腕KAINA〜駿河城御前試合〜 -凡人の感想・ネタバレ-

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執筆日2016年01月09日

評論

南條範夫が執筆した小説作品である「駿河城御前試合」を扱った作品。作画は森秀樹という漫画家。
なんといっても有名なのは山口貴由が作画担当のシグルイだろう。しかし、この作品も同じ題材を扱った作品としてなかなか評価が高いため読んでみた。

あの有名なシグルイと同じ、徳川忠長が謀反の狼煙として開催した駿河城での真剣勝負の御前試合を扱った戦いだが、シグルイとの最大の違いは、御前試合の全試合が描写されるということ。シグルイを読んだことがある人なら知っていることかと思うが、あの藤木と伊良子の戦いは、駿河城御前試合におけるただの一試合でしかない。第一試合があの戦いなのであって、本来ならばあの後に10ほどの真剣試合が行われている。この作品ではそれらを1エピソードごとに綺麗に区切りをつけて、参加する剣士たちの背景や境遇を振り返ってから、一試合ずつ描写されている。二戦目はシグルイでも少しだけ「がま剣法」。最後は「鬼無朋之介の秘密」。
この作品は全4巻だが、各エピソードの収録内訳は以下のようになっている。内容はウィキペディアに個別ページがあってわかりやすいのでそちらを見るといい。

収録エピソード
1巻 第一話「無明逆流れ」、第二話「がま剣法」、第三話「判官流疾風剣」
2巻 第三話「飛竜剣敗れたり」、第四話「忍び風車」、第五話「被虐の受太刀」
3巻 第七話「鼻」、第八話「女剣士 磯田きぬ」、第九話「石切り大四郎」
4巻 第十話「望郷」、第十一話「鬼無朋之介の秘密(前編)」、第十二話「鬼無朋之介の秘密(後編)」

共通して、話と話の区切りには全話の敗北者の死体が片付けられるシーンが挿入されて次の対決が開始される演出になっている。そのためこの世の無常観が強く出ていて、また勝者も必ずしも幸福にならず、例えば「鼻」の勝者である禅智内供などは勝ったのに過去犯した罪の罪悪感により苦しめられることになる。

どれも面白いエピソードだが、この中でお勧めは、まず第三話の「判官流疾風剣」。どのエピソードも対決する者同士は複雑な事情を抱えているものの、このエピソードは単純に勧善懲悪的な色が強いので単純に見ていて爽快。

後は第八話の「女剣士 磯田きぬ」も。簡単に言えば、ろくなことをしてこなかった多情丸という男は過去に磯田きぬ(第六戦で出場する女剣士)と約束を交わしていて、多情丸が死んだ時には、きぬに看取ってくれるように頼んでいた。そして多情丸は御前試合で敗北するのだが、その場に偶然居合わせたきぬが自分を菩薩のような表情で見ていてくれたので満足して死んだ、というような話。余韻があって悪くない。

第一試合の「無明逆流れ」も、シグルイと比べると「え、こんなにあっさり簡潔なの」って思ってしまうような短い話にまとまっている。シグルイでは14巻ほどにもわたる物語となっているが、あれが一体どうやって1巻のうちの1/3程度でまとめられているのか?シグルイを読んだ人ならきっと気になると思う。藤木がそれほど無口でストイックってわけでなく、また三重が藤木を伊良子を殺すために利用しているにすぎない、というあたりが大きな違いだろうか。少し調べると、三重に関してはこっちの方がより原作に近い設定らしいが。とにかく、比べてみると面白いのでよければ購入してみよう。

項目別評価

絵柄はもう完全に劇画なので、それだけで見る人を選んでしまう。けれども、それだけで敬遠するのはもったいない。様々な事情で真剣勝負に参加した彼ら、彼女らの捨て身の生き様には感じ入ること間違いなし。特に、シグルイを読んだことある人にはお勧め。藤木と伊良子の戦いなど、いくつもある戦いの一つでしかなかったということが分かり、この世の無常さ、虚しさを感じさせる切ない群像劇となっている。

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