漫画村が消えた事で漫画の売り上げは伸びるのか?

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執筆日:2018/04/18

はじめに

2018年の3月から4月にかけてにわかに話題になった「漫画村」。無料で無数の漫画コミックスその他の本を公開していながらも「違法ではない」と言い張ってきたこのサイトだが、何らかの理由でか、4月17日にはサイト閲覧が不可能になり、実質閉鎖となった。

普通に考えれば業界に有害でしかないこのようなサイトを、しかし擁護する人間も膨大にいるようである。彼らは一様に「漫画村が消えても漫画の売り上げは変わらない」あるいは「漫画の宣伝になっていた」などと言うのだが、本当にそうなのだろうか?ここでは拙いながらもサイト利用者の分類や心理解析をし、結論づけたいと思う。

なお、漫画村と似たようなサイトは他にも未だ多数存在しているようだが、ここでは「漫画村が無くなったってどうせそっちに流れる」という見方は除外しての話となる。つまり、「漫画村」という名前を出してみてはみたものの、要するにこの世から無料で閲覧できるサイトが消滅したら漫画の売り上げは上がるのか否か、という話に絞っていく。

利用者層を分類する

そもそも、漫画村の利用者というのはどういった層なのか。主に以下のようなものに分けられるだろう。それも、漫画村が存在していた頃と消えた後で分類しなければならない。

漫画村利用時

漫画村消滅後

以下では漫画村消滅後の4種の層がどう動くかという点に絞って解析してみる。

漫画村が消えた事で利用者はどうするか

漫画村が消えた事で上記のような利用者たちはどういう動きに出るのか。彼らの動きにより漫画の売り上げは上がるのか下がるのか。それを解析していく。

@無料で見れたから見てただけなので見なくなる層

このような層は主に「低所得者」であったり「低年齢層」に多いだろう。
漫画村擁護派はよく「無料で見れるから見ているだけであって、無料で見れないなら見ないだけ」と言う。
その言葉は負け惜しみを含んではいるだろうが、確かにそういう層も少なくない数がいるのは確かだ。なにせ動かせる金額が少ないのであればそれはどうしてもそうならざるを得ない。

しかし、この層は言うまでもなく、売り上げにはほとんどかかわらない。元々買う気がない、あるいは買えないのだから。最も漫画村で利益を享受していた層と言え、ネット上でよく見る漫画村擁護派はここだろう。いわば漫画村直撃の若い世代。スマホで作品名を検索すれば漫画村が出てきて無料で見れることに疑問を持っていない世代。この層ならば漫画村が消えたことで毒を吐きたくなるのもまあ当然と言えば当然ではある。彼らは一度も漫画にお金を払ったことがなく、無料ソシャゲなどで遊ぶのが日常である層でもあるため、他の分類の人間とは根本的に価値観が違っている可能性も高い。それゆえ、色々な意味で厄介な存在である。

A無料で見ていたが漫画が恋しくなったので購入するようになる層

これはつまり無料で見ているうちに漫画が大好きになってしまい、ありていに言えば、漫画に対してちょっとした「中毒」や「依存」状態になっている人間ということだ。
そんな層がいるのか?と疑問に思うかもしれないが、これは確実にいる。何せ漫画村の月間利用者は1億を軽く超えるほどだったというのだ。下の「漫画村が利用者に残したもの」でより詳細に書くが、漫画村が消えたことにより、結果として確かに業界にとっての宣伝となった部分もあるわけだ。

何せ月間で億を超えるとなれば、その中で漫画を無料で来る日も来る日も見続けた人間も数多いるだろう。彼らは漫画村が消えたからって安易に漫画から離れられるのか?もちろん、それが出来る人間もいるだろうが、そうもいかない人間も多いはずだ。何回も言うが億単位のPVもあれば確率から言っていないわけがないのである。だから彼らは悔しいけど買っちゃう…!という状態なわけである。漫画村がずっと存続していれば彼らは業界からすれば害悪でしかなかったわけだが、結果として漫画村が消滅したのだから、そのうちの少なくない数が漫画業界にお金を落としてくれる良客に転じてくれているはずである。

