月雨は霧切の前から姿を消すつもりだったが、霧切もまた「五月雨がいずれ妹の事件を材料に黒の挑戦の犯人になってしまう時が来る」と考えていたため、五月雨の前からいずれ姿を消すつもりだった。しかしそれはもっと後の事になると考えていたらしい。
今まで通り五月雨と共に事件解決のため五月雨と共に尽力し、五月雨こそが事件の犯人だと結論付けるが、クロスボウが現場にあることだけは読めず、今まで完璧だった推理を今回だけは外してしまう。それは五月雨に情を持ち過ぎたために思考の均衡を失ってしまっていたためだと自己解析した。ずっと謎だった手の火傷に関しては崖に落ちた五月雨のそばへ行く際に高熱の瓦礫をどかしたため、ということが分かり、ダンガンロンパ生誕10年目にしてようやく、手袋の謎が明かされたことになる。また、三つ編みを結んでいる黒紫のリボンが五月雨からのプレゼントであることや、なぜ左側だけ三つ編みを作っているのかという事に関しても理由が明かされた。
五月雨の死後に生きる目的を失いかけたが、彼女が遺した手紙を見て、さらに彼女に命を救われた事を思って号泣。傷が癒えた後は宿木と共に犯罪に手を染める探偵たちを捕まえる事を決意する。
数年後に希望ヶ峰学園で苗木誠と出会い、この時もまだ五月雨の件が尾を引いて人との関わりを極力避けようとしていたようだが、その後彼女がどうなるのかはゲーム、アニメで描かれる通り。常にクールであり続けつつも、情を軽んじる事はなかったようである。

新仙帝

犯罪被害者救済委員会のトップでありトリプルクラスゼロの探偵。
霧切響子の父親の霧切仁が推測するには霧切の名を継ぐことが新仙の目的とされていたがそれは的外れであり、真の目的は「世界の救済」だという。新仙は並外れた観察力と推理力を持つために人がどのような死を迎えるか分かってしまい、そして近く訪れる世界の破滅を救うことができるのが霧切響子だと見抜いていた。そして彼女が情にも流されず論理に徹する「究極の探偵」となるために五月雨が「黒の挑戦」の犯人として霧切に挑む事が必要だと考えた。五月雨に逃げ場をなくし、かつ邪魔な霧切不比等を拘束するために自殺を選ぶ。
明言されてはいないが初代ダンガンロンパ以前に起きた「人類史上最大最悪の絶望的事件」の発生を察知していたと思われ、こういった脅威のために霧切響子が必要だと感じていたのだろう。マクロ的視点から見れば龍蔵寺などと同じように単純な悪とは断じることができない人間とも言える。

霧切不比等

霧切響子の祖父の探偵。新仙が自殺しようとするまさにその時現場へやってくる。五月雨に「新仙が確実に死んだこと」を証明するために呼び出されたのだと推測した。新仙が自殺に使ったナイフは不比等のものであり、聴取を受けて足止めを食うことになったため、五月雨が彼を頼る事も出来なかった。

雪村白弧

30歳くらいの女性探偵。探偵のナンバーは「880」。誘拐事件の分野でのゼロナンバーなので凄腕の探偵だが、しばらく探偵業からは離れており、今回の事件が復帰戦。子供がいるために養育費が必要で、金にがめつい。
人当たりは良く、今回登場する3人のゼロクラス探偵の中では一見一番まとも。しかし一番最初に死亡してしまう。五月雨は火事から逃れる際に彼女の子供たちのために部屋にあった金を回収しようとするが、燃やすのに夕覇院が火種として使ってしまっていたため不可能だった。

夕覇院完二

雪村と同様に「880」ナンバーの凄腕。白馬に乗って登場。見た目も言動もキザで、雪村、門美が死ぬまでは門美に暴力を振るわれて気絶したりパッとしない役回り。そして矢で目を射抜かれて3人目の犠牲者となる。と思われたがさらに天文台の火事に巻き込まれてもかろうじて生きており、事件の真相について語る霧切と五月雨の前に現れる。実は五月雨結の妹の五月雨繭を誘拐した張本人であり、当時五月雨結により太ももを彫刻刀で切りつけられていた。今回の事件で雪村と門美を殺した犯人。五月雨が殺しを行わない場合はこの夕覇院が代わりに行う事になっていたという、いわば代理の犯人。
五月雨の背中をクロスボウで射抜き、さらに霧切の左手も射抜く。五月雨が妹の誘拐について問い詰めると「地位や名誉は関係なく、お前の妹はありだった(容姿が良かった)から誘拐した」と下衆な発言をして五月雨を激昂させる。五月雨によりその足を五月雨の手と手錠で繋がれた上、天文台の爆発により五月雨と共に崖に落下して死亡。

門美戦士

「990」ナンバー、つまり殺人事件専門のゼロナンバー探偵。女のような濃い化粧をしているが丸刈りで筋肉質という、文章だけでも濃すぎる容貌が伝わってくる人物。粗野な乱暴者で、何度か夕覇院に暴力を振るう。雪村の死亡後に犯人は窓から侵入したのだという推理をするが、それは鎖の長さが足りないために不可能だったと霧切に証明される。

サルバドール・宿木・梟

以前登場した、本作では珍しい純粋に正義の探偵。全てが終わった後のシリウス天文台へやってきて気絶した霧切響子を救う。新仙が死んだあとに世界に散らばった「堕天」した探偵を捕まえる仕事をしないかと霧切を誘う。霧切は一度は断るが考え直し、これに協力することになる。

苗木誠

最後の最後に登場したシリーズ初作「ダンガンロンパ希望の学園と絶望の高校生」主人公。「超高校級の幸運」であり後の「超高校級の希望」。霧切が隣町で発生した殺人事件の解決に向かおうとしたときに霧切に「殺人現場を見たかもしれない」と名乗り出る。恐らくダンガンロンパ関連作品最終作となる本巻で1作目の主人公とヒロインのファーストコンタクトが描かれるのは粋な演出。パッと見で優れたところはないがバカ正直で素直な彼と関わり霧切は彼女を思い出したのかどうか?苗木はダンガンロンパのラストにおいて絶望しかけた霧切に訴えかけて希望を分け与え、彼女が抱えていた父親、霧切仁へのわだかまりも解消することになる。

凡人の感想・ネタバレ>ダンガンロンパ霧切7巻