B元々購入していたが漫画村があったために購入しなくなってしまったが、消えたのでまた買うようになる層

漫画村が存在したことで漫画業界が「損失」になっていると叫んでいるが、主にこの層のことを言っているのだろう。
元々漫画を購入して部屋の本棚には漫画がズラっと並んでいる。しかし漫画村を知ってしまったがために購入しなくなってしまったという層だ。

この層は無料閲覧サイトが消えたらどうなるのか、と言えば、普通に考えれば以前のように購入するようになるということになるだろう。だが、今まで無料で見てきた物に対して金を落とすようになるだろうか?という疑問も湧く。しかしそれでも、彼らは再び金を落とすようになる可能性が高いと思う。なぜなら、彼らは以前から漫画が好きで、かつては漫画に500円前後の価値を見出して購入しており、敬意を持っていたからだ。一定の敬意を持っていなければ金は払わないものである。「そうだよな。金は払うのが当然だよな」という心理に落ち着く可能性が高い。彼らは20代、30代以上の人間が多く、上の「漫画を全く買わないで漫画村利用しかしない層」とは意識も違う。言うなれば「無料なのはおかしいよなあ」と思いつつも利用してしまっていた層でもある。だから「商品には対価があって然るべき」という考えにも帰結しやすいのである。

C元々購入していたが漫画村があったために購入しなくなってしまい、消えても買わなくなってしまった層

Bと同じ立場でかつては購入していたが漫画村のせいで無料が当然となってしまい、漫画に価値を見出せなくなり、漫画村が消えたとしても買わなくなってしまう層。これはいてほしくないとは思える層ではあるが、しかし残念ながら居て当然というものでもある。

いわば漫画村に価値観を変えられてしまった層。漫画は金を払うほどのものではないと思うようになってしまった。そんな人間たち。
しかしこれらは、いるかいないかで言えばいるだろうが、Bの人間よりは少ないと、自分は考える。何せ彼らは元々金を払って漫画を購入していたのだ。最初から「無料が当然」という世界にはいなかったし、元々漫画が好きだった。漫画一冊数百円、それに金を落とすことを断固として拒否するという人間がそう多いとは思わない。いることはいるだろうが、多くはない層だろう。全く購入しなくなるということも考えにくく、自分が特に気に入っている作品に関してはちゃんと購入する可能性も高い。

D今回漫画村に圧力が行ったことが気に食わず、業界への反発のために漫画を買わなくなってしまう層

一応こういう層も挙げてみた。これは上記BやCの分類の中にいるかもしれない人々。「漫画村に圧力を与えて閉鎖に追い込んだ漫画業界が気に食わねえ!絶対もう買ってやらねえ!」という層である。
いうならば彼らはレジスタンス。権力への反発。既得権益への抵抗。そんな意識を持って不買という無言のテロをもって反発してやろうという層である。

一応、とすでに書いてしまったが、こんな層はぶっちゃけいないと思っていい層だと思う。Bの解説ですでに書いたが、元々金を払って漫画を購入していたならば、漫画村が消滅したからといって「よくもやりやがったな!」などと思うはずはないのである。かつて自分だって金を払っていて漫画という創作物に敬意を払っていたのに、今更消えたからといって反感を覚えるはずがない。反感を覚えるとすればやはり@の分類の人間なのである。そして@の人間は元々金を払っていないし漫画村が消えても払う気はないので、さしあたっては業界に影響はない。

漫画村が利用者に残したもの

上で5つの分類を挙げてはみたが、単純な利用者の分類だけでは測れない見方もしてみる。

結論から言えば、確かに漫画村が漫画業界に良い影響を与えた部分もあるということは否定はできないわけだ。それは、「無料だから見る。無料でなければ見ない」という人間に対して少なくとも作品を周知させたため。
無料というようのは本当に強く、人間を引き寄せる。漫画村を利用しなければこの作品に出会わなかった、この作品を知ることができてよかった、と考える利用者はそれこそ数千、数万単位であるのかもしれない。

これは動画サイトの著作権侵害について話題になる時にもよく出てくる話である。例えばゲームの実況によりそのゲームの著作権は侵害されるわけだが、動画視聴者は「おかげでゲームを知ることができて購入することにもなったので業界も潤ったじゃん」などと言い、動画投稿者を擁護することもあるわけだ。

だが、これと漫画村の件とでは決定的に違う点がある。仮に漫画村で素晴らしい作品で出会えた!となりその人間が作品のファンになったとしても、その人間はだからといって作品を購入することにはならない。言うまでもなく、そのままそこで最新刊も含めて全巻見れてしまっていたからである。だからいくら作品にのめり込もうが金を落としてくれない。
なぜゲームに関しての著作権が議論はされても結局のところ現在も大方許されているかと言えば、ゲームはプレイしなければ大抵の場合は半分も楽しめないからだ。だが、プレイして初めて面白さが分かるゲームと違い、漫画に必要なのは「閲覧」それだけだ。閲覧だけで100%楽しめてしまう。だから「宣伝になる」と言って漫画村を擁護するのも不可能だった。

「不可能だった」と過去形なのは、漫画村が消滅した今はじめて、宣伝になるという擁護は現実味を帯びてきたから。上の利用者分類のA「無料で見ていたが漫画が恋しくなったので購入するようになる層」で書いた通りだ。漫画村は存続している限りは害悪でしかなかったわけだが、「全く漫画に縁がない人間に漫画を周知した上で消えた」という状況である今、初めて擁護が可能な状況となっているのである。無料で見るのが当然となっていた人々にとっての無料期間は漫画村消滅をもって終わり、これから彼らの多くが購入する可能性を秘めているのだから。

もちろん、存在している間に業界が受けた損害とそれが釣り合うかどうかはまた別の話だし、恐らく今後それが明らかになることはないだろうが。

結論

まとめると、漫画村が一定期間存在して消滅した今、漫画の売り上げが上がるかどうかと言えば、少なくとも短期的には上がると言えるだろう。

月間で億単位のアクセスがあったという漫画村は多くの作品を周知させ、多くのファンを作り出しただろう。しかしそのファンはだからといって作品にお金を落とすということにはならず、そのまま漫画村で最新話、最新刊を楽しむだけだったので金を落とすということはほとんどなかった。

だが、2018年4月をもって結局漫画村が消滅したので、好意的に見れば漫画村は「多くの漫画を日本国民に知らしめ、そして消えた」という状況となっているわけだ。今まで無料で見ていた人間がある作品の大ファンになったのだとしたら、彼ら彼女らは無料で見れなくなったからといって必ずしも「じゃあ興味ないよさよなら」となるだろうか?答えはもちろん否である。作品の続きが気になってしょうがない多くの人間が今後、紙の本なり電子書籍なりにお金を落とすことにもなるだろう。

例えば自分が今最もはまりこんでいる漫画作品に「ダンジョン飯」があるが、あの作品の新刊が発売されたとなれば、金のことなど忘れ忘我の境地で、「購入する」ボタンを押して電子書籍で購入している。他の作品ではいくらかでも迷うが、この作品に関しては全く躊躇はない。ファンになるということはこういうことであるし、漫画村の存在はこういう人間を確かに数多く生んだはずだ。消滅した今だからこそ、申し訳程度でも誉めてやれる点となる。

とはいえ冒頭に書いたようにこれはあくまで「漫画村以外に無料閲覧サイトが存在しない」限りにおいての極論ではある。今後も漫画村の代わりとなるサイトを求めて多くの人間がネットをさまようのだろうが、だが少なくとも図抜けた知名度を持っていた漫画村の消滅は無料閲覧者の数を激減させることには違いない。今までは「漫画村 〇〇(作品名)」で出ていたものが出なくなった。それだけで効果は絶大ではあるのだから。しかしこういった問題は20年前からのいたちごっこなので再びいずこかのサイトが漫画村と同等、それ以上に有名になり隆盛を極めるのかもしれない。

だが、いずれにせよ、漫画村が消滅した直後である今、こうしている間にも今まで無料で閲覧していた漫画村利用者は、漫画村を通して知った自分が気に入った作品に対してちゃんとお金という対価を払い、漫画を購入している。よって短期的にでも漫画の売り上げは上がる。自分の結論としてはこうである。

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